【戦争を児童文学で描く意義】
その意義の一つ目は、「理解とCompassion」を育てるというのがあると思う。このcompassion という言葉は「共感共苦」という訳語になるのではないだろうか。Compassionのpassionはもともとイエスの受難を意味する言葉で、接頭語comは“共に”という意味だからだ。そこからすれば、他者の悲しみや苦しみ、痛みに対する深い思いやりと理解、そしてそれを分かち合おうとする心の働きを意味すると考える。仏教でもその教えの根幹となる言葉「慈・悲」にLove・Compassionが充てられている。生きとし生けるものの悲苦を分かち合うということだろう。 また現代ではCharter for Compassion という世界憲章があり、 “核となる価値観”として世界45か国、311 地域が批准していることからも、人類ほとんどが共有する価値観と考えてよいのではないだろうか。
【児童文学 イコールBorder Crossingなジャンル】
もう一つの意義は、児童文学がBorder Crossing(超境界/境界無し)なジャンルと して位置付けられることにある。国際リテラシー学会(ILA)は 境界を越えることは人類の未来にとって不可欠であり、児童文学はその道 しるべとなる可能性を持っている。(Crossing borders remain essencial for our human future,and children’s literature holds potential for showing us the way.”) -JOURNAL, Vol. 51, No. 6 (Mar., 1998) Published By: International Literacy Association(ILA国際リテラシー学会) p504-
作者アニカ・トールAnnika Thor:について 1950年スェーデン イエーテボリ生。 1996年 En o I havet でデビュー。ステフィとネッリシリーズ4作の第3作目『海の深み』でニルス・ホルゲション賞。『海の島』『睡蓮の池』『海の深み』『海が開けて』)4作全てで2000年コルチャック賞受賞。 『ノーラ、12歳の秋』で1997年リンドグレーン賞受賞。 非常に力量のある作家である。