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waiting for the changes
55話:ANGEL
「・・・何なの・・・あれ」
「多分・・・優美だろ」
「え!?」
翼の言葉に桜は驚いて翼を見上げた。翼は真っ直ぐその純白の機体を見ていた。桜もその機体に視線を移す。おおきな翼をマントを羽織ったような体制になって地面にゆっくりと着地した。ちょうどその時、レッド・バードを“ヴァイル”が襲う。桜は思わず叫んだ。
「レッシュ!!」
その瞬間、純白の機体が動いた。動いたというより、一瞬にして“翼”が展開し、レッド・バードを守った。翼の一部が飛んで行き、レッド・バードに迫ったエネルギー弾を防ぐ。レッド・バードの後部座席ではヴィラも目を丸くして驚いていた。
「優美・・・なの?」
一瞬の出来事に息を呑んだ。いつの間に目の前に“盾”が現れたのだろうか。ヴィラには速過ぎて見えなかった。それを見て翼の勘は確信に変わる。
「やっぱ、優美だな・・・生きててよかったぜ」
「・・・彼女なの?・・・私が・・・」
桜はぎゅっと目を閉じた。
彼女は自分が殺したとばかり思っていた。
でも、目の前に彼女はいる。
認めたくないが、雰囲気でそれが分かってしまう。
雰囲気というか、存在感のようなものがさっきより強く感じる。
そして、彼女は彼を守るために戦っている。
何度倒れようと、どれだけ自らが傷つこうと・・・。
「私じゃ・・・敵わないのね・・・」
そう思うと桜の目からまた涙がこぼれた。
「何だあれは!?」
突如現れた純白の大きな翼を持ったGが現われ“F”を守った。わけが分からない。あれは何なのか。感じる“イクシード”は凄まじい力を感じる。“エデン・チルドレン”でも“無限”でもない。まったく知らない感覚だった。あの機体がそれを増幅させているのだろうか、プレッシャーすら感じる。
「ちっ・・・対象の変更を申請・・・許可を受諾した。排除する!」
“D”はその翼を持った純白のGに向かって“ヴァイル”を展開させる。それを見てレッシュが優美に通信を掛けた。レッシュの感じるいつもの優美の感覚と違う。より、彼女の存在が強く感じられるようだった。
「優美!逃げ・・・」
「逃げない!」
「な!?」
すぐさま返ってきた返事にレッシュは驚いた。映像通信に切り替わった優美はパイロットスーツを着ていなかった。白いタンクトップのような服を着ている。優美は真っ直ぐレッシュを見て言った。
「大丈夫。私がレッシュを守るから」
そう言うと優美はダッジを見上げた。不思議な感覚だった。自分の意思がこのシルバリアスの全てに伝えることができるようだった。相手のこともわかる。恐らく“エデン・チルドレン”だろう。レッシュと似たような感覚、エリーゼとは違っているが根本的なところは似ている。それはレッシュよりも禍々しく感じられた。レッシュのそれとは明らかに違う。“ヴァイル”がシルバリアスを取り囲んだ時、シルバリアスが羽ばたいた。一気に空へと飛び上がっていく。
雨が上がろうとしていた。
「やあっ!」
優美はイメージする。4つの“FOUS”を飛ばしてダッジを上下左右から取り囲むイメージ。そして、空を羽ばたくイメージ。シルバリアスの翼は機械的な動きではなく、鳥の羽のように羽ばたいていた。それはまるで神話や伝説に出て来るような有翼人のようだった。直線的な動きは無く、柔らかなラインを描いて“ヴァイル”とエネルギーライフルの集中砲火を回避していく。あっという間にダッジの頭上を取った。
「ヒットしない!?」
“D”は歯をかみ締めた。ありえない。そんなはずはない。相当な“イクシーダー”でないとあんな動きはできない。それにあの機体、オービット・システムが搭載されているのだろう。“ヴァイル”とその数倍の大きさがある盾の様な、羽のようなオービットがぶつかり合っている。“ヴァイル”が放ったエネルギー弾を“FOUS”が簡単に回避する。当たってもエネルギー弾が拡散しダメージすら与えられない。
「いけぇ!!」
優美は“R-5”を持った両腕を突き出すイメージを浮かべる。と同時にシルバリアスが上空で地面を向いてライフルを連射した。腰のリニア砲も同時に放つ。ダッジの防御用オービットがその攻撃だけで突破される。凄まじい攻撃力に“D”は驚愕した。“ヴァイル”を呼び戻してビルの上に着地する。同じように離れたビルにシルバリアスも着地する。4機の“FOUS”も両サイドの翼の一部に戻った。アレだけ大きな的に何故当たらない?その時“D”はブラック・バードとレッド・バードを見下ろした。アレを攻撃すればあの純白の機体は必ず・・・。“D”は“ヴァイル”をレッド・バードとブラック・バードに向けて放った。優美ははっとする。
「アレを殺れ!」
「ロックされました!・・・回避が間に合いません!」
「くっ・・・」
EVEが悲鳴のような声を上げる。エネルギーが満タンになった6機の“ヴァイル”が3つずつレッド・バードとブラック・バードの周りに配置された。翼は桜の腕を引っ張り立ち上がらせた。
「乗れ!!」
「な、何で!?」
「死にたいのか!?」
戸惑う桜を翼は担ぐように持ち上げた。地面に落ちた銃を見て拾おうとした桜だったが、手を伸ばしてやめた。ぎゅっと目を閉じてその手で拳を作りぎゅっと握り締める。翼はブラック・バードのコクピットの後部座席に桜を放り込んだ。思わず桜は声を上げる。
「きゃっ!・・・ちょっと!」
「くそっ!間に合わねぇ!!」
“ヴァイル”に光が収束し、レッド・バードとブラック・バードに放たれた。ヴィラが頭を抱えて悲鳴を上げる。
「きゃあああ!!!」
「誰も傷つけさせない!!」
その声と同時にまた“ヴァイル”の攻撃は光になって拡散する。今度は6機の“FOUS”がレッド・バードとブラック・バードを守っていた。優美はコクピットで汗だくになっている。息も荒い。エリーゼがコンピューターの数値を見ながら心配そうに彼女の横顔を見つめた。透き通った深い緑の瞳は力を失っていない。“FOUS”は向きを変えるとエネルギー弾を放ち“ヴァイル”を全て撃ち落した。“D”は目を見開いてそれを見ていた。体の内部で何かが切れた。
「貴様ぁぁ!!」
その瞬間だった。ダッジの白い装甲が解除され中には細い青い機体が現われる。優美が気づいた時には高層ビルの上から消えていた。と、同時に上空でゲートが開く。エリーゼとEVEは同時に操縦者に告げた。
「これは!?・・・優美、ゲートよ!!」
「レッシュ、ゲート反応!」
優美が上を瞬間だった。横から凄まじい衝撃を受けた。高層ビルの上から吹き飛ばされる。レッシュは思わず叫んだ。
「優美!左だ!」
「きゃああああっ!!」
吹き飛ばされた優美はすぐさま体制を立て直した。ダメージは受けていない。とっさに“FOUS”を盾として使っていた。信じられない反応速度にエリーゼは踏ん張った状態で驚いた。こんな使い方以前に、“FOUS”の使い方も優美は知らないはずだ。
「この子・・・」
歯をかみ締め唇をきゅっと結んでその青いGを見た。空からは15機ほどの白いGがいっせいに攻撃を仕掛けてきた。レッシュはサブモニターに拳を振り下ろした。何もできない自分が歯がゆい。
「くそっ!!」
「落ち着いてレッシュ!ここから“シルバー・アロー”で撃てばいいわ!」
「ダメだ!!」
レッシュは横に首を振った。バランサーがやられている以上人型形態での飛行は無理だ。EVEの補助を得ても完全な動きはできなくなる。“シルバー・アロー”で優美を援護しようとしても白いGがこちらに向かえば優美は必ず自分を守りに来るだろう。足手まといになってしまう。慣れない機体である上、あの数で必死の優美にこれ以上負担を掛ける訳にはいかない。
「でも!優美が・・・!」
「大丈夫だ、優美は強い。・・・絶対に負けたりしない」
力強いその言葉に弱気だったEVEも「そうよね」と言った。ヴィラもゆっくり純白の機体を見上げた。その機体の周りを囲むように白いG達が飛び回っていた。レッド・バードに通信が入ってくる。翼からだった。
「レッシュ!!BBは動ける!優美の援護に行くぞ!!」
「ああ、頼むぞ、タカ!!」
映像通信で来た翼は親指を立てた。ヴィラはブラック・バードの後部座席に桜が乗っていることに気づいた。画面の隅に彼女の泥だらけの顔と長い髪が見えた。ヴィラは思わず叫んだ。
「ちょっと待って!何でそいつが乗ってるのよ!?」
「はぁ!?」
その声は桜の耳にもしっかりと入ってきた。シートにうずくまり、両手の指を絡めて俯いた。確かにそうだ。この機体に乗る義理はない。ましてや自分は今まで彼を殺そうとしていた奴だ。あの“彼女”が許すはずは無いだろう。桜が「降りる」と言おうとした時、翼の声がそれを遮った。
「あの・・・」
「さっきからうっさいんだよ!!お前は少し黙ってろ!!」
「何言ってんのよ!?そいつは翼君を殺そうとしたのよ!?」
通信機に噛みつくヴィラとの通信を翼は切った。頭を掻いて大きなため息をつく。
「ちょ!翼君!?翼君ってば!?」
「通信を切られました。・・・繋がりません」
通信機に向かって叫ぶヴィラをEVEが止めた。ヴィラは拳で横の壁を殴った。混乱して涙がこぼれそうになる。
「何でよ!・・・何で・・・」
レッシュは後ろを気遣いながら戦う優美を見上げた。
「優美・・・」
大きなため息をつく翼をそっと後ろから桜は見ていた。忙しく再起動作業を続けている。躊躇していた桜だったが、思い切って声をかけた。
「あの・・・」
「何だ?」
乱暴に振り返る翼を見て桜は気が引けてしまう。さっきまでの自分の気持ちはどこに行ってしまったのだろう。あれだけ憎くて、殺したかった気持ちが和らいでいる。桜は真っ直ぐ翼を見て言った。今になって胸が痛み出した。また桜は胸を押さえた。
「やっぱり降ろして」
「はぁ!?死にてぇのか、お前!?」
「ち、違うわ!私が“あなた”といるのは間違ってるって言いたいのよ!!」
叫んだ桜は胸の痛みで「うっ」っと唸った。それを見て翼は前を見てため息をついた。
「お前・・・胸骨が折れてるだろ・・・?」
「え・・・」
「足も捻挫してる・・・怪我人を放り出せるか」
骨のことは気づかれて当然だったが、右足の捻挫まで見抜かれるとは思ってもいなかった。彼の優しさが今までの彼のイメージと混ざり合って桜は混乱する。
「何で!?私は“あなた”を殺そうとしてたのよ!?」
「ああ、そうだな」
低い音を立ててブラック・バードのジェネレーターが唸りを上げた。翼は桜に対し振り返らずに気のない返事をした。
「そうだな・・・って、後ろに座ってれば“あなた”の首を絞めて殺すこともできるわ!」
「まあ・・・そうだな」
「私は“あなた”を殺すことに全てを賭けて来た・・・。操縦中に後ろから殴って、白いGに撃たれて・・・“あなた”と一緒に死ぬこともできるのよ!?」
「そうだな」
「私は今まで・・・」
「知ってる」
「っ・・・私が・・・!」
そこまで言うと桜の目から涙が溢れた。翼はゆっくりと振り返った。
「じゃあ、何ですぐに殺さない?」
「・・・え?」
「この間に首を絞めて殺す機会は幾らでもあった筈だ・・・でも、お前は殺さなかった」
「それは・・・」
また翼は前を向いた。今更桜がどれだけ言い訳をしても意味はない。翼に自分の心を見透かされているようだった。翼は振り返ってにやりと笑う。
「まあ、俺もさっきまでは“あれ”から解放されたかった・・・。だがな、今は違う。優美が生きてると分かった以上、俺は死ぬわけにはいかない」
「な・・・」
桜は顔を上げた。頬に涙が伝う。翼の顔はさっきの暗い顔とは違っていた。
「レッシュと優美が“うまいこと”いくまで死ねるかよ・・・」
「・・・」
少し首を傾げて見つめてくる桜に背中を向けて翼は言った。急激なGが桜を襲う。
「ベルト閉めろ!・・・口は開くなよ、舌噛むぞ!・・・BB行くぞ!」
「きゃっ!」
翼はペダルを一気に踏み込んでブラック・バードを空へと運んだ。
「優美!左!・・・後ろからも来てるわ!」
「はいっ!」
優美は忙しく首を上下左右に振って白いGの位置を確認する。“ランサー”を構えた白いGたちが一斉にエネルギー弾を放った。優美はそれのほとんどを回避して、避けられないものは“FOUS”でガードした。すぐさま優美は反撃に打って出た。“FOUS”をシルバリアス本体に固定したまま、白いGがいる各方向に展開してエネルギー砲でロックした。一斉にエネルギー弾が白いGに向けて放たれた。まるで天使が光を放っているように見えた。
「行けっ!」
数機の白いGは頭部や武器、バックパックを貫かれ海へと落ちていく。攻撃を回避した白いGたちが一気にシルバリアスに迫った。自分の意思を伝える円状のコントロールパネルに置かれた両手は汗でべっとりしている。息が荒く、全身汗だくの優美は唇をかみ締めた。“この力”は相当体力を消費する。体力に自信のある優美でも慣れない“この力”の使い方には体力の奪われ方が全然違う。その時、背後から青いGが斬りかかって来た。“D”のダッジだ。
「消えろ!!」
「あっ!」
やられる、そう思った瞬間その青いGは横から来たものに吹き飛ばされた。ブラック・バードだった。吹き飛ばされた“D”はブラック・バードを睨みつける。
「くそっ!」
翼から接触による映像通信が掛かった。
「優美!大丈夫か!?」
「翼さん!はい、大丈夫です!」
息が荒くパイロットスーツ姿でない優美を見て翼は驚いた。それに何か雰囲気が違って見えた。髪の色が違う。ブラック・バードの後部座席で桜も優美の顔を見た。想像していたよりずっと若く見えた。パイロットスーツを彼女は着ていなかった。桜は小さく呟く。
「この子が・・・優美」
優美は汗で張り付いた前髪を払うと迫ってきた3機の白いGに“FOUS”の全砲門を向けた。羽が全てその2機に向けられる。“R-5”も正面に構え一気にそれらを放った。あっという間に3機の白いGは胴体だけになってしまう。ブラック・バードは下から来た白いGを迎え撃った。桜がそれに気づく。
「下から2機来てるわ!」
「ちっ!優美!ザコは俺がやる!お前はあの青い奴を仕留めろ!」
「はい!!」
優美は頷くと青いGの方を向いた。その時、シルバリアスがぐらりと揺れる。エリーゼははっとして優美の肩に手を置いた。シルバリアスの異変にレッシュもすぐさま気づいた。
「優美!?」
「もう限界よ優美!・・・負担が大きすぎるわ!」
肩で息をしている優美にエリーゼはこれ以上の戦闘は不可能だと言った。だが、優美は首を横に振った。
「まだ・・・大丈夫です!」
「無茶よ!あなたは“その力”に慣れていないのよ!・・・このままじゃ、あなたが危ないわ」
「それでも・・・」
優美はゆっくりとエリーゼのほうに振り返った。にっこりと笑って頬の髪を払う。
「それでも私はレッシュを守りたい。・・・レッシュは私が傷ついたり、危険な目にあうのは望んでないけど・・・私はどんなことをしてでもレッシュを守りたいの」
優美は前を向いた青いダッジが再び加速を始めようとしている。
「もっと、レッシュと一緒にいる時間を増やしたい・・・。レッシュと一緒にいられるなら・・・私はボロボロになってもあきらめない!!」
「優美・・・」
青いダッジが加速して一気にシルバリアス迫った。エリーゼはそんな優美の横顔を見つめる。彼女には今は何を言っても無駄のようだ。
「貴様は何者なのだ!?」
「捕まえた!!」
「何!?」
斬りかかって来た青いダッジのブレードを持った手をシルバリアスは受け止めた。殴ろうとした左手さえも受け止められる。白いGを片付けた翼は上を見上げた。ちょうどシルバリアスがダッジを止めた瞬間だった。翼は思わず声を上げた。
「おっ!スゲェな」
「あれ・・・あの時」
桜は思い出していた。優美の乗るGにブレードを受け止められたことを。きっと彼女は相手を殺すことをしないはずだ。例え“エデン・チルドレン”が相手だろうと。受け止められた“D”は驚愕する。ここまで繊細に機体を操れるものだろうか。
「馬鹿な!?」
「もう、下がって!!」
直後“D”に直接声が流れ込んできた。その声が少女の声だということに“D”は更に驚いた。
「子供!?」
「もう、あなたしかいないわ!・・・だから、下がって!」
その声を聞いて“D”は余計に腹が立った。それにこの前の純白の機体は信じられないほどの力を持っている。両腕がピクリとも動かない。“D”は蹴りを繰り出そうとした。が“FOUS”がそれを阻んだ。腕を掴む力が強くなったように思えた。
「ちっ!」
と、シルバリアスは青いダッジの腕を引きちぎった。“D”の両腕に痛みが走る。顔をしかめて“D”はシルバリアスを睨んだ。
「ぐああっ!!」
「お願いっ・・・!」
優美は荒い息で言った。実際のところ限界なんてとっくに通り越していた。レッシュを守りたい一心で体を動かしていた。腕を引きちぎられ、距離を取った“D”はにやりと笑った。
「甘いな」
「ぇ?」
その瞬間頭部からバルカンが放たれた。優美はぎゅっと目を閉じて開いた。透き通った深い緑の瞳が真っ直ぐ青いダッジを見つめ、優美は叫んだ。
「“オペラ”!!」
シルバリアスの頭部が1段階下に格納され背中から砲門が前面に頭部に被さるような形で現われた。瞬間的に光を収束し、“オペラ”がダッジの放ったバルカンごと頭部を吹き飛ばした。それは光の道を作って遠くに飛んでいく。その威力に誰もが驚く。翼、レッシュ、桜は目を見開いて驚いた。
「なんだありゃ・・・」
「・・・今のは」
「あの子・・・」
撃った優美も驚いた。威力は低く止めたはずだったがこれほどの威力があるとは思わなかった。肩で息をしながら頭部を吹き飛ばされたダッジを見た。
「があっ!」
頭を押さえてうずくまる“D”に優美は再度言った。
「撤退してっ!!」
「く・・・そっ」
その時、“D”の元に撤退指令が届いた。後方にゲートが開くと表示された。
「了解した・・・」
そう言うと現われたゲートの中に青いダッジは消えて行った。優美はそれを見ると大きく息を吐いてゆっくりと着地した。まだ息が荒い。おでこに手を当てて、優美は張り付いた髪を掻きあげる。エリーゼは優美の肩をぽんと叩いた。
「お疲れ様」
「・・・はい」
そう言うと優美は振り返って笑顔を見せた。
雨が上がって光が差し込んできた。
シルバリアスが光を浴びて輝いて見えた。雨粒が煌く。
「優美、大丈夫か?」
翼が通信を開いて聞くと、優美は映像通信でこくりと頷いた。同時にレッシュにも繋ぐ。
「レッシュ、街まで戻れるか?」
「ああ、大丈夫だ」
レッシュが頷く。それを見て桜が「あっ」と言って小さく呟いた。レッシュだ。
「レッシュ・・・」
俯いた桜は目を閉じた。そして意を決したようにして翼に話しかけた。
「あの・・・」
「何だ?」
振り返った翼に桜は視線を逸らした。後ろめたい気持ちが強く感じる。
「私を・・・一緒に連れてって」
「はぁ!?お前、何考えていやがんだ?」
明らかに怪訝な顔をした翼に桜は目を合わせることができない。
「あの・・・だから・・・私を捕虜にして」
「ああっ?・・・お前、まだレッシュを狙ってんのか?ここで降ろすぞ?」
そう言われて桜は唇をかみ締めた。そう、桜はどうしてもレッシュのそばに居たかった。
「そうよ!・・・でも、彼には彼女が居るでしょ?・・・私じゃ敵わない。何度もそう思って・・・今日強くそれが分かった」
桜の目から涙がこぼれる。太ももの上に作った泥だらけのグローブの上に涙が落ちた。髪からも雫がポタポタと落ちる。
「だからっ・・・遠くで見るだけでいいから・・・レッシュのそばに居たいの。・・・お願い・・・私は・・・」
「まあ、お前の気持ちは分からなくはないが・・・俺をどうするんだ?」
翼は頭を掻いて目を閉じた。近くに居るということは自分の命を狙われることが必然的に多くなる。さっきまではあれだったが、今となっては勘弁だ。
「・・・だから、捕虜にして。手錠かけて、牢屋でも倉庫でもどこへでも入れてもいいわ。もう、あなたを殺そうとは思わない」
「ちっ・・・。お前、軍はどうするんだ?」
桜は顔を上げると翼の顔を見た。泥だらけで、涙でぐちゃぐちゃになった顔で翼と向き合った。翼の質問に桜はすぐに答えた。
「軍なんて・・・私の目的を達成するためのものでしかないわ。・・・もう、軍とかそういうのとか、どうでもいい」
「しゃあねぇなぁ・・・戻ってからみんなと相談するか・・・。それからでもお前のことは遅くねぇだろ?・・・とりあえず戻るぜ」
「・・・ええ」
そう言うと翼は桜に背を向けて前を向いた。
「EVE、バランサーをコントロール、飛行形態なら問題ないだろ」
「ええ、でも、戦闘になったら保障はできないわ」
EVEのモニターに次々と表示されていく。レッシュはそれらを頭に入れながら、EVEを通じてレッド・バードのセットアップを続けていた。ヴィラはシルバリアスを見た。所々薄いブルーが見えるが本当に真っ白な機体だ。彼女にはよく似合ってるのかもしれない。
「まるで天使ね」
「うん?」
そのヴィラの呟きにレッシュが振り返った。ヴィラは小さく笑いながらその言葉を繰り返した。
「天使みたい、って言ったのよ」
「優美か?」
「うん・・・まあ、そうなのかもね」
ふっと笑ってヴィラは肘を突いて手の上に顎を乗せた。レッシュもシルバリアスに目を向けた。雲の切れ間から差し込む光に照らされて、白く輝く機体が翼を広げている。
「ああ・・・天使だな」
そう言ってレッシュもふっと笑った。
「優美・・・行ける?」
エリーゼが覗き込むように聞くと優美は小さく頷いた。
「はい」
「もう・・・無茶しすぎよ。・・・大好きなのね、彼が」
「え・・・な!?」
真っ赤になるその優美の反応を見てエリーゼは笑った。さっきあれだけ、どれだけ彼のことが大切で好きなのか、守りたいと言っていたのと同一人物とは思えない。おかしくて笑が止まらない。
「あははっ、ははは」
「笑わないでください!」
「あはは・・・ごめんごめん。で、話は変わるんだけど」
赤くなってふくれる優美にエリーゼはひとしきり笑ったあと真面目な顔で優美に聞いた。
「あの・・・ブラック・バードだけど・・・」
「え!?・・・ブラック・バード知ってるんですか!?」
驚く優美にエリーゼはブラック・バードをモニター越しに見つめながら言った。
「あなたの仲間ならついて来て正解だったわ。・・・で、まだ力は残ってる?飛んでいかなきゃならないんでしょ?」
EVEから送られてきた座標はここから結構離れた場所だった。エリーゼの心配をよそに優美は右手の拳を突き上げて細い二の腕に左手で力こぶを持った。
「大丈夫です!任せてください!」
「あなた・・・体力バカ?」
「え?」
突然言われたことに優美は目を丸くして驚いていた。エリーゼが呆れたように笑う。
「そんなに細いのに、どこにそんな体力あるのよ?」
そう言えば前にもそんなことを言われたような気がする。優美は苦笑いする。
「え・・・あの、体動かすの好きですから」
少し照れながら笑う優美にエリーゼは眼鏡を直しながら言った。そっと優美の髪に触れた。
「気づかなかったけど、髪の色も変わってるわね」
「え?」
そう言われて、優美は前髪を引っ張って見た。確かに今までの薄い茶髪とは違う。透き通る金のような色をしていた。自分の身に起きた不思議な出来事に優美は少し戸惑う。エリーゼは堪え切れなかったようにぷっと吹き出した。
「それに、“え”が多い」
「え?・・・そうですか?」
「ほら、また“え?”って言った」
「え?」
そう言って優美は「あっ」という顔をした。恥ずかしいのか少し耳が赤い。
「まあ、いいわ。ほら、遅れるわよ」
エリーゼが言うとレッド・バードが飛び立とうとしていた。慌てて優美はそれに続いてシルバリアスを飛び立たせた。
帰りの空、最後尾を飛ぶブラック・バードの中で翼がシルバリアスを見て呟いた。
「不思議な機体だな」
「え?」
「あれだよ、優美の機体」
今までの沈黙を破って声を発した翼に桜は驚いた。シルバリアスは大きな翼で羽ばたくように飛んでいる。飛行機のような動きではなく、鳥が飛ぶように滑らかで軽そうに見えた。
「まさに天使だな。・・・まあ、レッシュだけのな」
「天使・・・か」
桜もその機体を見た。太陽を反射して更に白が輝いて見える。翼は考え深そうに言った。
「俺はあんな風に空を飛ぶのが夢だったんだよな・・・鳥みたいに羽を生やして空を飛ぶことが」
「・・・そう」
桜は分からなかった。何故そのようなことを彼が言ったのか分からなかった。桜は翼が言った「レッシュだけの天使」に胸が痛む。骨が折れているからじゃない、胸の奥のほうが痛んだ。また涙がこぼれてきた。桜は乱暴に拭うとシルバリアスを見た。悔しいが、そういう例えが一番あっているような気がする。その時、翼がくるっと振り返った。
「お前名前は?」
「え?」
「まだ聞いてなかったからな、俺は鷹山翼だ」
翼はにっと笑って自分の名前を言った。
「タカ山・・・翼・・・?“タカ”って鳥の“鷹”?」
「ああ、そうだぜ」
「だから、“漆黒の鷹”なの?・・・ふふっ、変わってるわね」
桜はそう言ってはっとした。さっきまで憎んでいた男なのに笑ってしまった。翼が自分の名前を急かしてくる。
「うっせーな・・・で、お前は?」
「美山桜よ」
「桜?・・・だから“乱れ桜”か?・・・お前も変じゃねぇか」
眉を寄せて「ん?」という表情をして翼は笑った。桜も笑ってしまう。
「お互い様よ」
そう言って桜は外を見た。
“赤い鳥”と“天使”が輝く海の上を並んで飛んでいた。
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