Blue kiss

Blue kiss

誠実なすれ違い

誠実なすれ違い



沈黙が流れる。
この夜景の向こうに、無限と思われる深淵な宇宙があるのだ。
その闇に隠れた星の瞬きが滲んだ光の粒になって
零れ落ちてくる。

「どうしたの。」カズキが少し苛立った様に口を開いた。
「別に。なんでもない。」
「泣いてるじゃない。」
「なんでもないって。」
「愉しくない?」
「わからない・・・」

一瞬カズキは困ったように体を起こした。
「愉しもうよ。せっかくこうして時間を作って来たのに。」

わたしは、カズキを睨んだ。
「わかってない。カズキ・・・」
「え?何?」
「この時間は、どこに続くの?
わたしの未来のどこに続くの?」

何を言いたいのか自分にもわからない。
ただ、
カズキが正直であればあるほど
その正直な気持ちの中のわたしの存在が
実体のない幻に思えてきて
切なくてたまらなくなっていた。

「寂しくて、死にそう。」
思わず呟きが洩れた。

暫くカズキは黙っていた。
そして「俺に何を求めてるの?」
と真面目な顔をこちらに向けた。

その言葉を聴いた瞬間
悲劇のヒロインモードのスイッチがパチッと
音を立てて切れた。

馬鹿なことを・・・!
なんてこと言ってんだろう。
二人の時間をこんなに大切にしているカズキ。

今を愉しもう。

ずっとそうやって来たじゃない。
けれど、私の中の何かが変わってきてる。
正直になればなるほど、
互いの住みたい世界が違っているように
思えてくる。

こんな一瞬のひとことで、
こんな何気ないひとことで
どんな感動も消し飛ぶような
失望がやってくるなんて。

「レミ、帰ろう。」
カズキが腰を上げた。
険しい、しかも哀しい横顔だった。

ゴメン・・・カズキ
カズキの背中に謝ったわたしは
もう一度
今あるこの時間の向こうを振り返った。

大きなガラスの先の夜景は
やはり優しく静かにそこに広がっていた。


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