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2004.06.30

(8)

テーマ：最近観た映画。(41047)

カテゴリ：カテゴリ未分類

踊り狂う女とそれを止められない男。

女は舞台の上で椅子を薙ぎ倒す。
男はやはり止められない。
何も止められずマルコは涙を流していた。

ベニグノはその様子をアリシアに話す。
ベッドの上で昏睡状態の彼女を彼は介護する。
バレリーナだった彼女の姿をとどめるように
紅をさし髪をとかし優しくマッサージする。
そして彼は語り続ける。

女闘牛士は蛇が嫌いだ。
物凄く嫌いだ。
だがリディアは猛牛には敢然と戦う。
彼女が怖れる蛇を退治したマルコとの間に
芽生えたものは何だったのか。
二人は結局、
話し合う機会を失ったしまった。

リディアは怖れていた。
マルコに自分の気持ちを伝えることに。
蛇を怖れるように怖れていた。
だが彼女は闘牛士だ。

怖れを見抜いて。
彼女は二度と戻れぬ世界へ旅立つ。
昏睡状態の闘牛士にマルコは話しかけられない。

椅子を薙ぎ倒す女。
葛藤する女と止められず涙する男。

何もできずマルコはもがいている。
一方でベニグノの献身は続く。
アリシアはずっと踊っている。
彼の世界の中でずっと。

物書きと闘牛士と
バレリーナと介護士と。

リディアはもう語ることが出来ない。
マルコはどうしても語ることができない。
ベニグノは語り続けそして
アリシアのいる場所へいこうとした。

小さき男は扉を開く。
扉の向こうに彼女はいるのだ。
彼女に会いたい。
声も表情も動きも何もないが
彼女はきっと彼女のなかでずっと踊っている。
奧へ。

スペインの監督ペドロ・アルモドバル作品。
カエターノ・ヴェローゾ
とろけるような歌声が作り出す濃密な空気。
ピナ・バウシュは狂気と清冽さを踊りで見せる。
４人の男女と舞台と甘い歌声と。
幾重にも重なる世界は思わぬ収束と迎える。
何も話せずに泣いたばかりだった男と
再びバレエを踊ろうするバレリーナが
会話を始めている。

舞台にはベニグノがいる。
リディアもいる。いや、リディアがいるのが
別の舞台かもしれない。
世界は幾重にも重なっている。
甘い歌声の中で涙するリディアの心を
マルコはつかめなかったように。
ベニグノもまたアリシアと出会えない。

だがベニグノは二人の中にた。
アリシアとマルコの中に。