waiting for the changes

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17話:欠けたモノ


「上からの情報だ。我々はフロートの襲撃に成功したが、そこにあの“赤い鷹”が現れ全てを破壊した」
「翼君の友達が殺したって言うの!?」
翼は静かに「昔のだ」と答えた。
「ねぇ、ブリッツェン艦長!?嘘なんでしょ?」
「事実のようだ。彼の所属していた部隊長の機体の残骸が発見されている」
「・・っ!」
ヴィラは机を殴って立ち上がりブリッツェンに詰め寄ろうとしたがバラッドに止められた。翼は椅子に座ったまま、静かな怒りのこもった声でブリッツェンを睨み見つける。
「レッシュが・・・エデン・チルドレンとはな。あの存在は消すのが正しいのか?」
「私にも詳しいことは分からん。だが、“J”も連行されて行った。一通り検査されたら命はないと考えたほうがいいな」
「・・・おい、Jが連れて行かれただと!?んなことは俺は聞いてねぇぞ!!?」
翼は、今度はバラッドを睨みつける。バラッドは一度目を伏せた後静かに答えた。
「“隠れ家”に着いたら特殊部隊がいた。こっちは銃を突きつけられて、どうしようもなかった」
「くっ・・・」
翼は立ち上がり拳を壁に叩きつけた。凄まじい音がして鉄製の壁が少しだけ凹む。やはりエデン・チルドレンの存在自体があってはならないのか。壁のほうを向いたまま翼の翼にブリッツェンはあのことについて聞いた。
「その“F”・・・いや、レッシュと言ったか・・・。あの赤い機体アレだが・・・」
「ああ」
「わかってる。あの機体は危険だ。それに一撃で戦艦2隻を沈めた銀色の銃・・・あっちの方がヤベぇ」
そこにいた3人はそれだけでその意味を理解した。バラッドとヴィラは目の前では見てはいないが、後の映像でその威力を見せ付けられた。あれほど高威力で安定したエネルギー兵器は見たことがなかった。更に連射も出来る。
「確かにね。しかもそいつは“F”なんでしょ?・・・絶対に殺すわ」
ヴィラは唇を強くかみ締めモニターに映し出された赤い機体を見る。遠目で見ても似ているが翼からの視点でははっきりと分かる。同型機だ。しかし、性能は赤いほうが上のようだ。ヴィラの言葉が終わるや否や翼がヴィラに向き直って言った。
「お前には無理だ」
「どうして!?コイツは私の・・・!!」
「ヤツを殺すのは俺だ」
その言葉に迷いはなかった。


「翔さん」
「・・・ん?貴子か。起きていいのか?」
パイロットルームでコーヒーを飲んでいた翔に貴子は話しかけた。貴子の体には所々痛々しい包帯が目立つ。あたりを見回し人気がないことに貴子は首をかしげた。
「あの・・・皆さんは」
「あー、友子とシェリーちゃんと亜実亜希はコクピット、ミコさんとクルスは医務室、優美ちゃんは・・・レッシュのとこだ」
翼は最後だけ言葉に詰まった。その雰囲気から直ぐに何かが起きていることが分かる。
「隊長に何かあったんですか!?」
「これからどうなるか正直わからない。一応、シアトルには向かっている」
翔はコーヒーを少し飲んで貴子を見上げた。促されて貴子は翔の横に腰を降ろした。
「レッシュの体に心配はない。問題はここだ」
翔は自分の胸を親指を立てた左手でコツコツと叩いた。貴子はそれだけでは良く分からなかった。無言のまま少しの時が流れる。
「あの戦場(ばしょ)で昔の友達に会ったみたいだ。優美ちゃんの知ってるやつらしい」
「え!?」
「よく分からないが、いいことでないのは確かだな・・・レッシュがあれじゃあな」
翔は再びコーヒーを一口飲んで、カップを両手で持ち前かがみになった。貴子は心配そうに翔に聞いた。
「そんなに酷いんですか?」
「・・・優美ちゃん次第だな。彼女なら大丈夫だろうよ。そんな気がする」
「そんな気がするって・・・!」
貴子が珍しく声を荒げた。貴子の方に向き直り翔は静かに言った。
「レッシュは優美ちゃんに任せるしかない」
今の貴子ではどうすることも出来ない。翔が言うように優美に任せるしかないようだ。


小さな明かりしか点いていない部屋でレッシュはベッドに座り込んでいた。そして、その前には床に膝をついた優美が彼の手を握っていた。うなだれるレッシュの顔の高さが丁度優美の顔のそばにある。
「レッシュ・・・」
優しく優美はレッシュに語りかけた。レッシュは何も言わない。レッシュの中ではあの言葉が渦巻いていた。


「それだけじゃ分からない!」
斬りかかる黒いGを回避しながらレッシュは翼に叫んだ。そして、3年ぶりに再会した友から放たれた言葉はレッシュの心に深く突き刺さる。
「じゃあ、教えてやる!!エデン・チルドレンは・・・人工の人間だ!Gのパイロットになる為だけに生み出された・・・“兵器”なんだよ!!」
「何!?」


あれからレッシュは止まった。
優美の言葉にも反応しない。
優美は苦しくて不安で、泣いてしまいそうなのを必死でこらえて彼に語りかけ続けていた。


「ハワイが陥落、反政府軍部隊はロスに傭兵部隊がこちらに向かっています」
「・・・現状は厳しいわね」
桜はその報告を聞き、腕組みしてシアトルの防衛地図を見た。何十にも張り巡らされた防衛網、対空網。突破は難しいだろう。だが、傭兵たちを侮ってはいけない。中には凄腕パイロットもいるからだ。言わば、傭兵はそれの集まりと言ってもいい。そうでないと傭兵の世界では生きていけない。
「すでに先行部隊の攻撃が始まっていますが、損害は微小です。あと5時間ほどで本隊が到着し、本格的な攻撃が始まると予想されます」
「わかったわ、準備を怠らないで」
「了解!」
桜はシアトルの奥に配置された地上戦艦のブリッジルームから出てエレベーターを降りる。止まったエレベーターから降りた桜は長い廊下を歩く。コツコツとヒールの音だけが廊下に響いている。ドアコードを打ち込みデッキへと出た。何重にも重なったドアが開くと同時に眩しい日差しが差し込んでくる。目の前に見えるビル群の合間にはGが見える。ビルの屋上には軍事作業用のヒューマノイドと対空防御システム。守りは万全だ。桜は背伸びをして深呼吸した。Gの匂いが立ち込めている。
「・・・私も準備しなきゃ」
彼女が振り返り、扉に向かおうとしたとき強い風が吹いた。


「そろそろ出撃の準備をお願いします」
「貴子はどうするんだ?」
翔はモニター越しに友子に質問する。友子はいつもの落ち着いた声で貴子の顔を見た。
「スロウが無い以上、貴子さんにはレイザーの射撃管制についてもらいます。予備のGがありませんからね」
「そうだな・・・貴子はそれでいいのか?」
モニターの向こうで翔が貴子の方を向いた。貴子は直ぐに頷く。
「今から行きます」
「お願いします。・・・パイロット各員に報告です。至急パイロットルームに集合してください」
パイロットルームに続々とメンバーが集まって来た。だがそこにはレッシュの姿は無かった。いつもの明るい雰囲気は無い。友子が静かに始めた。
「・・・では、作戦です。今回は難しい作戦はありません。シアトルの陥落、及び制圧が目的となります。私で部隊を編成させていただきました」
友子が手持ちのパネルに表示された部隊を皆に見せた。ミコと優美、クルスと亜実と亜希、翔は単独行動というものだった。やはりレッシュの名前は無い。クルスが重い雰囲気の中口を開いた。
「ねぇ・・・、隊長は?」
「・・・レッシュは・・・今は、無理です」
優美が小さな声で答えた。クルスはそれ以上問わなかった。それ以上言ってしまうと優美を困らせることになる。無理にでも明るく繕う。
「さ!さっさと片付けて早いとこ孤立してる部隊を助けに行くんでしょ?」
「・・・よく覚えてたわね」
ミコがクルスの言葉に間髪入れずに突っ込んだ。それにクルスも直ぐに反論する。
「私でも覚えてることあるの!」
「『私でも』?」
「うっ・・・」
それ以上反論すれば深みにどんどんはまりそうだったのでクルスはそこでやめた。だが、さっきよりは雰囲気が変わる。少しながら明るくなった。
「では、作戦開始です!」
「よし!」
「おお!!」
「了解!」
「っしゃ!」
友子を囲んで皆は声を上げた。隊長であるレッシュを欠いている今は彼らだけで作戦を遂行しなくてはならない。
シアトルの街並みが見え始めていた。



「何だこれは・・・」
「分かりません。我々のデータに無い機体です」
その男性は暗い部屋でモニターを覗いていた。部屋で一番大きなモニターにそれを映し出す。そこには赤い戦闘機が映し出されていた。
「ブラック・バードだと・・・?まさか・・・、ありえん・・・」
「“レッド・バード”と呼ばれていました」
「レッド・・・バードか」
そして次に表示された映像に驚く。赤いGは高出力のエネルギー銃器を連射していた。
「・・・これは!?」
「我々の“ランサー”と酷似しています」
「なるほど・・・“F”は更に脅威となり得るのだな」
椅子に深く座りなおし、タバコを燻らせた。モニターの向こうの男が次の映像を送る。
「それにこの機体です」
それは火星衛星軌道上の世界政府軍を襲撃した純白のGだった。
「この機体も把握できていないのか?」
「はい。詳細は2機とも掴めていません」
「そうか・・・次の報告までには・・・期待しているぞ」
「はい」
そう言ってモニターはぷつりと消えた。男はタバコを消し、ディスクにそのデータを移した。そして、傍らにあった白いディスクを入れる。そこには赤と黒の映像が映し出されていた。
「遂に来たか・・・2羽の鳥たちよ」
その男はいつもの暗い部屋を後にし、いつものあの部屋へと消えていった。


「とりあえず市街地ギリギリまで運ぶわ。そこからは何とかして!」
シェリーが格納庫でGの中に待機しているメンバーに艦内通信を送った。最初に翔から返事が返ってくる。
「俺は先行できる。ハッチを開けてくれ」
翔はスピルスをハッチのところまで進める。普段より大型の盾を左手に持ち、新型のマシンガンを右手に構えていた。
「スピルス出撃!」
一旦、重力に体を預けたスピルスはブースターと小さな羽根を展開して飛び立って行った。
「他のみんなは“さっきの”でいい?」
2度目のシェリーの問いかけには皆が反応する。ウィンクするミコ、親指を立てるクルス、笑顔を見せる亜実と亜希。準備は万端だ。
「それでは作戦開始です」
シアトルが戦場へと変わる。


防衛のGが迫りくるGや輸送機、巡洋艦などを迎撃する。世界政府軍の防衛は完璧だった。
「現在被害率2%です」
「大丈夫ね。私たちも行くわよ!」
桜が部隊員に通信をかけた。2本の大型のブレードを背負っている桜色した細身のGの回りには数十機のGが集まっていた。
「B班は南側、C班は北側、A班は私と正面に行くわよ!」
「了解!!!」
次々と更新される情報は世界政府軍に有利なものばかりだ。


「ひっ!わぁぁ!!!」
緑色のGが横に真っ二つに切られる。爆発は起きず、上半身が地面に落ちた。
「・・・こんなものか」
青いGは一風変わった武器を装備していた。長く伸びた柄。その先端には角度をつけてブレードがついていた。まさに“鎌”だった。青い機体の周りには無残に上半身と下半身が分かれたGたちが転がる。
「・・・青い・・・死神」
パイロットが最後に放った言葉も指令本部には届かなかった。


「くそっ!進入を許すな!!」
ライフルやマシンガンで武装された輸送艦を狙うが、その輸送艦はうまくそれらを回避した。その時、沿岸を防衛していたGたちが次々と被弾して崩れる。
「何だ!?」
「あの輸送艦からです!」
「何だと!?」
ピンポイントに脚部を狙いバランスを崩すG。と、同時に武器も破壊されている。とんでもない射撃の腕だ。
「GO!!!」
シェリーが離脱すると同時に数機のGが降下してくる。攻撃の対象はそのGたちに向けられた。降下中に攻撃され命を落とすことも少なくない。丁度ロックオンしたときモニターに影が出来た。
「何かいるぞ!?」
そう思った瞬間陣形を組んでいたGたちの中心に灰色のGが降り立った。ブレードを引き抜き、ブースターを利用して、その場で独楽のように高速回転した。残されていたGもあっという間に破壊される。
「今のうちだ!」
先行していた翔がお得意の強襲攻撃をしかけた。スピルスの超高速性能と翔の腕があってこその攻撃なのだが。
「サンキュー!」
ミコとクルスの赤い2機のGが降り立った。白いハイジェンも降り立つ。遅れて白いグロリアスがシアトルの地に降り立った。
「さっきのチームで一気に片付けるわよ!」
ミコの通信に皆が頷いた。そこに世界政府軍のGが迫る。全員の一斉攻撃でそれらを一瞬で撃破した。
「みんな、死ぬなよ」
翔の言葉にもう一度皆が頷いた。


暗い部屋でレッシュは一人でいた。爆発音と攻撃を放つ反動がレイザーを揺らしたがレッシュは感じることが出来なかった。手足の感覚も鈍い。
「・・・」
彼の心もまた、暗い闇の中にいた。




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