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2022.06.12
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​​​​​​​​​ ​Milkywayです。お元気ですか?
                              20220612

戦争・紛争という難しいテーマを取り上げた児童文学作品を数回にわたってとりあげる。
第一回目として、このテーマを児童文学というジャンルで取り上げるその意義と、先の大戦で言葉では言い表せないほどの犠牲を強いられたユダヤ人を主題にした作品について書く。

        【戦争を児童文学で描く意義】
その意義の一つ目は、「理解とCompassion」を育てるというのがあると思う。このcompassion という言葉は「共感共苦」という訳語になるのではないだろうか。Compassionのpassionはもともとイエスの受難を意味する言葉で、接頭語comは“共に”という意味だからだ。そこからすれば、他者の悲しみや苦しみ、痛みに対する深い思いやりと理解、そしてそれを分かち合おうとする心の働きを意味すると考える。仏教でもその教えの根幹となる言葉「慈・悲」にLove・Compassionが充てられている。生きとし生けるものの悲苦を分かち合うということだろう。
 また現代ではCharter for Compassion という世界憲章があり、 “核となる価値観”として世界45か国、311 地域が批准していることからも、人類ほとんどが共有する価値観と考えてよいのではないだろうか。

    【児童文学 イコールBorder Crossingなジャンル】
もう一つの意義は、児童文学がBorder Crossing(超境界/境界無し)なジャンルと
して位置付けられることにある。国際リテラシー学会(ILA)は 
       境界を越えることは人類の未来にとって不可欠であり、児童文学はその道
    しるべとなる可能性を持っている。(Crossing borders remain essencial
            for our human future,and children’s literature holds potential for
            showing us the way.”)
       -JOURNAL, Vol. 51, No. 6 (Mar., 1998) Published By: International  
               Literacy Association(ILA国際リテラシー学会) p504-

と表明した。児童文学は年齢、性別、民族、宗教、哲学、社会的、経済的、時代的な制約を受けずに共有できるジャンルだというのである。

そしてこのジャンルの特性として、シンプルな言葉で、普遍的なテーマを表現でき、しかも、大人の文学と異なり絵やイラストの持つ力を援用でき、大人の文学で使える挿絵以上の比重をもってテーマを表現できることがある。イラストにも本文にも高い象徴性も込められるから、読者によって受け取る深さは異なり、読むたびに発見がある作品ともなれるのである。

こうした特性をおさえつつ、いくつかの作品を以下で取り上げる。まずは二つの大戦で差別の故に多大な犠牲を被ったユダヤ人の子どもたちを描いた作品が、その犠牲者数を反映して、非常に多い。そのどれもが人間の良心に訴えかけてくるものである。

           【SARA’S FLIGHT】
一つ目にLorenza Farina、SARA’S FLIGHT 仮題『サラの旅立ち』 を紹介する。 イラストはSonia M.L.possentini、出版社はFatatrac。
強制収容所アウシュビッツに収容され、ガス室送りになった少女サラの日常から死までを、サラの友コマドリからの視点から描いている。
この作品は本文にもイラストにも、このジャンルの特性である高い象徴性をみることができる。冬枯れの木が収容所を象徴し、鳥たちは子どもたちを象徴する。コマドリは受難のイエスと最後まで付き従うという堅忍、compassionと愛を象徴し、キリスト教国では、聖画にもクリスマスカードにもよく描かれている。キリスト教徒ではない日本の読者には、それを読み取ることは難しいだろうが、それができなくとも、忘れがたい読後感を残す作品だし、年齢があがって再読するたびに新しい発見を味わえる作品だと思う。
小鳥の視点から語られるせいか、子どもの無垢さや悲惨な状況がいっそう際立ち、視点の使い方が功を奏している作品である。強制収容所の抑留者の状況を、子ども達に語り継ぐという確固とした姿勢が伝わってくる作品だった。

【アニカ・トール『海の島』】
新宿書房 2006年。
 1939年、ユダヤ人迫害の中で両親は、娘ステフィとネッリ二人を他の500人の子ども達とともに、スウェーデンの救済委員会経由で疎開させる。12歳のステフィと7歳のネッリは、別々の家庭で別れて暮らすことになる。言葉も習慣も、環境も宗教も違う場所での暮らしでいじめにあうステフィと、環境に順応する妹。二人の間に生まれる葛藤も描かれる。
読者対象は中学生からと思われるが、文章の密度も濃く、大人でも十分に読み応えのある作品である。

作者アニカ・トールAnnika Thor:について
1950年スェーデン イエーテボリ生。
1996年 En o I havet でデビュー。ステフィとネッリシリーズ4作の第3作目『海の深み』でニルス・ホルゲション賞。『海の島』『睡蓮の池』『海の深み』『海が開けて』)4作全てで2000年コルチャック賞受賞。
『ノーラ、12歳の秋』で1997年リンドグレーン賞受賞。
非常に力量のある作家である。

この作品の背景
第二次大戦中のスウェーデンは、大戦開始直後には中立を宣言するが、実際はドイツ寄りの政策をとった。しかし1942年、ヴァンゼー会議で、ナチスのユダヤ人にたいする「最終的解決」が決定され、ユダヤ人に対する迫害が過酷になったことから方針を転換し、ユダヤ人救出に舵を切ったという歴史的背景がある。

この時代背景の参考となる書籍に、小野寺百合子『バルト海の海のほとりにて』、ベルント・シラー『ユダヤ人を救った外交官ラウル・ワレンバーグ』、デボラ・ドワー『星をつけた子供たち』、クロード・ランズマン『SHOAH』などがある。

   【ジュディス・カー『ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ』】
評論社 1980  
高学年向きの作品で、ドイツ児童図書賞受賞。
主人公はユダヤ人で9歳のアンナ。父は高名な評論家。1933年ナチスが政権を取る選挙の直前、一家はスイスへと逃れ、そこから、フランス、イギリスへと渡る。この間の経済的な危機、父親が殺されるかもしれないという不安、母国語を失う苦難などに遭遇しながらも、世事に疎い父、家事に疎い母と共に亡命者として生きる姿を描いた。
この作品は3部作で、第2作目は15歳になったアンナが、空襲の激しくなったロンドンで亡命者として生きる姿を描いている。第3作は、大人向けである。
三作を通して年齢的にも内容的にもBorder Crossingな作品。

​        【アニタ・ローベル『きれいな絵なんかなかった』】​
ポプラ社 2002年。
ポーランドのクラクフでチョコレート工場を経営するユダヤ人家庭に生まれた主人公。5歳の時に、第二次世界大戦勃発。ナチスの迫害から弟と共に逃れ、はじめはばあやにかくまわれ、次には修道院にかくまわれての逃亡生活を送る。10歳で捉えられ強制収容所へ。生き延びて終戦とともにスウェーデンの療養所に送られ、そこで結核の治療を受ける。両親と再会後17歳の時、一家はアメリカに移住する。
作品ではこの間の不安、恐怖、悲しみ、飢餓、尊厳を剥ぎ取られた苦難の日々が克明に描かれる。ユダヤ人であることを隠していなければならない暮らしとその複雑な心情。ユダヤ教・カソリック・プロテスタントの信仰の中で揺れ動く心。ユダヤ人の習俗。そうしたものが、詳細に描き出される。
ユダヤ人のことを知らかったことに気づかされる作品だった。

 【ユリ・シュバルツ 文・絵 『おとうさんのちず』】
あすなろ書房 2009。
作者ユリ・シュバルツは1935年、ポーランドのワルシャワ生まれ。4歳でワルシャワを離れ、トルキスタン(現在のカザフスタン)で6年間、パリ、イスラエル、そしてアメリカへと移る。本書ではトルキスタンでの暮らしが描かれる。食べ物がない中で、パンの代わりに地図を買ってきた父親。そうした行為を恨みながら、地図で心を飢えを満たしていく少年。切ないが現実感迫る作品で、ユダヤ人や戦争による移民・難民のストーリーに共通する切なさがある。
同時に空想の世界で得る充実感を描き、想像力が救いであると同時に、その威力も納得させる作品である。理解とCompassionそして精神の自由を謳った作品で、私の好きなピーター・シスの作品にも同質のものを感じる。

まだまだユダヤ人の苦難をテーマとした作品はたくさんある。
このブログを読まれた方からも、情報をいただけたらと願っている。

次回のブログでは、民族紛争の中の子どもを描いた作品を取り上げたい。
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最終更新日  2022.06.12 23:01:52
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