笑って蹴飛し忘れてしまえ

流浪のハスラー (小説 1~23)

流浪のハスラ-


キースミゼラックストリックランド

(1)

夢に向かって全てを捨てて旅立つ健二
    ただ地獄の底に引きずり込まれるように
         単身アメリカに乗り込む1人の男
              全てを犠牲にして何を求めているのか
                        名声それとも金なのか

ハワイ


(2)

頭の上から車の通り過ぎる音が聞こえて来る
車の右手に高さ10Mも有る土手が通っていて、そのわき道に沿って車を走らせた。
暗く街頭もまばらにしか無い。
男は機用に細い道をライトの明かりを頼りに走らせる
暫く走らせると道の一角にライトに浮かび上がるシャレタ建物が見えて来た。
コンクリート打ちっぱなしの2階建ての住宅である。
建物の前には車が10台ほど止められるスペースが確保されている
その一角に車を滑り込ませた。
車を止めると男は胸のポケットからラッキーストライクを取り出して
火をつけた。
大きく吸い込んで静かに吐き出した
車の中は直ぐに煙草の煙で一杯になった。
男は気にする様子も無く煙草を吸い続けた。

めがね


(3)

男は車のドアを静かに開けた、
身長は180cmがっしりとした体格をしている。
後ろ手で車のドアを閉める、鍵に付いているリモコンロックのボタンを押すと
ピ、ピ、と二度程機械的な音を出すとガチャっとロックが掛かった。
後ろを振り向く事も無く男は店の入り口に歩き始める、
10mも歩くと入り口のドアの前に出た。
古いヨーロッパの家具を想わせるような、木目が風雨に汚され独特のムードを
かもし出している。
ドアの右上には剥き出しの裸電球が一つ剥き出しで淡い光を放ち
来る者に優しい光を投げかけている。
男はドアを静かに引いた。
小さな鈴の音がしてドアは開いた。
中に入ると壁と天上には間接照明そしてテーブルにはキャンドルライトが灯り
店内を演出している。
まだ時間が早いのかお客もまばらだ。
男は店内の奥の方に有るカウンターに向かって静かに歩いた。

フィラデルフィア

(4)

男は車のドアを静かに開けた、
身長は180cmがっしりとした体格をしている。
後ろ手で車のドアを閉める、鍵に付いているリモコンロックのボタンを押すと
ピ、ピ、と二度程機械的な音を出すとガチャっとロックが掛かった。
後ろを振り向く事も無く男は店の入り口に歩き始める、
10mも歩くと入り口のドアの前に出た。
古いヨーロッパの家具を想わせるような、木目が風雨に汚され独特のムードを
かもし出している。
ドアの右上には剥き出しの裸電球が一つ剥き出しで淡い光を放ち
来る者に優しい光を投げかけている。
男はドアを静かに引いた。
小さな鈴の音がしてドアは開いた。
中に入ると壁と天上には間接照明そしてテーブルにはキャンドルライトが灯り
店内を演出している。
まだ時間が早いのかお客もまばらだ。
男は店内の奥の方に有るカウンターに向かって静かに歩いた。

(5)

カウンターの反対側の風景
ジントニックを半分ほど飲み干しただろうか
背中でドアが開く鈴の音が聞こえる。
カウンターに向かって早足で歩いて来るハイヒールの音が店内に響く
ご無沙汰、背中に声がした。
後ろを振り向いた。
待たせたかな、
ロングヘアーのスラリとした体が目に入る
ごめんね仕事早く終わらせて来たつもりだったけど、
いや、今来たばかりだよ、まだ一杯めの半分だから
そう
私も同じ物を頂くわ、お願い
バーテンはジントニックを作り始める。

      ---人物紹介---
 黒田健二
  年齢 33歳 
  身長 185cm
  体重 80 キロ
  都内に3軒のビリヤードバー
     2軒のレストラン を所有
  プロプレーヤーとして表の舞台には立っては居ないが、
  腕前はプロに成ればトップクラスの実力で有る。

 松下道代
  年齢 28歳
  身長 170cm
  体重 52 キロ
  都内某TV局のキャスターとして5年に成る
  取材で黒田健二と知り合い付き合い始めて4年に成る
  局では容姿スタイル共に兼ね備える才女で有る。

2005-09-08 13:31:41

(6)

道代はジントニックのグラスを手に取り、静かに言った。
こんな風にジントニックを飲むように成ってから
どれ位経に成るかしら。
健二は顔を道代の方に向けると、
さあ俺と付き合い始めてからだから、もう4年になるかな
もうそんなに成るのね、私若かったのよね、
今だって十分に若いだろ
どうしたんだい
ううんどうもしない。
今日の道代は少し変だな。
うん、
だって健二 今日は何か特別な話が有るんでしょう。
わたし一日中気に成ってたの
どうかしたの
その時ドアが開いて4.5人のグループが入ってきた。
がやがやと店内が一度に騒がしく成る。
その騒がしさを背にして健二は迷って居る様だった。
その時後ろの客の一人が健二に近づいて来た。
黒田社長じゃ無いですか、
健二は後ろを振り向いた、そこにはビリヤードクラブの常連が立っていた。
今晩はと健二は頭を下げた。
常連客はお邪魔ですよね、そう言いながら、にこにこ笑みを浮かべている。
でも社長に一言激励を言いたくて
道代はその時、何故激励なのっと頭の中を暗闇がよぎる。

(7)

健二は少し慌てた表情に成ったのを気づかれ無いように横を向いた
社長がまさかアメリカに行ってしまうなんて、
本当なんですか
いや今日は連れがいるから又店でゆっくりとね、
そうですね、邪魔しちゃたかな、済みません
男はそそくさと自分の仲間の所に戻っていった。
道代は何食わぬ顔で話を聞いていたのだが、内心は驚きで噎せ返るようだった。
ごめん
今日はね、少し大事な話が有ったんだっけど、
話す前に先越されちゃたようだな。
やっぱりそうなの
本当に決めちゃったのね
済まない俺は諦めきれないんだ。
今ならまだ出来る
気力も体力も今なら大丈夫、これ以上今の生活をしていたら
きっと行けなく成ってしまう
そんな気がしてならない。
道代ごめん
これ以上何と言って良いのか
健二は何とも言い様の無い顔をした。
道代は何も言わずグラスのジントニックを口にした。
二人の間には沈黙の時間が過ぎて行く。
店内にはクラプトンのギターが切なく流れる。

ハワード

(8)

健二は少し慌てた表情に成ったのを気づかれ無いように横を向いた
社長がまさかアメリカに行ってしまうなんて、
本当なんですか
いや今日は連れがいるから又店でゆっくりとね、
そうですね、邪魔しちゃたかな、済みません
男はそそくさと自分の仲間の所に戻っていった。
道代は何食わぬ顔で話を聞いていたのだが、内心は驚きで噎せ返るようだった。
ごめん
今日はね、少し大事な話が有ったんだっけど、
話す前に先越されちゃたようだな。
やっぱりそうなの
本当に決めちゃったのね
済まない俺は諦めきれないんだ。
今ならまだ出来る
気力も体力も今なら大丈夫、これ以上今の生活をしていたら
きっと行けなく成ってしまう
そんな気がしてならない。
道代ごめん
これ以上何と言って良いのか
健二は何とも言い様の無い顔をした。
道代は何も言わずグラスのジントニックを口にした。
二人の間には沈黙の時間が過ぎて行く。
店内にはクラプトンのギターが切なく流れる。


晴海


(9)

健二は少し慌てた表情に成ったのを気づかれ無いように横を向いた
社長がまさかアメリカに行ってしまうなんて、
本当なんですか
いや今日は連れがいるから又店でゆっくりとね、
そうですね、邪魔しちゃたかな、済みません
男はそそくさと自分の仲間の所に戻っていった。
道代は何食わぬ顔で話を聞いていたのだが、内心は驚きで噎せ返るようだった。
ごめん
今日はね、少し大事な話が有ったんだっけど、
話す前に先越されちゃたようだな。
やっぱりそうなの
本当に決めちゃったのね
済まない俺は諦めきれないんだ。
今ならまだ出来る
気力も体力も今なら大丈夫、これ以上今の生活をしていたら
きっと行けなく成ってしまう
そんな気がしてならない。
道代ごめん
これ以上何と言って良いのか
健二は何とも言い様の無い顔をした。
道代は何も言わずグラスのジントニックを口にした。
二人の間には沈黙の時間が過ぎて行く。
店内にはクラプトンのギターが切なく流れる。

(10)

一口では語りきれないよ
今だから、こうして話が出来るけど
あの時は死んだ方が、
このままでは生きて居るのが辛い位だと
それしか考えられなかった。
それまでの人生は何だったんだろう、
何の為にアメリカに来たのだろう。
余りにも調子に乗りすぎていた為に自分が分からなく成っていた。
僕を見ていた友人の話だと、生きる屍とは当にこの事だと言っていた。
一晩で頭髪の半分は白髪になり、
口からは、よだれを垂れ流し
眼は真っ赤に充血して頭を垂れたまま
座り込んでいたそうだ。
そんな俺をみんなが運んでくれた。
おれはホテルで三日三晩起きなかったそうだ。
その後正気を取り戻すのに一週間も掛かった。
自分では何故負けたのか
どんなプレイをして負けたのか
その時は全然分からなかった。
今なら分かるけどね
私はゲームに関しては良く分からないけど
そんなに成るまでどうして続けたのかしら
それが人間を、つまり俺を引き付ける魅力なのさ
ポケットに吸い込まれる9ボール
入る瞬間の音
ズコっと音を出してポケットする。
それが調子が良いと音が変わるんだ
スコーン、ズバ
本当に吸い込まれて行くんだ。
吸い込まれた瞬間の相手の顔
なんとも言い様の無い悔しさを取り超えた顔
奥歯を噛んで顔に出さない様に堪えた顔
そんな駆け引きが
俺には堪らない魅力なのさ
普通のトーナメントでは無く
ハスラーの世界の駆け引き
日本のプールには無い
アメリカの裏社会でしか味わう事が出来ない世界
俺をあそこまで追い詰めた奴
もう一度帰って見たいのさ
私には理解出来ないわ
そうだと思うよ、普通ならね
1650

(11)

健二はひとしきり話を切ると
煙草に火を点けた、深く吸い込むと
静かに吐き出した。
煙はカウンターの上を舞い上がると
天井に付いた扇風機形のサーキュレーターに
吸い込まれて行く。
バーテンが目の前の灰皿を取り替えた。
道代が呟くように話始める
もう決めたのね
私が何を言っても、きっと駄目なのよね
分かってはいるけれど
何か寂しい気持ち
それと怖い気がするわ
道代にとっては、そうかも知れないな
でも俺は今、わくわくしている
考えただけで身体に震えが来る位だ。
そう、そうなのね
でも仕事はどうするの
すべて店は処分したよ
処分とは言っても各店舗の店長に譲ったよ。
みんな長い間よく仕事をしてくれた
それぞれ力量十分な連中だ
きっと上手くやって行くだろう
そう早いのね
道代は少し剥れた表情で言った
済まない
自分の気持ちを抑える事が出来なかった
済まない
私はどうすれば良いの
これからどうなるの
道代の声が大きくなった
健二は道代を諭すように話し始めた。

(12)

道代には仕事がある
それも今一番いい状況だと思うのだが
知り合った頃とは違い
今はかなりの数の番組をこなしていると聞いているよ
そんな道代を迷わす事など俺には出来ない
俺の身勝手な行動で迷惑は掛けたくない
ねえ私が迷惑だと思っていると--
何故言ってくれないの
一緒に来いって一言で良いのに
済まない
俺には出来ない
この先何が有るか分からない
地獄が待っているかも知れないのに
そんな勝手を道代には出来ない
黙って日本に残っていれば何も苦労は無い
好きな仕事で頑張っていける
俺の先には何も無い
上手く行っても名声も富も無い
残るのは只の自己満足だけだ
それも表舞台じゃ無く裏の舞台だ
下手をすれば表舞台には戻れない
日本に帰る事も出来ないかも知れない
でも健二は自信があるんでしょ
だから行くんでしょ
しかしそれは俺が思っている事で結果は分からない
それはそだけど
道代は如何すれば良いのか自分でも分からず歯がゆい顔をする
そんな道代の顔の前を
草の煙が、ゆらゆらと立上って行く。

オールドカウンター

(13)

店内が騒々しい
何時の間にか店内は満席に近い状態に成っていた。
何時もならグループの客は少ないのだが
今日はグループのお客が多いようだ
道代の様子を伺うように
グラスをカウンターに置きながら顔を見た
今までに見せた事のない辛そうな表情である
場所を変えようか
さり気なく言うと
黙って頷いた。
健二はカウンターの椅子から腰を外した
黙って入り口のキャシャーに歩く
道代もその後にしたがった。
会計を済ましてドアを押した
外から冷たい風が中に吹き込んできた
道代が小さな声で寒いとわ っと一言
健二はすぐに車を暖めるから少し我慢だな
頷きながら車に向かう道代の姿には
たまらない寂しさが漂う


(14)

部屋に入る
壁のスイッチに手を伸ばした
道代はその手を遮ぎる様に健二に抱きついていった。
優しく抱きかかえると暗がりの中に入る
そのままソファーに倒れ込むと
その柔らかい唇に愛無をつづけた。
しばしの時間がたった
健二は窓のカーテンを開いた
その窓の向こうには眼下に広がる夜景が広がる
時間が遅いせいか灯りの数は少ない
部屋の明かりが無いせいか、外の少ない明かりと
月夜の明かりが部屋の中を浮かび上がらせている
外を見ている健二の背後に静かに近づくと
背中に顔を埋める
いいよ行っていいよ
小さな声で自分を納得させるように呟きつづける
健二は後ろを振り向いて道代を抱きよせた。

高速

(15)

外の灯りは少しずつ消え始めている。
暗闇の中に身も心も吸い込まれて行きそうな気がするのは
自分だけなのであろうか。
道代の身体の温もりが伝わってくる
抱きしめた腕には道代の身体が小さな愛玩動物のように軽く感じる
それが健二には堪らなく愛おしく思える。
道代を抱き上げてベットにむかう
そのとき電話の電子音が鳴った。
一瞬出るのをためらう
こんな時間に誰だ
道代が気にしなくて良いのよと、小さな声で答えた。
抱き上げていた道代を床に下ろして受話器を取る
答える間もなく電話の向こうから慌てた声がする
すみません社長ですか
その声はビリヤードの1号店を譲った真人の声だった
どうした、こんな時間に
助けて下さい、大変なんです
もう手に負えません
良く分からないが、何が手に負えないんだ、落ち着け
真人の慌てた口調が少し落ち着いた
ヤンキーの野郎が店の客から大金を巻き上げて
それでも足りなくて社長を出せって騒いでるんです。
もう社長は居ないと断ってるけど聞かなくて
僕の腕じゃ無理なんです。
お客も払い切れずに泣いてるし、どうしたら
そんな事でこの先どうするんだ。
健二の口調はあくまで冷静だ
分かってますが、 すみません
仕方が無い、今から行くから
そう言うと健二は受話器を置いた
道代済まない、
少しばかり用事が出来た
先に休んでいてくれ、そんなに時間は掛からない
そういい残すと道代を残して部屋を出た。
道代には随分と冷たく聞こえたに違いない。
しかし健二の身体の奥に隠れている闘志を隠すことは出来ない。
健二は車に乗り込むと店に向かってアクセルをあおった。

miller

(16)

ハンドルを握る健二の頭の中は
ぼんやりとしていた。
何が起こっているのかは、想像が付く
店を譲った今、自分が出張って良いのだろうか、
本当は行かない方が良いのでは、
そんな考えが頭の中を駆け巡る。
程なく車は店に着いた。
店の看板は消え、
外は漆黒の闇に包まれ静寂の空間を保っていた。
健二はドアの取っ手に腕を伸ばす
ドアを押すと中はすぐに階下に下りる階段だ
下の方から微かに有線の音楽が聞こえる。
静かに階段を下りていくと
足音を聞きつけた店長が走り寄って来た。
社長、済みません
いいんだ
それで相手は
奥のテーブルです
店長は具合悪そうな顔で健二を見ている。
健二は店内に入って、奥のテーブルを見た
ジーンズにアロハ
金髪のぼさぼさの頭をした、いかにも不良外人
そんな感じの男がビールをラッパ呑みしていた。
健二に気がついたように
片手にビールを持ちながら近づいて来た
お前か、待ってたぜ
どいつも、こいつも話しにならねえ
俺はもっと金が欲しい、でっかく行こうぜ
男はそう言うとビールを呷った。
この酔った姿はブラフなのか本当なのか
健二はじっと見据えた。
良かろう幾らでやるね
男はビール瓶をテーブルに置くと
ポケットの中から金を取り出した
俺の持っている全部だ、
しわくちゃの金の束をテーブルに放り出した。
OK受けよう
ただしゲームは一回
勝っても負けても一度きり、それで良いかな
外人は薄笑いを浮かべて言った
OKよ俺は,
お前が良ければね
あたかも勝利を確信しているような言い方だ
健二は相手がもう駆け引きに入っている事は分かっている
健二は直ぐに始めよう
7セット先取りだ
そう言うと
傍のテーブルにボールを出すように店長に促した。

オールドカウンター

(17)

コーナーポケットに2番と6番が吸い込まれる
ボールがテーブルの上で動きを止めた。
健二は動きの止まったボールの位置に目をやる
盤上のボールにトラブルは無い。
 これでは健二の出番は無い
   相手のゲームで終わってしまうだろう。
奴は、健二を見てニタリと笑った。
 オイこれじゃ最後まで取りきっちゃうぜ、
      健二を挑発してくる。
レースはまだ始まったばかりである
 ブレークをしただけで相手は勝ったつもりか
早く撞きなよ、
 つきが逃げちまうぜ、
健二は何も問題など無い
 そんな顔で奴を見据えた。
奴が1番をコーナーポケットに狙い定めて
 キューをしごき始めた
真剣な目つきで狙いを定めている
 今の奴には回りの事など、きっと眼中に無いだろう
1番に向かって白いキューボールが撞き放たれた
スーっと手玉が1番に向かって走って行く。
1番はなんの問題も無く
 コーナーポケットに沈んだ
2番はブレークで盤上からは消えている
3番のボールもコーナーの前
 これも問題無し
順調にカラーボールはポケットされて行く。
ラストボールのナインボールだけがが盤上に残された。
奴がラストボールをコーナーポケットに捻じ込んで
ファーストゲームは終了した。
同時に周りの客がヒソヒソと話をし始めた
 きっとどちらが有利かゲームの進め方はどうなのか
  気になっていることだろう
普段は見ることの出来ない大きな賭け球
  気持ちを抑えきれないのは仕方の無いことだ。
健二は奴のプレイを見ても
 何も感じる事は無かった
  この程度の腕なら、ざらに居る
7セットの先取りはゲームとしては短期決戦の勝負だ
  先に波に乗った方が断然有利な展開となる
しかし健二は長い経験から
  勝負所は必ず来る、慌てる必要の無いことを良く知っている
静かに立ち上がると次のゲームの為
  テーブルに向かってラックを組み始めた。

(18)

カラーボールを両手で、しっかりと押さえ込む
協力な接着材で糊ずけされたように、ラックの中に固定された
三角のラックを外す
   そして左右前後から再度隙間が無いか、
ほんの少しの隙間が地獄に変わってしまう事を健二は良く知っている。

奴は最初のゲームを取ったことで自信を漲らせ
酒を飲んでいる。

健二はそんな奴の姿を見て思った
今までに限りない腕自慢の連中と対戦して来た
しかし必ずミスを犯す
  それは気持ちの緩みから来る油断だ
最初にリードすればするほど出てくる
   黙って待てば良い。
健二はテーブルから離れた

奴が立ち上がってテーブルの前に立った。
ラックを見ようともしない
そして
おい また取りきって終わりだな
  お前の出番は無いぜ
    そこでゆっくり座って待ってな
健二は黙って奴の顔を見た
 そこには、まだ1ゲームしか取ってないのに
 あたかも勝ったように、現金を手にしたかのように
 勝ち誇っている奴がたっていた。
奴は半笑いの表情で
 ブレークの体制に入った
   構えるより早くキューを突き出しす。
白いキューボールは
   一直線にワンボールに向かって行く
       あたかもレールの上を走るかのように 
         ズゴっと1ボールにヒットした
            カラーボールがサイドクッションに当たりながら
 テーブルの上に散らばって行く。

ボールが動きを止めた。
だが様子が変だ、
  ボールが1個もポケットしていない。
ヒットした時にほんの少しだけ、ずれたようだ
  少しのずれでもカラーボールは敏感に反応する。

奴は肩を少し上に上げて席に帰ったが
  表情には笑いの表情は消えていた。

俺は静かに席を立つと
  ジナキューを持って軽くしごいた。
    戦闘開始のゴングの音が頭の中に響きわたる

静かに
 テーブル上のボールの配置に目を移す
  ワンボールからラストナインボールまで
   トラブルは無い
最後まで撞き切るのに5分と掛からないだろう
  俺は奴に目も繰れず撞き始めた。

目をつぶっていても良いほど簡単な配置のボールだった

予定どうり
  オンタイム5分で撞き切った。

俺は何も言わず椅子に座った

奴がテーブルの前に立ってラックを始めた。


19

奴の顔から笑みが消えた
  あまりの早いランアウトで驚きを隠せない様子だ

俺は静かに奴のラックを待っている
  自分とは比較に成らない各下の相手なのは
    勝負を始める前から分かり切っていたことだった。

しかし相手には気ずかれ無いように
  黙ってポーカーフェイスを通す
    それがハスラーの真骨頂なのだ。

ラックが終わってシートに奴が座り込んだ瞬間
  俺は席を立ってプールテーブルの前に立つ
    ラックの確認を終わるや否や
      思いっきりキューを繰り出した。

カラーボールは見事なまでに
       テーブルの上を舞って行く
一度のブレークでボールが3個ポケットしている
  最高のブレークだった。

奴は顔を横に向けて
   テーブルを見ようともしない
音を聞いただけで
   ポケットにインした事は分かっている筈だ。 

健二はプールテーブルを回りながら
      ボールの配置を確認して行く 
前回同様なんのトラブルも無かった。
   健二は奴には目も繰れずにボールを撞き始める
     前回同様に
       あっと言う間の出来事のように取りきった

カウント  2-1 で健二

奴が苛立ちながらラックを組み始めた。

健二はそんな奴の姿を見て昔を思い出していた。
  哀れみの気持ちなど
    持ち合わせては無いはずなのに
      何故か空しく成って来る自分に気が付いた

これから裏社会、ハスラーの世界へ
   カムッバクするつもりの自分が、
     なぜ空しい気持ちに成っているのだろうか

ギリギリの瀬戸際で
  駆け引きのやり取りをする
    そんな相手では無い
      ただのチンピラだ。
こんな奴を相手に勝負する程の事は無かった
  こんな奴相手に何故

健二は勝負の仕方を変える事にした。

ニック


20

ラックを終わって奴はテーブルを離れた。
  かなりの苛立ちを隠す事は出来ない
    たった2ゲームを取られただけで
      冷静さなど何処に行ってしまったのだろうか。

奴のセットしたラックを確認する
  やはり苛立ちが出ている。
    ラックには隙間が、微かに微妙では有るが

俺の気持ちは、またまた落ち込んで行く
   情け無い、もう勝負を捨てる気なのか

これでは9ボールをブレークで沈める事など
             簡単な事では無いか

今の今まで奴に少し花を持たせてやろう
   そう決めていたが、これでは馬鹿に花を持たせる事に成ってしまう
健二は逆に早い決着を付けることに
   気持ちを変えた

もう健二に哀れみ等の感傷は無い

思い切ってブレークをする
  思い通り9ボールが真っ直ぐにコーナーへ
       ブレークイン 3ゲームは
       たった一撃で終わってしまった

ゲームカウント  3-1 で健二

健二はもう何も考えて無い
  今はこの試合を早く終わらせる事のみである

奴はラックに手間取っている

そんな奴に健二は仕掛けた

早くしろ、俺の女神が逃げない内にな
   もうお前にチャンスは無い
     ただラックをするだけがお前の仕事だ

奴は健二の方をチラリと見たが
   何も言う事が無い、苛立ちの表情をするだけだった。

そのままゲームは健二のペースで続いた

    6-1 で健二

ファイナルゲーム
  健二のブレークからスタートだ
    このゲームを取れば健二の勝ち
      奴の有り金は健二の物となる。

流浪のハスラー(20)

ラックを終わって奴はテーブルを離れた。
  かなりの苛立ちを隠す事は出来ない
    たった2ゲームを取られただけで
      冷静さなど何処に行ってしまったのだろうか。

奴のセットしたラックを確認する
  やはり苛立ちが出ている。
    ラックには隙間が、微かに微妙では有るが

俺の気持ちは、またまた落ち込んで行く
   情け無い、もう勝負を捨てる気なのか

これでは9ボールをブレークで沈める事など
             簡単な事では無いか

今の今まで奴に少し花を持たせてやろう
   そう決めていたが、これでは馬鹿に花を持たせる事に成ってしまう
健二は逆に早い決着を付けることに
   気持ちを変えた

もう健二に哀れみ等の感傷は無い

思い切ってブレークをする
  思い通り9ボールが真っ直ぐにコーナーへ
       ブレークイン 3ゲームは
       たった一撃で終わってしまった

ゲームカウント  3-1 で健二

健二はもう何も考えて無い
  今はこの試合を早く終わらせる事のみである

奴はラックに手間取っている

そんな奴に健二は仕掛けた

早くしろ、俺の女神が逃げない内にな
   もうお前にチャンスは無い
     ただラックをするだけがお前の仕事だ

奴は健二の方をチラリと見たが
   何も言う事が無い、苛立ちの表情をするだけだった。

そのままゲームは健二のペースで続いた

    6-1 で健二

ファイナルゲーム
  健二のブレークからスタートだ
    このゲームを取れば健二の勝ち
      奴の有り金は健二の物となる。

オールドトーナメント

流浪のハスラー(21)

健二はこのゲームを取れば 終了
  簡単な事だ
   奴にはゲームを取り返す力は残ってない

最初のゲームを取っただけ
   それ以降一度もキューを握っては無い
     それも奴の運命なのかも知れない

健二は一抹の寂しさと空しさを抱きながら
  テーブルの前に立って
    盤上を見つめて立ち止まった。

奴は最後の罠を仕掛けて居たようだ
  それも子供騙しの単純な罠
    気づかれ無いと思っているのだろうか

しかし最後の悪あがき
  まだ時間は十分ある
    健二は相手の罠に乗ってやる事にした

ブレークをする
  ノーインのつもりが2ボールがコーナーに
  健二の読みは、ノーイン
    読みきれて無かった。

しかも1ボールの後はトラブルに成っている
  うかつに1ボールをコーナーに落とせば
    その後の展開は読めなくなってしまう

丁度良い
  ここでセーフティをかけて奴の出方を見よう
    健二は1ボールをサイドクッションを使い
     反対側に撞いた
       これでポケットは出来ない

健二は首を振りながら
  へいチャンスは無いと思うが
      まだ撞く気は有るのかな

表情を変えずに、そう言い残してシートヘ戻る

やつは周りなど眼中に無い
  このゲームを落とせば全て終わり
    無一文に成って店を出て行かなければ成らない
決してそんな事は許せる訳が無い。

奴は必死の形相でテーブルの上を睨みつけている
 たとえ1ボールをポケット出来なくても
   俺に対してイージーボールは残せない。

残せば今の状態では取りきられてしまうで有ろう

時間が通り過ぎて行く
  しかし奴は盤上を見つめて動かない
    額から汗がにじみ出ている
   やつの心の中は怒涛のごとく荒れ狂っているのであろう
そして
  意を決したように
    キユーを繰り出した

白いキューボールは
  健二は はっとした

キューボールは1ボールでは無く
   反対側のクッションに向かっている

その動きを見て
  健二は今盤上で起ころうとしている
    全ての事を理解した。
そして次の瞬間には
  この1ゲームは落としてしまったと

奴のとんでもない発想から生まれた
  1つのシュートはゲームの流れを変えてしまうのか。  

2005-10-11 15:25:28

(22)

奴はたった一撃で
  盤上の流れを変えてしまった。

このレースに負ける事は
  奴にとっては死活問題であろう
   今までの小遣い稼ぎが出来なく成ってしまう

俺は黙って流れに目をやった
  盤上のトラブルは少しは有るものの
    時間をかけて解決している
       最後のあがきかも知れない

 6-1 から 6-4まで来た

しかし奴の顔からは余裕は感じられない

今の奴の心境は
  ただ、ひたすらに撞く
   撞いて撞いて突きまくる
     それしか残された道は無い

今ただ一球のミスが
  自分の負けを意味する

健二は落ち着いていた
  奴には5ゲームを撞き切る力は無い
   最後にチャンスは来る  必ず来る

焦らず待つ
  健二の顔には何も無い
   心の中を見透かす事は誰にも出来ない

周りの客の誰1人として
  健二に声など掛ける者も無い

奴の時間は長い
  もう2時間を過ぎた
    そろそろ来るかもしれない
      肩で息をしはじめている

健二は落ち着いてジナキューを拭く
  そして奴に見えるように手の汗をふき取る

早く来い
  お前の時間はもう終わりだ
    もう休んでいいぞ
      早く来い

健二は奴に見えるように
  オーバーな仕草をする

奴がチラリと健二を見た
  目が赤く充血している
    限界が近づいてきた様だ

健二は初めてニヤリと笑った

おい何がおかしい
  待ってろ、その顔を泣きっつらに変えてやる

健二はおかしかった
  奴が挑発に乗った
   緊張の糸が切れるのも、もう直ぐだ

その時 カスっと変な音がした
  やはり奴は糸が切れた
            ミスキューだ

  6-6での痛恨のミスだ

残りが3個
  ミスキューで7ボールがコーナーポケットの角に当たったのだ

奴はキュー尻を床に叩きつけた
  ドスっと鈍い音をたてた

健二は何も言わず
  残り3個を取り切った

  7-5で健二の勝ち

簡単な勝負だった
  しかし回りの客は凄いレースだと思っている

健二の本当の強さなど誰も知らない。 

24話につづく


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