waiting for the changes

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68話:特別なこと


煙草をふかしながら黒いスーツに身を包んだ男が唸った。今回ばかりは仕方が無い。数の面で負けている以上、相当な実力差がないと勝つことは出来ない。それ以上、レイとブラウには咎めなかった。黒いいつもの制服姿のブラウは深く頭を下げた。
「申し訳ありません」
「いや・・・ヴィクトリアの攻撃管制を一瞬にして理解し、操作するとはな」
男は煙草を灰皿に押し付けると、煙を吐いた。レイの隣には金髪の青年が立っていた。
「“L”、“R”」
男が呼ぶと2人は一歩前に歩み出た。“R”は少し長めの金髪の青年で、“L”は“エデン・チルドレン”にしては若干年を取っている様に見えた。
「奴らはオーストラリアの宇宙基地から月へ向かうはずだ」
「・・・待ち伏せか」
「ああ」
“R”がこくりと頷いた。“L”も同じように無表情で言う。恐る恐るブラウは男に聞いた。
「あたし達は・・・どうすれば・・・」
「機体があれではどうすることも出来んだろ。・・・“2”と合流しろ」
「“2”・・・リッジ・クーパーですか」
レイが声を上げた。男がまた煙草に火をつけようとしていた。煙を吸い込んで吐いた。
「そうだ。“クローディア”は今、月の軌道上に居る。・・・“2”以外全員殺せ」
「はっ!」
「了解っ!」
レイとブラウは同時に敬礼した。


小走りに走る桜が曲がり角を曲がった瞬間前から来た人と激突した。
「きゃっ!」
「あうっ・・・」
「・・・ごめんなさい」
先に謝った桜だったが次の瞬間、聞き覚えのある声を耳にした。
「桜さん!?・・・どうしてここに!?」
「・・・ミラ?」
桜が顔を上げると金髪をおかっぱにした特徴的な髪型の女性がそこに居た。桜の顔を見て更に驚いた。こんな顔を見て驚かないわけがない。
「・・・それにどうしたんですか?何かあったんですか!?」
「大丈夫・・・うん」
桜はこんな姿を見られたくなかった。いや、ミラが“第一発見者”でよかったのかもしれない。レッシュじゃなくて良かった。
「・・・とりあえず、私の部屋に来てください」

ミラに促されて桜は彼女に付いていった。


医務室で談笑していたレッシュと優美に突然、隣の部屋から言い争いをする声が聞こえてきた。優美がビクリとして言葉が止まる。少年と少女だろうか、言い争いを始めた。
「・・・それでね」
「もう!無茶しないでって言ったじゃない!!」
「あの状況で無茶しないで居られるわけないだろ!!」
「それをやめろっつってるのよ!!!」
「あの“ゼロ”来なかったら俺たちは殺されてたぞ!?」
「・・・それは・・・」
少女の方の言葉が詰まった。しばらく間があって、少年の方の声がする。
「俺は家族を目の前で殺された・・・。もう目の前で大切なヤツが死ぬのはイヤなんだよ」
「え?」
「・・・あ、いや、待て!今のは撤回だ!!お前が・・・」
慌てふためく少年の声に少女の声が重なった。その声のトーンはさっきとは違う。愛しそうな、優しい声だった。
「・・・ありがと」
「いや・・まあ・・・」
「大丈夫。私はやられない。・・・こうやって、マサのそばに居るから」
「・・・ん」
「・・・」
「・・・」
少し沈黙が続いた後、少年の絶叫がこだました。
「あだだだだだ!!!」
「私を心配させたお仕置きよ!」
「傷口を叩くな!痛ぇ!」
「うふふ」
2人の声を超える声が更に響いた。
「コラァーー!!!静かにしなさい!!・・・あなたは怪我人だし、あなたも怪我人にちょっかい出さない!!・・・ここは病室です。静かに」
「「はい」」
しゅんとした声がして、壁の向こうは静かになった。レッシュと優美は顔を見合わせて小さく笑った。
「あははっ」
「・・・いいカップルだな」
「ね」
優美はクスリと笑う。
「お前のせいだろ」
「あんたのせいでしょ」
「看護師の方が五月蝿いよな」
「・・・ね」
コソコソ喋っている2人に低い声が重なる。
「・・・何か言った?」
「あ・・・いやー・・・」
少し経って看護師が出て行った感じがした。
「またエリスに言われるぞ」
「・・・それは怖い」
「だな」
そのあとも壁の向こうでは小さな言い争いが続いていた。


――――クローディア艦内
「ルティシア・・・」
“2”の居る部屋に制服姿の彼女が入ってきた。フロントホックとブラウスのボタンを外して楽にしている。“2”はもう“艦長”と最後につけることはなかった。ルティシアがしつこく「名前を呼び捨てで呼んで!」と言って、“2”が折れたような形になってしまった。“2”はまた、自分の部屋に来ているルティシアを見てため息を付いた。
「一体何をしに来ているのですか?」
「何って・・・。あなたに会いによ」
きょとんとして、さらりと言うルティシアに“2”は言葉を失う。
「・・・あなたは我々の上官であり、この部隊の指揮官です。・・・こんな一兵士の部屋に・・・」
そう“2”が言った時、ルティシアは“2”の正面に立って顔を覗き込んだ。じっと見つめかれて“2”はたじろいだ。
「・・・何・・・ですか」
「あなた・・・“正気”が戻ってるんじゃないの?」
「・・・何を」
ルティシアの突然の言葉に“2”は驚いた。ルティシアは腕を組んで、部屋を歩き、ベッドに腰掛けた。両手をベッドの上に投げ出して、“2”を見た。
「ここ最近世界がおかしいわ。・・・上に連絡をしても反応がない。反政府軍や傭兵にも狙われる。・・・それにあの“白いG”は何?あれは、世界政府軍の所属でしょ?・・・なんで攻撃してくるのよ」
ルティシアの言葉を“2”は黙って聞いていた。
「あなたのことも調べたわ」
その言葉に“2”がピクリと反応し、動きが止まった。
「・・・“2”と言う人が存在するという事実が無いわ。あなたは何者なの?」
そう言って、ルティシアはもう一度立ち上がって、“2”の前に歩み出た。
「リッジ・クーパー・・・“無限のクーパー”なんでしょ?」
その言葉に“2”は目を閉じた。開いたその緑の瞳はルティシアが見たこともないような輝きを放っているように見えた。“2”が口を開いた。
「・・・そうか」
「え?」
たった一言だったが、その口調が違うことにルティシアは気づいた。
「そうだ・・・私はリッジ・クーパーだ・・・・“2”などではない」
リッジはゆっくりと口を開いた。


――――士官室
「こちらにどうぞ」
桜が連れてこられた一室はお茶の香りがたちこめていた部屋だった。制服が掛けられたクローゼットの横の戸棚にはかなりの数のお茶の筒が並んでいる。そこにはラベルに漢字やひらがなで書かれたものも多くあった。
「・・・いい香りね」
「ありがとうございます」
桜はミラに促されるままに椅子に座った。ミラはお茶を入れる準備をし始めた。
「お茶、入れますね」
桜は深呼吸した。手で涙を拭って落ち着こうとする。まだ、心臓がバクバクいっている。落ち着こうとすれば落ち着こうとするほどダメだった。
「はい、どうぞ・・・あと」
湯飲みに入ったお茶を差し出すと、一緒にハンカチを渡してくれた。その優しさが嬉しい。
「・・・ありがと」
「えーっと、“煎茶”ってお茶です。日本の・・・って、知ってますよね」
苦笑いをするミラを見ながら桜は湯飲みを口に運んだ。懐かしい香りと味が口に広がる。心なしか落ち着いたような気がする。
「・・・おいしい」
「よかった」
ミラはホッとした表情を見せた。すると、すぐに泣きそうな顔になってしまった。
「よかった・・・ホントに・・・もう会えないかと思ってました・・・」
「・・・ホントね」
湯飲みを両手で持って太ももの上に置いた。ミラは少し涙が出たのか目じりを拭った。
「どーしてここにいるんですか?・・・それに・・・さっきの・・・」
聞こうか聞くまいか迷って思い切って聞いたような感じだった。
「あのあと・・・作戦は失敗して、私はリーダーと一緒に何とか逃げ切ったわ」
「リーダー!?・・・生きてたんですね・・・良かった」
ミラはまたホッとした表情を見せた。桜は続ける。ミラは自分の前に置かれたお茶を一口飲んだ。
「私はそのあとリーダーと別れて・・・“漆黒の鷹”と戦って・・・負けて・・・彼らの捕虜になったわ」
「捕虜って・・・“深紅の鷹”率いる部隊にですか!?」
驚きの表情を見せるミラに桜はため息を吐きながら肩を落として言った。
「ええ、そうよ」
「だって・・・“深紅の鷹”って、“エデン・チルドレン”だって噂になってます。それに、世界政府軍が、彼らに“AAAランク”をつけてますよ!」
「そんなに・・・」
驚きで早口になるミラの言葉に桜も驚いた。“AAA”が付くということは、世界政府軍が最も排除すべき対象、または、世界に与える危険度を表しているものだ。桜にはそれが納得できる。レッシュに、“漆黒の鷹”の翼に、“音速の皇帝”のジャック、“赤き巫女”、それにシルバリアスに乗る優美。凄腕の射撃管制官も居る。これほどまでに実力者が集まっている部隊は世界政府軍の中でもない。桜はゆっくりと言った。
「あなたに言ってなかったけど・・・私は嘘をついたわ」
「え?」
「あの時言った・・・レッシュって人は私の死んだ夫に声も、何もかもがそっくりなの」
桜が湯飲みをテーブルの上に置きながら静かに言った。その言葉にミラは驚かずに居られなかった。
「え・・・じゃあ、捕虜だって言ったのは・・・」
「嘘よ」
桜はきっぱりと言った。その声が悲しそうでミラは唇をかんだ。
「何で・・・」
「だって・・・“敵”の人間を好きになって、追いかけて、ましてや助けようとして・・・そんなの許されるはずが無いでしょ」
悲しそうに言った桜を見てミラも沈痛な表情を浮かべた。桜の心境は分からなくはない。胸が痛い。
「もう、私に居場所は無いわ。レッシュには優美が居る・・・。すがろうとするもの全てには、大切な何かを持ってる。・・・私はそれがないから、宙ぶらりんで・・・どうしようもないのよ」
最後の方、桜の声は小さく消え入りそうだった。ミラは顔を上げて彼女の顔を見た。
「桜さん」
「ん?」
桜が顔を上げた。
「私と一緒に、ヴィクトリアと・・・彼らと共に行きませんか?」
「・・・え?」
突然の提案に桜は動揺を隠せないでいた。


「どうして!?・・・“2”って・・・」
ルティシアは言葉を詰まらせた。自分から“仕掛けた”ことだったが動揺は隠せない。
「“エデン”は私を洗脳したつもりだったようだが、ここに赴任してしばらく立つとそれが薄れて行った・・・」
「・・・じゃあ、どうして今まで掛かったフリをしていたの!?」
ルティシアは疑問をリッジにぶつけた。その表情は思いつめていた。
「何で・・・ずっと嘘をついていたの!?」
「すまない・・・だが、こうするしかなかったんだ。そうでないと“エデン”に感づかれる」
リッジは小さく震えながら見上げてくるルティシアの肩を抱いた。
「・・・“エデン”って何?・・・あなたは何のためにこんなことをしてるの?」
「成すべきことの為にこの立場とこの環境が必要だった」
リッジはゆっくり答えた。ルティシアはリッジに更に詰め寄った。
「じゃあ、ずっと私達を騙して、利用してたの!?」
ルティシアはリッジを突き放すと背を向けた。悔しくて涙が出そうだった。そんな姿を見てもリッジの冷静さは変わらなかった。それがより一層ルティシアの胸を締め付ける。
「・・・だが、知ってしまった以上、君にも付き合ってもらう」
「・・・え?」
ルティシアは顔を上げ、振り返った。
「私はこれからもしばらくは“2”として行動する。・・・いいな?」
「待って!何で!?・・・何でまだ“2”でいる必要があるの?」
ジャックはルティシアの問いかけには答えてくれなかった。ルティシアの表情が引きしまる。
「イヤよ」
「・・・何?」
ルティシアの言葉にジャックはピクリと反応した。もう一度ルティシアは言う。
「イヤよ!・・・何で隠さなきゃいけないの!?・・・その理由を聞かなきゃ・・・私は・・・」
彼を振り払って部屋を出て行こうとするルティシアの腕をリッジは掴んだ。
「待て!」
「放して!!」
乱暴に振り払おうとしたルティシアだったがリッジはその手を放すことはなかった。ルティシアは抵抗をやめ、リッジに背を向けた。そのままリッジは小さく呟いた。
「・・・私の目的は“エデン計画”の破壊だ」


「どうして・・・」
「どうしてって・・・あなたは、今の“彼ら”に必要な気がします・・・」
桜の質問はもっともだった。世界政府軍に今までの行動を“許してもらえた”のだが、自分がレッシュや翼たちとこれ以上一緒にいる必要は無い。一緒に居るだけ、桜は辛かった。
「あのMK-0に乗ってたの・・・桜さんなんですよね?」
「ええ」
桜は小さく頷いた。ミラは笑顔を見せる。
「凄かった、って聞きましたよ。・・・あの力、生かさないともったいないです!・・・それは“彼ら”達と生かすべきです」
「でも・・・・私は必要とされていない!」
桜の沈痛な叫びを聞いてもミラは動じず笑顔のままだった。
「それは違います」
「居場所は自分で見つけなきゃいけません。・・・それに、必要の無い人間なんてこの世には居ません」
その言葉を聞いてはっとした。ミラは続ける。
「きっと、あなたを必要としてくれる人が現われます」
桜の胸に熱いものがこみ上げるようだった。

そう、あの時。

彼女に・・・優美に言われた言葉。

「あなたを必要としている人がきっといるから・・・だから・・・」

それが頭の中で繰り返された。

桜は深呼吸して目を閉じた。

・・・その言葉を信じよう。

“彼女”ならもう一度、信じられるかもしれない。
ミラは恥ずかしそうに言った。
「実は私・・・最初、ヴィクトリアで“彼ら”と一緒に行くのが怖かったんです。・・・でも、“彼ら”の実像は噂とは全然違った。一緒にヴィクトリアのブリッジで居ればすぐに分かりました。・・・それに、桜さんとも一緒ならば、私は・・・」
ミラの話が終わる前に桜が口を開いた。
「・・・私も行くわ」
その言葉を聞くとミラが微笑む。桜が苦笑いを浮かべながら続けた。
「“彼ら”がどう言うかわからないけど」
「・・・大丈夫です、私が何とかします!・・・何とかしなくてもきっと大丈夫ですけど」
「え?」
最後のほうがよく聞き取れなくて、桜は聞き返した。ミラは首を横に振って笑った。
「何でもないです!・・・あ、服ドロドロですね。着替えましょうか?あ、シャワーが先ですね!用意します!」
「・・・今頃気づいたの?」
笑うミラを見ながら桜は小さくため息をついた。


――――格納庫
「やっぱここにいたわね」
翼は寝転がったまま視線を上げた。エリーゼの顔が反対に映る。メガネを直して、彼女は翼の横に座り込んだ。
「やっちゃったわね」
「やっちゃったな」
エリーゼはブラック・バードに視線を移した。白衣のポケットに手を突っ込みながら鼻から息を吐いた。翼は天井を見上げたままだった。しばらく沈黙が流れて、エリーゼが口を開いた。
「ねぇ」
「何だ?」
「・・・私にブラック・バードを貸して」
その言葉に翼は飛び起きた。
「何!?」
「だから、私にブラック・バードを・・・」
「そういう意味じゃねぇ!!」
エリーゼの言葉を翼が遮った。エリーゼは顔色一つ変えずに続けた。
「このままでいいの?」
「・・・くっ」
翼は反論できずに黙り込んだ。ボソリと呟くように言う。
「よくねぇ・・・」
「・・・だから、私に貸して欲しいの」
そこでやっと、翼はエリーゼの言葉の真意を理解することが出来た。
「お前・・・BBを直すのか?」
「直す?・・・違うわ。“生まれ変わる”のよ。」
「・・・何?」
嬉しそうに笑うエリーゼの顔を見て翼はすぐに決心が付いた。迷っている時間はない。
「頼む」
翼はエリーゼに向き直り頭を下げた。突然のことにエリーゼはたじろいだ。
「ちょっと!?何、何?」
「俺は“コイツ”と・・・BBでレッシュと一緒に戦いたいんだ・・・だから、頼む!」
もう一度頭を下げた翼にエリーゼは笑いかけた。
「じゃあ、話は早いわ。・・・あなたにも手伝って貰うわよ?」
「ああ」
翼も、ふっと笑った。エリーゼが立ち上がって、翼に向き直って言う。
「“BB”、ってブラック・バードの略称?カッコイイじゃん」
「あ?」
「私もそう呼ぼうかなー?」
そう言うとエリーゼは白衣のポケットに手を突っ込んだままブラック・バードに歩み寄った。
「おい・・・その呼び方は・・・」
「分かってるわよ。・・・あなたの“特別”でしょ?」
エリーゼは振り返ると、メガネを中指で直しながら笑った。


「え・・・ちょっと・・・“エデン計画”ってこの世の中そのものじゃない!?」
リッジに言葉にルティシアは驚かずに居られなかった。振り返ってリッジの顔を見つめる。すでにAIによる統治が始まってかなりの年が経っている。しかも、世界の中心である“エデン”を破壊するということのスケールの大きさにルティシアは言葉を失った。
「そうだ。この世の中は間違っている。・・・私は“エデン”を破壊し“元の世界”に戻す」
「待って・・・“元の世界”って何!?・・・それに今、“エデン”が無くなったら世界は確実に大混乱を起こすわ」
ルティシアの言葉はもっともだ。世界の隅々にまで及んでいる“エデン”を破壊すればこの世界は崩れ去る。リッジは続けた。
「あの“白いG”・・・あれは“エデン”の末端だ。いわば雑兵だな」
「ちょ・・・じゃあ、“白いG”が“エデン”の手先だったら・・・」
そこまで言ってルティシアは理解した。“白いG”は“エデン”の手先で、世界中で起きている“白いG”による襲撃事件、自分たち、世界政府軍に対しても“白いG”は攻撃してくる。それは、つまり・・・。ルティシア息を飲んだ。
「世界の混乱が“エデン計画”なの?」
「それは我々の観点だ。・・・“エデン”の真意は“新世界の創造”・・・今の世界をリセットし強き者だけが残る“新世界”を作り上げる。・・・それが長年にわたる“エデン計画”の全てだ。・・・この話はこれ以上の意味を持っているが、これ以上、話すことはできない」
リッジはルティシアを見つめて言った。ルティシアは小さく「放して」と言った。その声を聞いてやっとリッジは手を放した。
「私はそれを阻止する。そのためには“エデン”を破壊するしかない。・・・その為の“鍵”も用意した」
「・・・“鍵”?」
ルティシアは首を傾げた。また分からないキーワードが出てきた。
「私は・・・まだ君を信用できてはいない。・・・このような条件で協力してくれと言うのは間違っているのかもしれないのだが・・・時間がないんだ」
リッジの言葉を聞いてルティシアは目を閉じた。そして、リッジに向き直ると真っ直ぐ彼を瞳を見上げた。
「・・・わかったわ。“2”」
リッジの顔が驚きの表情を見せた。ルティシアの口元が笑う。
「これでいいんでしょ?・・・あなたは“2”で、私は上官。・・・ね」
「ああ・・・ありがとう」
ルティシアはその言葉を聞いてはにかんだ。と、リッジは疑問に思っていたことを聞いた。
「・・・どこで気づいた?」
「あなたが、私の事を始めて“ルティシア”って呼んだときよ。・・・雰囲気が変わったもの」
ふっと笑ってルティシアは踵を返した。リッジは小さくため息を付いて部屋の扉を開けた。もう一度、ルティシアはリッジに振り返った。
「条件があるわ」
「・・・何だ?」
「私のことは“ルーティ”って呼んで」
ルティシアは腕を後ろに組んで彼に顔を近づけた。リッジは苦笑する。
「・・・注文が多いな」
「当然でしょ?・・・あなたがしようとしてることは、とんでもないことなんだから、それなりの対価が欲しいわ」
また、リッジに背を向けるとルティシアは部屋を後にしていった。扉が閉まる瞬間、背中でリッジの声がする。

「ああ・・・ルーティ」

扉が完全に閉まってルティシアははっとする。そして、嬉しさがこみ上げてきた。

“ルーティ”

その呼び方は今まで“大切な人”しか呼ばせない彼女の愛称だった。






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