waiting for the changes

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第1話「覚醒」


どこへ行くにも。
どんなときでも。
まだ幼かった頃、彼女が腰に手を当てて指を青空に突き上げた。
「あたしは宇宙に行く!!」
「どうやって?」
「・・・うーん」
そして、時は過ぎて彼女は傭技専に進学を決めた。
追う様に2人で傭技専に入った。
何もかもが新鮮で楽しくて、時はあっという間に過ぎた。


3人がいい。
ずっとこのまま。
ずっとこのまま、3人でいられると信じていた。


あの頃。




「もうひとつの物語」


第1話


世界政府軍の格納庫に明かりが灯される。2機のGが照らし出された。
「これが“ジェミニ”!?すげぇ!!」
エイトは赤と青の2機のGを見上げて感嘆の声を上げた。デジカメを探そうと灰色のパーカーのポケットに手をつ込んだが見つからず、ジーンズのポケットを探して右の後ろのポケットからカメラを取り出して1枚写真を撮った。口が開きっぱなしのエイトの横でアキラが笑う。彼は黒の少し長めの髪に黒いジャケットと白いワイシャツに黒いネクタイ、黒い細身のパンツを身に纏っていた。細身のアキラがより細く見える。
「間抜けな顔しやがって」
「・・・うるせー」
アキラに指摘され口を閉じてエイトが照れた。2人の直ぐ後ろから女性の声がした。
「ちょっと2人とも?はしゃぎ過ぎよ」
「・・・姉ちゃんか」
腰に手を当ててヒカリがため息をついていた。チラリとおへそが見えているレースが施された薄いピンクのキャミに、かなり短い黒いミニスカートに黒いブーツ。背は2人よりも高く、スタイル抜群で傭技専でもみんなの憧れの的だった。今度はアキラがため息を付いた。
「姉ちゃんまたそんな格好して。・・・あんまり挑発するなよ?」
「いいでしょ別に。・・・別にあなたたちに見られたって何にも変わらないでしょ」
キャミの肩紐を引っ張って、ヒカリが鼻を鳴らして言ったが、エイトは“ジェミニ”にカメラを向けていた。どうやらヒカリに気付いていないようだ。ヒカリはエイトの背中に話しかけた。
「えーくん?」
またフラッシュが焚かれた。
「・・・ねぇ・・・えーくんてば!!」
「ん?うお!!・・・ヒカリさん!?・・・何か用?」
「・・・もう」
2人してため息を付く姉弟を見てエイトは首を傾げていた。


「ホントにいいいのね?」
「ああ、俺は“サンダー”で十分だよ」
ヒカリにもう一度確認され、アキラは頷いた。“サンダー”とは“ガーディアン・ファクトリー”、つまりGF製のGだった。レベルの高いハイジェンを基本フレームとし作り上げられたそのGは“GF”の中でも、高次元でバランスの取れた名機と言われている。青いジェミニのコクピットにはすでにエイトが座っていた。キーボードを弾いて自分のセッティングに合わせる。グロウより格段に性能がいいジェミニにエイトの胸が高鳴った。頭部をスライドさせ、上から入り込む形のコクピットに逆さまになったヒカリが顔を出した。彼女の長い黒髪が顔に触れてエイトは顔を上げた。直ぐ上にヒカリの顔があって思わずエイトは体を仰け反った。エイトの顔が赤くなる。
「うおっ!」
「そんなに驚かなくてもいいでしょ」
少し膨れたヒカリを見てエイトは唸った。小さく咳払いをしてちゃんとシートに座りなおした。
「セッティングしとかないとな・・・ヒカリさんは終わった?」
エイトはヒカリの顔を見上げながら言った。にっこりと逆さまの彼女は微笑んだ。
「うん、もちろん!」
そう言うと彼女は顔を引っ込めた。と、今度はヒカリの長い足が滑り込んできた。強引にコクピットに潜り込んで来る。
「ちょっと!おい!?」
「ほら詰めて!入れないでしょ」
横に避けようと必死のエイトの膝の上にヒカリは乗ってきた。ここしか場所がないと言うような顔で振り返ってくる。
「狭いわね」
「ヒカリさんが入ってくるからだろ!」
「だってー・・・」
膨れたヒカリを見てエイトはため息を付いた。

綺麗な長い黒髪がヒカリのトレードマーク。
いい香りがする。コロンだろうか。
それは懐かしい匂いがした。
彼女の後ろ姿は見慣れている。
幼い頃この背中に負われて帰った家までの道。
まだ緑が多く残る山村で3人は育って、いつも3人で遊んでいた。
彼女は地元中学でなく傭技専に進むと言い出した。
エイトとアキラは猛勉強し、彼女にあこがれて同じ学校に進んだ。
ヒカリはエイトにとって自分の目標そのものだった。

ヒカリはエイトのセッティングを見て何か考え始めた。キーボードを叩き始めた。
「何するんだよ!?」
「まあまあ・・・エイトはこういうセッティングの方があってると思って」
そう言うとヒカリは少しだけエイトのセッティングを直した。振り返りながらヒカリは言う。
「一応、隊長ですから。エイトのクセは、よーく知ってるし」
歯を見せてヒカリは笑った。エイトは「どいてくれ」と言おうとしたが、止めた。言ったら最後、余計引っ付いてくる上にアキラにまでチクりかねない。膝の上で真剣にモニターと向き合っている彼女の横顔をただエイトは眺めていた。と、その視線に気付いたのかヒカリがエイトの方を向いた。
「ん?」
「いや・・・変わらないな、って」
エイトが小さく笑いながらそう言うとヒカリは黒髪をさっと払ってふっと笑った。
「どう?女っぽくなった?」
「そうか?」
「え?」
何気ないエイトの言葉にヒカリの顔が曇った。それをエイトは気付かなかった。エイトは頭を掻きながら言った。
「だって、ずっと一緒にいるから、ヒカリさんはヒカリさんにしか見えないし」
「もー、女心が分かってないなぁ」
そう言って膨れるとヒカリはモニターに向き直った。いくつか設定を変更し、エンターキーを押した。システムがインストールされて、「コンプリート」の文字が表示される。ヒカリはモニターを指差してエイトの方を向かずに言った。
「これさぁ、なんでカタカナとか日本語使うのかなぁ。英語のほうがカッコイイのに」
「俺はこっちのほうが読みやすくていいけどね」
「おーい!姉ちゃーん、どこだー?」
外からアキラの声がした。ヒカリはひょいと身軽に外に出て行こうとして、入り口のところで止まって、下を向いた。
「見た?」
「何を?」
とエイトがヒカリを見上げてその意味が分かった。短いスカートを押さえている。
「・・・呼んでるって」
「わかってるって」
ヒカリが出て行ったのを見送ってエイトはため息を付いた。
「なーにー?」
エイトはモニターを見た。
そこにはメッセージが添付されていた。
そのファイルをエイトは開いた。


「えーくん!左!」
「了解!」
青いジェミニがブレードを振った。一閃、地上に特化した装備をしたグロウが真っ二つに斬れた。上半身が向こう側に崩れていく。青いジェミニの背後を別のグロウが取った。が、砲撃を受けて爆発する。大型のライフルを構えたサンダーがライフルを担ぐのが見えた。
「アキラ!えーくん!行くわよ!」
「了解!」
「了解」
コクピットで青いパイロットスーツ姿のヒカリが叫んだ。アキラとエイトも同じおそろいの青いパイロットスーツ。同時に頷いた。赤いジェミニを挟んで、青いジェミニと青いサンダーが並ぶ。オペレーションによって、反政府軍の拠点に攻撃を仕掛けていた。
「出てきたわ・・・あれが本隊よ」
「・・・カミノ少尉!」
「はい!」
ヒカリに通信が掛かる。このエリアの攻撃指揮官だった。
「そちらの小隊は東側から攻撃してくれ!こちら側にひきつける」
「了解!」
エイトとアキラもその通信を聞いた。ペダルを踏み込んでエイトが先行した。この機体は乗っていてわくわくする。機体性能も申し分ない。反応速度もパワーもグロリアスとは段違いだった。
「ちょっと!えーくん!」
「おい!・・・くそっ」
青いジェミニを追いかけて赤のジェミニと青いサンダーが追いかけた。
「アキラ!」
「わかってる」
途中で作戦通りアキラは後方に下がり、配置に付きに行った。基地の倉庫の間を抜けるように地面をすべる青いジェミニに赤いジェミニが追いついて制した。ヒカリがエイトに向かって叫んだ。
「もう!ちゃんと命令を聞いて」
「・・・ごめん」
その時、エイトは不思議な感覚にとらわれた。
その感覚がする方向を向いた。
爆発が起きている。
何かを感じる。
・・・呼んでいるのだろうか?
「・・・えーくん?聞いてる?」
ヒカリの言葉に呼び戻されたエイトははっとした。頭を振ってヘルメットを2回平手で叩いた。
「・・・あ!くそっ!」
もう一度集中し直す。今のことは忘れて前の敵を見た。アキラが配置に付いた。
「・・・隊長、ポイントに到着」
「うん、指示があるまで待機」
ヒカリがその方向に視線を移しながら言った。エイトは操縦桿を握りなおした。手袋の中に汗をかいているのがわかる。反政府軍がこちらには気付かずに真っ直ぐ本体を攻撃し始めた。アキラはスコープを除きながら微調整をしていた。反政府軍のグロリアスやスロウがスコープ内に入る。距離と位置を確認し、狙いを定めて乾いている唇をなめた。後方支援の部隊と距離が開き始めたその時だった。指揮官からの指令が飛んだ。
「今だ!!」
「GO!!」
ヒカリの合図に反応し、エイトはペダルを踏み込んだ。青いジェミニが加速する。すぐ後ろには赤いジェミニが続く。
「9時方向から攻撃!!」
「何ぃ!?ハメられたか!?」
サンダーのロングライフルが火を噴いて、グロリアスとスロウを沈めた。爆炎を突き破り赤いジェミニがブレードを振りかぶった。
「はああっ!!」
スロウがまた1機斬りおとされる。突然背後を取られたグロリアスはどうすることもできなかった。そこには青いジェミニがいる。
「行けぇ!」
1機のGをそのまま斬ると、それに順じていたグロリアスが振り返ってライフルを放った。それを回転しながら回避したジェミニはブレードによる突き攻撃を繰り出した。すぐさまグロウが反応し、ブレードで青いジェミニに対して突きを繰り出したが、エイトはそれをも見切っていた。更に一歩踏み込み機体を沈み込ませた。頭部ギリギリの場所をブレードが掠めたが、そのまま立ち上がって下から上向きに斬り上げた。
「・・・バケモノか」
「ナイス!えーくん!」
ヒカリが隊長機であろうシャイニングを斬りながら笑った。スコープから目を外してアキラはふっと笑う。エイトのGの格闘センスは目を見張るものがある。格納庫の扉が開きゆっくりと男が目を開いた。その目は緑色をしている。
「・・・隊長」
「5分でケリをつける。・・・あの赤と青の・・・青。あれは俺がやる」
男は青いジェミニを睨んだ。あの動き、間違いない。・・・あの動きは“同類”だ。エイトもその感覚を受けた。さっきの感覚だった。
「やっぱり気のせいじゃない!?」
エイトはその方向をみた。さっきまで居なかった黒いGがこちらを向いていた。コクピットで男が眉間にしわを寄せた。どこかで感じたことのある感覚だった。そうこれは・・・。男は突然笑い出した。
「・・・そうか!お前は・・・奴の!」
突然繋がった通信にエイトは驚いた。が、それは通信ではなかった。突然頭の中に声が響いてきたため、それを通信とエイトは勘違いしてしまうほど鮮明な声だった。
「な・・・なんだ?これは」
突然のことに動揺するエイトのジェミニは完全に動きを止めた。動かなくなったエイトは格好の的となってしまう。
「アイツ・・・!!」
「動きが止まった!?今だ!!」
「おい!?どうした、エイト!!?」
歯をかみ締めアキラはスコープを覗いた。ロックすると微調整せずにすぐさま引き金を引いた。そうでないと間に合わない。サンダーから発射された弾丸は斬りかかろうとしていたグロウの右腕を辛うじて吹き飛ばした。異変にやっとヒカリも気付いた。
「えーくん!?」
踵を返した赤いジェミニは真っ直ぐ青いジェミニの元に向かった。ヒカリは必死で通信を掛けた。
「応答して!えーくん!答えて!!」
エイトにその声は聞こえなかった。男は語りかける。
「何だお前は・・・これは・・・」
「お前は、あってはならない存在」
「・・・何?」
男の言葉にエイトの思考は止まる。意味が分からない。サンダーが支援しながら赤いジェミニが青いジェミニを取り囲んでいたGを倒しに掛かった。
「くそ!たった2機に何を手間取っている!?」
「ですが、砲撃が・・・」
言い訳をした部下に対して反政府軍の隊長は叫ぶ。
「まずはこの2機を倒せ!砲撃機には私が向かう」
「り、了解!」
ちょうど壁の死角に入りジェミニたちが見えなくなった。アキラは小さくした打ちした。
「チッ・・・まずい・・・下がるか」
サンダーはゆっくり立ち上がると素早く後退していった。


「・・・知らされていないようだな」
男は静かに続けた。黒いGはどうやらグロリアス・バーサスのファーストモデルだった。
「何を・・・」
ふっと男は笑うと、衝撃の言葉を放った。

「お前は私のクローン・・・このルス・トヨタの8番目のクローンだ」

「な・・・に・・・」

エイトは奈落に突き落とされたような感覚を覚えた。
クローン。
俺がクローン?
・・・8番目?しかもアイツの!?
ルス・・・・トヨタ?
あのルス・トヨタ・・・?
そんなはずはない。
俺には家族もいる。思い出もある。
そんなはずはない。

「そんなはずはない!!」
エイトは腕を振りかぶって叫んだ。ペダルを踏み込んで黒いグロリアス・バーサスに突っ込んだ。グロリアス・バーサスもブレードを抜いてぶつかり合う。
「ほう・・・やるな」
が、グロリアス・バーサスの方がパワーが上なのか押し返され、吹き飛ばされた。その滑らかな動きは人間の動きそのものだった。
「えーくん!?・・・アイツ!!」
それを見てヒカリは黒いグロリアス・バーサスにライフルを放った。簡単にされるのを見て小さく唸った。赤いジェミニはブレードを構える。
「よくもえーくんを!」
「・・・さっきから目障りだな」
ルスは赤いジェミニを睨みつけた。ざらつくような感覚。消し去りたい。
「死ね」
「え」
あまりにも素早い攻撃にヒカリは反応できなかった。ブレード攻撃が弾かれ、バランスを失う。そこにブレードが振り下ろされようとした瞬間だった。死を覚悟したヒカリは目をぎゅっと閉じた。・・・ゆっくりと目を開くとそこには青い背中が見えた。エイトのジェミニだ。ヒカリの顔に笑みがこぼれる。
「・・・えーくん!」
エイトがうつむきながら呟いた。
「・・・俺がクローン・・・そんなの知るわけないだろ!」
グロリアス・バーサスのブレードを弾き飛ばすと蹴り飛ばした。その滑らかな動きは人間の動きのようだった。
「ぐおっ・・・」
「ヒカリさんは・・・俺が守るんだ!!」
ゆっくりと開いたその目は深い緑色をしていた。ルスはその感覚を受け高く笑った。
「はははははっ!!ついに覚醒したか!・・・エイト・・・さすがだ」
「何がおかしい!?」
エイトが叫び返し、ペダルを踏み込んだ。予想以上の力の反応にルスは喜んだ。
「これはいい・・・こいつにする」

不思議な感覚だった。
すべての世界が少しだけ遅く流れているようだった。
意思が伝わる。
ジェミニの限界が分かる。
相手のことも手に取るようにわかる。
同じ感覚。気持ち悪いほど自分と同じ感覚があった。
背中にはヒカリの視線も感じる。
これが噂に聞いた“イクシーダー”だろうか。


ルスはペダルを踏み込んで一気に距離を詰めた。ジェミニのブレードを弾き上げる。
「くっ!」
「ははっ!!もらった!!」
グロリアス・バーサスは両手でジェミニの腕を掴んだ。
「ハッキング!!」
「な・・・ぐあああああ!!!」
自分の中に何かが流れ込んでくる感覚。
体の中をぐちゃぐちゃにかき回されている感覚だった。
あまりの気持ち悪さにヘルメットの中にエイトは吐いた。
「げはっ」
頭の中にルスの声が響く。
「お前は俺がもらう!!」
「やめ・・・ろ」
ジェミニがエイトの体とリンクして痙攣を起こし、びくびくと震えた。それを見てヒカリはジェミニを立ち上がらせて叫んだ。
「えーくん!!」
「無駄だ」
「きゃああっ!!」
裏拳のように殴り飛ばされ、赤いジェミニはよろめいた。それでもヒカリは諦めなかった。エイトがピンチなのは分かる。どうすることもできない自分が歯がゆかった。ただ見ているより、必死にあがいた方よっぽどいい。何が起きているかはよく分からないが、エイトを助けたい。ただそれだけだった。
「もう少しだ・・・」
「く・・・」
世界が黒く染まっていく。薄れ行く意識の中、誰かが呼んでいる声がした。遠くで叫んでいる。それはだんだんと大きくなり、耳元で叫ばれているかと錯覚するほど大きな声に変わった。
「えーくん!!」
「・・・!!」
エイトは目を開いた。ルスの力を一気に押し返した。
「何!?」
信じられないような力で押し返されルスはたじろいだ。あっという間に“自分”に戻される。エイトの声が頭に響いた。
「・・・お前・・・俺がお前のクローンだって言ったな」
「・・・ああ」
「違う」
エイトの言葉にルスは驚いた。
「お前はオリジナルじゃない!!お前は3番目だ!!」
さっき流れ込んできたルスの感覚で確信した。というより、分かってしまった、分かるようになっていたというほうが正しかった。エイトは操縦桿をスライドさせた。身動きできなくなっている黒いグロリアス・バーサスに青いジェミニはブレードを振り下ろした。
「バカな・・・私が3番目・・・だと」


黒いグロリアス・バーサスは爆発した。
この基地の攻略戦はこの一撃で幕を閉じた。




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