waiting for the changes

waiting for the changes

65話:BLOSSOMS


ガードオービットがその行く手を阻んだ。凄まじいほどの光がレッシュの目の前で弾けた。が、“ミラージュ”に押され、ガードオービットが耐え切れず、爆発し始めた。司令室でオペレーターが叫ぶ。
「フォーメーション決壊!ガードオービット・・・持ちません!」
「持たせろ!収束率修正、出力を上げろ!」
司令官がオペレーターたちに指示を出した。が、もう間に合わない。ガードオービットが次々と爆発し、“ミラージュ”がレッド・バードに迫った。威力が弱まったが、それでも、この街とレッド・バードを破壊するには十分だった。
「あああっ!!」
EVEがあきらめの声を上げる。レッシュはスラスターを全開にして離脱しようとした。だが、間に合わない。


優美は緑の目を大きく見開いて、桜を振りほどこうとした。
「レッシュ!!」
その目から涙が溢れる。桜は暴れる優美を必死で押さえた。






その時、その光の前に何かが割り込んできた。

レッシュはその黒い背中を見た。


「ジェネレーター・フィールド、前面に展開!・・・出力最大!!」
翼は叫ぶと、ブラック・バードに掛かっていた“最後の”リミッターを外した。ジェネレーターが唸りをあげて最大のパワーをたたき出す。ブラック・バードは両手のブレード出力口を正面に構え、そこから見えないバリアが発せられていた。レッシュは息を飲んだ。
「タカ!?」
「よう・・・間に・・合ったな」
ノイズではっきりと聞こえない。ブラック・バードの目の前で光が拡散し、そこで止まっている。レイは一瞬の出来事に目を疑った。ブラック・バードが今までにないほどのスピードで一気にレッド・バードの前に躍り出た。
「馬鹿な・・・」
翼は警報が鳴り響くコクピットから“ミラージュ”の光を眩しそうに見た。そして、エリーゼの言葉を思い出した。


「ジェネレーター・フィールドの転用?」
「ええ、そうよ」
エリーゼは腕を組んで頷いた。翼のために分かりやすく説明する。
「“ショック”は分かるわね?」
「ああ、当たり前だ」
翼は鼻を鳴らした。が、エリーゼの「当然よ」の言葉の前に黙り込んだ。
「それの“ジェネレーター・フィールド”バージョンよ。攻撃じゃなくて、防御に使うの」
そう言うとエリーゼは翼にコードを渡した。翼はそれを受け取って神妙な顔をした。
「これが“最後の”リミッターの解除コードよ。これを使えば、ブラック・バードの100%の性能を出せるわ。・・・でも」
そこまで言ってエリーゼは言葉を詰まらせた。翼はエリーゼに詰め寄る。
「早く言えって」
「これは攻撃じゃなく防御の為よ。・・・誰かを守るために。その時、ブラック・バードがどうなるか分からないわ」
エリーゼの言葉に、翼はいつものように歯を見せて笑った。


ブラック・バードの計器が異常な数値を示す。異常を示す警報と言う警報が、モニターを、サブモニターを、全てを埋め尽くしていた。コクピットの所々から火花を散らし、煙が上がっていた。
「・・・くそっ、俺も終わりか」
ちょうどその時、通信用にひび割れたモニターにレッシュの顔が映った。必死の形相で叫んでいる。
「タカ!!・・・げろ!」
「もうムリだ・・・」
翼はペダルを踏み込んで出力を上げた。ブラック・バードの両腕が悲鳴を上げる。レッシュは翼に向かって叫び続けた。コントロールパネルに拳を振り下ろす。
「おい!!タカ!タカ!・・・くそっ!!」
ブラック・バードの右足が吹き飛んだ。光の流動はまだ止まらない。もう、機体も持たないだろう。
「・・・お前には苦労かけたな」
翼は愛おしそうに火花を上げるブラック・バードのコントロールパネルに手を伸ばした。
こういう結末だとは思わなかった。
思えばずっとこの機体と一緒だった。
あれからずっと。
・・・“あの時”は守れなかった。
今度は、彼を守れる。
そして、BBと共に逝ける。

警報が鳴り続ける。

翼は目を閉じた。

・・・サヨナラは言わない。


ブラック・バードの両腕が爆発した瞬間だった。それよりも早く、“ミラージュ”光が止まった。“ミラージュ”の発射口にエネルギー弾が放たれ、それが炎を上げていた。上空には、銀色に輝く機体が現われていた。サブモニターには“レベル2”の終了を告げるカウントダウンタイマーが“0”を示していた。
「何!?」
「“ミラージュ”沈黙!・・・対象を完全にロストしました」
イワサキはその報告を聞くと、アームレストに拳を振り下ろした。歯をかみ締めて、銀色の機体を見上げる。
「・・・“シルバー・ゴースト”・・・!」
「翼さん!」
“J”が叫んだが、ブラック・バードが炎を上げながら墜ちて行くところだった。両腕は無く、コクピット周辺もぐちゃぐちゃになっている。レッド・バードは羽をはためかせる様に方向を変えるとブラック・バードの元に向かった。
「タカ!!」
が、その前に灰色のGが立ちはだかった。
「逃がしゃしねぇよ」
「どけーっ!!」
その時、レッシュの目は赤く変わっていた。


「いやぁぁ!!・・・翼さんが!」
優美は頭を抱えてうずくまった。“翼”と言う言葉に桜が反応する。
「あの人がどうしたの!?ねぇ!!ちょっと!」
「レッシュを守って・・・」
そう言うとまた優美は泣き始めた。桜はもういてもたってもいられなくなった。優美を抱えあげる。
「・・・行きましょう」
「え?」
「レッシュとあの人を助けに行くのよ!」
桜に言葉に優美は目を丸くした。
「Gはどこ?」
桜の顔を見て優美はゆっくりと通路を指差した。


「くっ・・・」
レッド・バードの動きが鈍くなった。レッシュはコクピットで突然の頭痛に頭を押さえた。
「レッシュ!?」
「・・・ああ、大丈夫だ」
「大丈夫じゃないわよ!!・・・脈も乱れてるし、反応速度も落ちてる!」
EVEがレッシュの身を案じて言う。“Y”はそれを見逃さない。レッシュに直接言ってきた。
「お前・・・“バーサーカー”の影響が出てるみてぇだな」
「何・・・?」
苦しそうにレッシュは顔を上げた。初めて聞く言葉だった。
「“レッド・アイ”っていう奴もいるからな。飛躍的に戦闘力が上がる分、最後には自分にフィードバックすんだよ。・・・お前、そんなことも知らねぇで、その“力”を使ってたのか」
“Y”は“ランサー”を構えた。にやりと笑う。
「一思いに楽にしてやるよ」
「レッシュ!“力”を使うのはやめて!」
EVEの叫びにレッシュは歯をかみ締めた。翼のところに行くにはそうしないと無理だ。EVEの声が震える。
「・・・お願い」
レッシュは目を閉じた。開いた目は、緑色に戻っていた。“Y”の放った“ランサー”のエネルギー弾が迫る。
「死ね!!」
「くっ!」
バレルロールしてレッド・バードは回避した。羽をはためかせ、距離をとり、レッシュは自分の間合いに持ち込もうとした。


「翼!?」
「はいはい~?よそ見してていいのかな♪・・・レイッ!!」
レイはこくりと頷くと、シエンとクリックスが赤いスピルスを挟み撃ちにする。ジャックは歯をかみ締め、両サイドに素早く目を動かした。初撃は・・・翼のあるこの機体・・・シエンだ。ブラウは舌なめずりをしてにやりと笑った。ロックが重なる。そして、トリガーを引いた。
「行けっ!!」
それを読みきっていたジャックは最小限の動きで回避する。すぐさまきたクリックスから追撃をブレードで弾き飛ばした。機体性能差があるとしても腕の差は歴然だった。
「マジ!?」
「くっ・・・“皇帝”っ」
ブラウはスラスターを前回にして、シエンは一気にスピルスとの距離を詰めた。ブレードを振りかぶって斬りかかる。
「やあああっ!!」
スピルスを斬ったはずのブレードが空しく空を斬った。ブラウは驚いて目を丸くする。とんでもないスピードで動き、次の瞬間、スピルスはシエンの背後を取っていた。
「そんな大振りが当たる筈はない」
「・・・なっ」
「終わりだ」
ブラウの背中が凍りつく。
圧倒的過ぎる。
これが“音速の皇帝”・・“スピード・オブ。サウンド”。
・・・死ぬ。
スピルスがエネルギーライフルをゼロ距離で発射しようとした時、レイがブラウに向かって叫んだ。
「下がれ!!」
その言葉に反応し、とっさにブラウはシエンの高度を下げた。と、同時に、クリックスが加速し、シールドを展開する。スピルスのエネルギーライフルが発射されたと同時にクリックスはその銃口にシールドを押し当てた。光が拡散し、スピルスのエネルギーライフルが爆発する。ジャックはすぐさま引いて体勢を立て直した。
「くっ!」
「ブラウ!」
「・・・ごめん、ありがと」
弱気に答えるブラウにレイは一喝した。
「どうした!?・・・アイツをこのまま一気に叩くぞ」
「う、うん!・・・わかった!!」
レイの言葉にブラウは大きく頷いた。


「リナリー!」
「きゃああ!!」
吹き飛ばされる赤いMK-2。アスファルトを巻き上げながら背中からビルに激突する。
「あうっ!」
「くそっ!!」
マサは舌打ちして、ペダルを一気に踏み込んだ。スラスターが唸りをあげて、一気にMK-2は上空に飛び上がった。“白いG”との距離を詰める。MK-2は振りかぶった。
「消えろぉ!!」
が、MK-2のブレード攻撃は空を斬った。“白いG”は機体を横にずらすだけの最小限の動きでそれを回避していた。つまり、動きを見切っているということだ。すぐさま、“白いG”のブレードが振り下ろされる。とっさにガードしたマサのMK-2だったが、そのまま地面に叩きつけられた。シートベルトと急激な落下Gと衝撃Gで、MK-2とマサの体が軋む。ヘルメットのバイザーに赤い液体がこびりついた。
「がふっ!」
「マサっ・・・こんのおぉ!!」
リナリーは機体を起き上がらせると、ブレードを構えた。が、目の前にもう1機の“白いG”が降り立った。
「なっ!?」
その“白いG”の目が赤く光った。


桜は優美に肩を貸して潜水艦を降りた。すんなり降りられたことに桜はちょっと驚く。
「・・・この子置き去りなの?」
桜は半ば呆れてため息をついた。そう言う自分も置き去りにされたのだろう。が、この状況ではそうは言っていられない。戦況は思わしくないようだ。時折聞こえる声がそれを告げている。
「とりあえず・・・なんとかしなきゃね」
ちらりと桜は優美の顔を見た。息遣いが荒くとても辛そうに見える。とりあえず、この子を何とかしなくてはならない。あたりを潜水艦が格納されているドッグでは忙しく人が動いていた。潜水艦は前方のハッチが大きく開いてGを搬出しているようだった。灰色のバラバラになっているGがちょうど降ろされているところだった。桜はそれにちらりと目をやった。見覚えがある。確かあれは・・・。
「スピルス・・・」
そう桜が口にしたときだった。1人の兵士が桜たちに気づいて駆け寄ってきた。と、ドロだらけでクツすら履かずに素足のままの桜を見て兵士は怪訝そうな表情をみせた。
「・・・どうした?」
「この子の熱が酷いの。・・・医務室はどこ?」
「本当だな・・・よし、お前!」
「はっ!」
優美の表情を確認すると、兵士は近くにいたジープに乗った兵士を呼んだ。ジープから降りて駆け寄ってくる。
「お呼びですか?」
「この2人を医務室へ。彼らの扱いは丁重にと言うことだ。よろしく頼む」
「はっ!」
兵士は敬礼するとジープに乗るように促した。
「こちらに」
「お願いするわ」
桜と優美を載せジープは発進していった。


「コレが“ヴィクトリア”・・・大きい」
クルスはその白い戦艦を見上げた。美しい流線型のフォルム。艦の前方には大型のエネルギー砲が2門搭載されていた。立ち止まっていたクルスをミコが呼んだ。
「クルス!」
「・・・うん!」
そして、クルスは艦の中へと足を踏み入れた。


「司令!彼らが“ヴィクトリア”に到着した模様です」
「よし、こっちのモニターに出せ」
オペレーターは頷くと司令官の一番近いモニターに通信を開いた。すると、金髪でおかっぱの女性が驚いた表情を見せた。
「あ!司令!」
「ハシェス副官か?」
「はい!乗員全て配置に就いています」
そう言ってミラはクルーを見渡した。ドライバーシートにはシェリーが操縦桿を撫でながら嬉しそうにしている。キャプテンシートにはブリッツェンが座り、メインオペレーターシートには友子、サブオペレーターシートにはクルスとミコ、メイン射撃管制シートには貴子、サブに翔が座っていた。ミラがブリッツェンに聞いた。
「艦長?・・・出られますか?」
「いつでも構わんぞ」
それを聞くとミラは頷いた。振り返って通信モニターに向かって言う。
「行けます!」
「4番ハッチ開放!“ヴィクトリア”を発進させる。各員に状況伝達を怠るな!・・・私は彼らに賭ける!」
4番ハッチの滑走路にゆっくりと灯が灯る。

「了解!“ヴィクトリア”発進スタンバイ!各員は所定の作業を続けてください。周辺の作業員は避難をよろしくお願いします・・・繰り返します」


「・・・こんなところだ?理解できたか」
「OK!good!」
シェリーが肩耳に取り付けられていたイヤホンから聞こえる“ヴィクトリア”の説明を聞いて頷いた。手際よくスイッチを押してジェネレーターの出力を発進できるレベルまで持って行く。シェリーは“ヴィクトリア”のジェネレーターの出力の高さに鼓動が高鳴った。
「・・・すごい」
友子は司令室から来る情報を処理していた。必要な情報はすぐにブリッツェンへと伝える。貴子は独特の射撃管制のシートに座って、構造を把握していた。さすが最新鋭艦、最新鋭で最高の設備が整っている。そして、通常の艦と全く異なっている点はこの射撃管制だった。貴子はゆっくりとメガネの上からゴーグルとヘッドフォンが一体になったものを付けた。そこには現在の状況や、外の状況など、全てを把握できるようになっていた。手袋をはめてキーボードを弾く。そして、目の前の“貴子にしか見えない対象”に触れるとそれをドラッグさせた。射撃管制の全てが連結したと言う表示がそこに現われた。
「なるほどね・・・これは使いやすいわ」
殆どの機能を把握した貴子は笑みを浮かべた。この機能があれば、今までよりもっと早い反応が出来る。友子に通信が入る。
「発進許可が出た。出てくれ!」
「了解!・・・艦長!」
友子が振り返って言うと。ブリッツェンが声を上げた。
「ヴィクトリア発進する!」
白い流線型の戦艦はゆっくりと浮き上がると、いくつのも大型のスラスターが火を噴いた。


ゆっくりと光を浴びて白い巨体が輝く。
すぐさま、“ナディア”も確認できた。オペレーターが驚きの声を上げる。
「イワサキ艦長!・・・“ヴィクトリア”です!!」
「何!?・・・出てきたか・・・そうか」
感慨深そうに言うと、イワサキは受話器を持ち上げた。レイに通信を繋ぐ。
「ガヴリン」
「・・・来ましたね。・・・出たということは、回収は不可能、破壊してください」
レイは冷静に言い放った。イワサキは頷く。
「了解した。・・・もったいないな」
「仕方ありません。・・・“敵”の手に渡ったとなると脅威以外の何者でもありません。ここで沈めてください」
通信が切れると“シルバー・ゴースト”に慌てるクルーたちに向かってイワサキは言った。
「目標、“ヴィクトリア”。本作戦は、対象の破壊を持って終了する。抜かるなよ!!」
「了解!」
「了解っ」
黒い“ナディア”がゆっくりと向きを変える。ヴァリアルスがそれを阻もうとしたが、“Q”の灰色のGが前に躍り出た。
「行かせるわけにはいかない」
「・・・どいてもらいます」
“Q”は真っ直ぐにヴァリアルスを見据えた。“J”はしっかりと操縦桿を握りなおした。
友子が“ナディア”が向かってくることを告げる。
「“ナディア”、来ます!」
「各員対艦戦闘用意!・・・桐生君、攻撃は君に任せる」
「了解です!」
ブリッツェンの言葉に貴子は頷いた。貴子の目の前のスクリーンに“ナディア”のデータや、戦況が次々と表示される。それを次々と凄まじいスピードで処理する貴子を見て、クルスは感嘆の声を上げた。
「すごっ・・・」
「ほら、あんたはよそ見してないでサポートする!」
ミコに言われ我に返ったクルスは鼻を擦るとモニターに向かった。


「くそ!タカ!!」
「オイオイ・・・さっきの勢いはどうした?」
“Q”が挑発的にレッシュに言う。ブラック・バードは燃える街に墜ちて消えてしまった。通信も繋がらない。それに、さっきよりも“Q”が強く感じる。攻撃を回避するのがギリギリだ。EVEからの情報伝達も忙しくなる。
「左から来るわ!・・・今よ!」
レッド・バードがギリギリでエネルギー弾を回避する。灰色のGはすぐさま方向転換し、レッド・バードに斬りかかって来た。レッド・バードは背部のブレードを展開して迎撃した。が、振り下ろしたブレードに戦闘機形態だったために力負けし、ぐらりとバランスを崩した。
「レッシュ!」
「これで死ね!!」
レッド・バードにロックが掛けられエネルギー弾が放たれた。


「ここです」
「ありがと」
ジープから優美をゆっくりと降ろすと桜は兵士に礼を言った。今も優美は辛そうにしている。ジープがもと来た道を戻るのを見ながら桜は声を掛けた。
「大丈夫?」
「・・・はい」
弱弱しい声に桜はため息をついた。息も荒い。
「とても平気には見えないわね」
そう言った時だった。突然の大声に桜はびくりと体を震わせた。
「あー!!!優美ちゃん!!」
駆け寄ってきた少女は整備服を着ていた。優美の知り合いなのだろうか。が、桜の顔を見た瞬間、その表情が険しくなる。
「あんた・・・だれ?」
「ちょうどよかったわ・・・優美をお願い」
桜は優美をその少女に預けた。こんな状態で一緒に連れて行くことは出来ない。突然のことに何が起きているのか分からない整備服の少女はあたふたしている。
「え?ちょっと優美ちゃん?大丈夫!?」
「頼んだわよ」
「ちょっと!何があったの?ねぇ!」
行こうとした桜の背中で少女の声がする。と、同時に小さな声が桜の耳に届いた。
「・・・さく・・らさん」
その声に振り返ると優美が少女に掴まってこっちを見ていた。その必死な表情に桜は思わず駆け寄った。優美の言葉を遮って桜は諭すように言った。
「さ・・くら・・」
「いい?あなたはここにいて。絶対に無茶したダメよ。私が・・・レッシュとあの人を助けに行くから・・・お願いだから、あなたはここにいるのよ・・・ね?」
優美は桜の言葉を聞いて黙り込んだ。少し間を置いて優美は頷いた。
「はい」
「約束よ」
そう言うと格納庫を探して桜は走り出した。後姿を見送るとそのまま優美は気を失ってしまう。
「ちょ!・・・どうなってんの?・・・優美ちゃん?ねぇ!」
少女は状況が分からず慌てながらも、優美の腕を肩に担ぐと医務室の扉を開いて入っていった。


忙しく兵士達とすれ違う。すれ違う兵士達が皆、桜のことを振り返ってみていた。泥だらけな上に、半そでのシャツにホットパンツ、素足だからだ。目立たない方が無理だろう。桜は息を切らしながら建物内の地図を見た。その時、後ろから声を掛けられた。
「美山・・・少佐ですよね?」
「え?」
桜が振り返るとそこに士官の軍服を着た青年が立っていた。
「あ、やっぱり。美山少佐!・・・ところで何をやっているのですか?そんな格好で」
敬礼をした士官の青年は桜の姿を頭から足先まで見て不思議そうに聞いた。だが、今の桜に余裕は無かった。
「格納庫はどこ!?・・・すぐに出られるGがあるところ」
「え・・・あー、1番には・・・って美山少佐!?」
「ありがと!」
彼の言葉を聞くが早いか桜は駆け出していた。早く行かないと間に合わない。通路の突き当たりを曲がると広くなった場所に出た。どうやらここが第1格納庫らしい。そして、桜の目に白に赤いラインの入ったGが目に入った。立ち止まって肩で荒っぽく息をする。あれは世界政府軍でテスト機に使われるカラーだ。あれ以外にGが見当たらない。
「あれだ」
桜はその機体に近寄るとゴンドラに飛び乗った。すぐに“UP”を押して上を見上げる。このあがって行く時間すら惜しい。「早く早く」と焦る気持ちを抑えて桜はゴンドラが上がるのを待った。
「・・・っ」
運よくコクピットは開いたままだった。桜は飛び乗って、Gを起動させた。サブモニターが起動してそこに“MK-0”と表示された。見たこともないものだった。その機体は左の背中にエネルギーライフル、右の背中にロングタイプのブレードが取り付けられていて、それは“MADE IN DAIKI”と表示されている。さらに折りたたみ式のウィングまで付いている。飛行できるようだ。その機体の両サイドにはブレードとエネルギーライフルらしきものがそれぞれ1つずつ置いてあった。
「エムケイ・・ゼロ?」
ゆっくりとコクピットハッチが閉まる。
サブモニターだけの薄暗いコクピットのメインモニターが鏡の役割をして桜の顔を映した。
頬に泥がついて髪の毛もボサボサだった。
久しぶりに自分の顔を見たような気がする。
桜は表情を引き締めると、右手で顔に付いていた泥を拭った。
同時にメインモニターが灯り、外の世界を映し出した。
ゆっくりとMK-0は歩みを進めた。それを見て周りにいた整備兵達が慌てふためいた。
「うわっ!“ゼロ”が動いてるぞ!」
「誰が乗ってるんだ!?」
口々に叫ぶ整備兵達に桜は外部スピーカーで叫んだ。
「どいて!!出るわ!」
「女!?」
「おい!!司令室に伝達しろ!!」
聞こえてきた女性の声にさらにざわめきが増す。1人の整備兵が司令室に連絡するように叫んだ。すぐさまそれが司令室に伝わった。
「何!?Gが暴走している!?」
「・・・どうした?」
ただならぬオペレーターの雰囲気に司令官はその状況が表示されたモニターを見た。MK-0が格納庫内を2本のブレードを持って歩いていた。
「誰だ!?」
「時間がないのカタパルトを開けて!」
オペレーターの問いかけに返ってきた声が女性であったことに司令官も驚いた。
「所属を言え!!」
「もういいわ!!そこに責任者いるでしょ!先に謝っとくから、ごめん!!」
「はぁ!?」
意味の分からないことを言う女性にオペレーターは訳が分からなくなっていた。
「・・・ハッチを破壊するわ」
「おい!!ちょっと待て!!」
その声を聞く前に桜は左手のブレードを突き刺した。そして、左の背中からエネルギーライフルをスライドさせ構えた。そして、エネルギー弾が放たれた。凄まじい光を放って、カタパルトのハッチを吹き飛ばした。いきなりの行動に格納庫では凄まじい轟音と煙でさらに大騒ぎになり、司令室でも同じくらい大騒ぎになっていた。
「くっ・・・こんな時に」
司令官は帽子を取って頭を抱えた。


一筋の光が空に向かって放たれた。と、同時に爆発が起き、ハッチが吹き飛ぶのをエリスとカズが見た。
「な、何!?」
エリスのMK-2は既に右腕はなくライフルもない。彼女の機体を守って満身創痍のカズのMK-2が“白いG”の目の前に立ちはだかっている状態だった。炎の中からゆっくりと白い機体が姿を現した。炎が反射して薄い桃色に見える。その姿を見てカズは驚きの声を上げた。
「MK-0!?」
桜は左に目をやった。ダメージを受けた2機のこのGと同じようなモデルのGが“白いG”に迫られていた。桜は素足でペダルを踏み込む。ウィングが展開し、スラスターが唸りをあげる。一気に加速したMK-0は“白いG”に向かってブレードを振りかぶった。
「やあっ!!」
“白いG”はそれに反応し、後ろに飛んで回避した。が、次の瞬間MK-0は一旦“白いG”に背を向けると振りかぶって左手に持っていたブレードを投げつけた。
「はああっ!!」
真っ直ぐに“腹”に突き刺さるとそのまま後ろに飛ばされ、“白いG”はビルに叩きつけられる。ガクガクと痙攣した後、目から光が消えた。すぐさま2機目の“白いG”が空中から迫った。桜のMK-0はブレードを両手に構えると右足を一歩後ろに引いた。“ランサー”から放たれた、エネルギーライフルをしゃがんで回避すると、突っ込んできた“白いG”スラスターを生かした踏み込みの水平斬りで真っ二つにした。吹き飛ばされた上半身だけで動こうとする“白いG”に桜はそのブレードを突き立てた。“白いG”は右手を天に伸ばした状態で固まったまま動かなくなってしまう。桜はコクピットでひとつ息を吐いた。この機体はすごい。反応速度、出力、今まで自分が乗っていた機体とは次元が違うようだった。
「ふぅ・・・」
あっという間の出来事にエリスとカズは口を開いたまま呆然としていた。
「なに・・・これ」
「瞬殺かよ」
と、2人に突然通信が開いた。
「レッシュはどこ!?」
「は・・・?レッシュ??」
その通信にエリスは驚く。それが女性であったことも驚く一因だったのは確かだ。桜は早口で言った。
「深紅の鷹よ!!」
「あ、それなら“ビッグベン”の方に・・・」
「ありがと!」
桜が礼を言った時だった。十数ブロック先で爆発が起きた。それを確認すると桜は突き刺さっていたブレードを引き抜くとその方向に向けてMK-0を飛び立たせた。その後姿を見ながらまだ2人は唖然としていた。
「何だ今の・・・」
「さぁ・・・でも確かなのは」
エリスはシートに倒れこんでため息をついた。
「あのパイロットは只者じゃないわ」


「マサ!ねぇ!しっかりして!ねぇってば!!」
反応が無くなったマサにリナリーは泣きそうになっていた。目の前には“白いG”絶体絶命だ。その時だった。上空が一瞬陰になったかと思うと、何かが“白いG”の背後に着地した。と同時に縦に“白いG”が真っ二つに斬れて崩れ落ちるところだった。斬ったブレードが半分近く壊れている。桜は険しい表情を浮かべた。
「硬いわね・・・」
「な!・・・あんた誰!?」
リナリーは警戒してブレードを構える。が、そのGはくるりと向きを変えると“白いG”を睨んだ。背中越しに桜は通信を掛けた。
「ブレードを貸して!」
「女の人?ちょっと!あんた誰!?しかも、“ゼロ”に乗ってるし!!・・・誰なの?」
その時、リナリーのMK-2の後ろでゆっくりとマサのMK-2が立ち上がった。それを見てリナリーは安心で泣きそうになる。
「マサ!!大丈夫?」
「・・・大丈夫じゃねぇ。お前誰だ?」
マサの絞り出すような声に桜は同じ問いかけを繰り返した。
「あれを倒すのにブレードが必要なの!お願い!」
「だからあんたが誰、って聞いてるでしょ!?」
「リナリー・・・」
叫ぶリナリーをマサが制すと左手に持っていた赤い大きなブレードを地面に突き刺した。
「これを使え」
「ちょっとマサ!?」
「お前の実力は今のを見れば分かる。・・・ここはこいつに任せろ・・・リナリー・・・」
絞り出すような声にリナリーの心配は頂点を超え、泣き出してしまう。
「何よ・・・」
「悪ぃ、限界だ。後は・・・よろしく」
「マサ!?マサ!?」
そう言って、マサは気を失ってしまった。リナリーが必死に叫んでいるのが聞こえる。桜は赤いブレードを引き抜くと、背中の白いブレードを構えた。
「借りるわね」
行こうとした桜を涙声のリナリーが呼び止めた。
「ちょっとあんた」
「何?」
桜は通信用モニターに映った少女の顔を見た。涙を拭って彼女は言った。
「・・・負けたら許さないからね」
「当たり前よ」
桜はそういい残すとペダルを踏み込み、スラスターを全開にした。一気に飛び上がって“白いG”へと目指していった。その後姿を見てリナリーは呟いた。
「・・・負けないでよ」


桜は“白いG”の距離を一気に縮めると白いブレードを振りかぶった。“白いG”は“ランサー”でそれを受け止めた。
「くっ・・・」
“白いG”の左腕の内臓のブレードが突きを繰り出した。それを見切っていた桜は一旦引くと赤いブレードと白いブレードを重ねて一気にスラスターを全開にし、水平に斬った。“ランサー”で受け止める“白いG”だったが、桜のMK-0はパワーで押し返した。
「はあああっ!!」
そのままブレードで“白いG”を真っ二つにし、空中で爆発が起きる。それをリナリーは、マサをコクピットで抱えて見上げていた。
「・・・すごい」
桜は“ビッグベン”の方に目をやった。黒い2機のGと銀色のGと赤い戦闘機、離れていく黒い戦艦が見えた。


「レイ!何か来た!!」
「何だあれは!?」
ブラウの言葉に反応し、レイはその方向を見た。ジャックはその機体を見て驚いた。
「MU-GEN・・・だと!?」
いや違う。MU-GENではない。デザインや装甲が若干違う。だが、そのMK-0はMU-GENに酷似していた。赤と白のブレードを持ったGが真っ直ぐにこっちに向かってきていた。
「ちょっと!あれ、マジで何!?」
「わからん!データベースにないぞ!?」
レイは慌てて検索するがライブラリーにヒットするものは無かった。桜には黒い2機のGと赤いGには見覚えがあった。あれは・・・。
「赤いスピルス!?」
そして、黒い、大きなシールドを持ったGを見た。どちらが“敵”か、すぐに判断できた。
「レイの機体・・・」
桜のMK-0は真っ直ぐクリックスに向かうとブレードを振り下ろした。レイはすぐさま反応し、シールドを構えた。
「早いっ!」
「レイ!!」
「・・・その声は・・・美山少佐か」
レイは2本のブレードを受け止めるとふっと笑った。
「・・・生きていたのか」
「あんたは・・・ここで倒す!!」

桜は距離を取って、背中からスライドさせたエネルギーライフルを放った。





© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: