<“通好みな銘柄”より、“儲かる銘柄”が欲しいはず>
前回「誰でもできる差分を埋める方法」として電気屋さんに行く話を少ししました。今回はその具体的な話をするのですが、ちょっとその前に寄り道をします。
仕事柄もあり、昔から人に「何か面白い銘柄はないのか?」と聞かれるとは以前にも書いたような気がします。この場合の面白い銘柄とは決して“笑える銘柄”ではなく、当然“儲かる銘柄”という意味なわけですが、実は答え方が大変難しい質問です。私がファンドマネジャーであったり、投信投資顧問会社の社長をしていたりするからという意味でコンプライアンス的に“難しい”という意味合いもあるのですが、それよりもこの場合の難しさは“通好み”という匂いがしないと多くの方が簡単に納得してくれないということです。或いは「こいつ専門家だとか言いながら素人みたいなことを言うな」という顔をされるという意味で難しいのです。
でも本当に知りたいのは“儲かる銘柄”であって“通好みなイメージがする銘柄”ではないだろうとよく思います。長年この仕事に携わりながら実感しているのは、多くの人がその点を変に歪曲して考えるから銘柄選びが難しくなって、株式投資の敷居が上がっているのではないでしょうか。或いは日本人が(言葉の壁を乗り越えたりしないで済む)一番解り易い日本株を買わなくなっているのではないかと思っています。私に言わせれば、株式投資の銘柄選びとは案外簡単なもの、特に流行に敏感な女性(女の勘)にとっては本来とても身近で得意な分野のものだと思っています。
<ベートーベンよりフォーレ>
もう少しこの意味を説明します。例えば、音楽の趣味はなんですかと聞かれて「J-POPが好きです」というより「クラシック音楽が好きです」という方が何となく知的な深いイメージがあると思いませんか。ただそのクラシック音楽が好きだと言っときながら一番好きな曲がベートーベンの“運命”だとかドボルザークの“新世界より”だとしたら、急にその人のクラシック音楽好きという高尚さが色褪せて見えるような気がしませんか?
一方「フォーレのレクイエムかなぁ、あのSANCTUS(聖なるかな)の始まりの部分が本当に綺麗だから」などと言ったら「なるほど」といった感じになる、そういう意味です。誰もが知っているど真ん中の王道より、ちょっとマニアックな匂いを求めるというのでしょうか。
実は私は元々合唱部に在籍していたことがあるので、このレクイエムの歌詞も諳んじているほど親しみがあるのですが、私の感覚の中にあっては“ベートーベンの運命”がトヨタやソニーと言った誰もが知っている大型株で、“フォーレのレクイエム”はちょっとマイナーな中小型株といった感じです。前述の例に戻すと「何か面白い銘柄はないのか?」という問いかけに、例えばトヨタとかソニーと答えたら納得してもらえず、逆にあまり知名度の高くない中小型株の名前を出すと「なるほど、なるほど」とメモを取り出したりするといった感じです。でもそれって株式投資をする上では本当は遠回りな気がします。
<電気屋さんでの実話>
では電気屋さんなどで具体的には何をすれば良いのでしょうか? 実はこれも大変簡単な話です。個別銘柄に関する話なので、あまり直近の生々しい話はコンプライアンス的に微妙になるのでちょっと前の話を引き合いに出しますが、でも実話です。
2006年12月2日に新発売になった有名な電気製品があります。そう任天堂のゲーム機Wiiです。結論から言えば、そのあまりに飛ぶような売れ方の勢いに「これだ!」と思って任天堂( 7974
)を28,000円台で投資開始、その後株価はほとんど押し目なく上昇し、1年後の2007年11月1日には高値73,200円まで上昇したという話です。
今振り返ってみるとおかしく感じられますが、実は当時、任天堂のWiiに関してアナリストの評価はまちまちでした。良いと絶賛する人もいれば、たいしたことはないとか、ハード的には利益が出ないとか賛否両論でした。ただ私はいつものように百聞は一見に如かず、近所の電気屋さん(家電量販店と言われる大きなお店です)を何軒か回ってみました。しかし、あっちこっち回ってみてもどこも売り切れです。
ディスプレイ用に空き箱はたくさん並べてあっても、中身(在庫)が入っていません。良く見ると(入荷未定)の文字が並んでいます。終いには入荷予定も立たないので予約も受け付けなくなりました。結局私自身はイトーヨーカ堂で土曜日朝一番に列に並ぶと手に入る場合があるとのことで、株を買ってからWii本体を手に入れることになりました。そして、これだけどこに行っても買えない商品を作っている会社の株価が上がらないわけがないと確信、実際の投資行動(買い)に移りました。
<特別な知識は必要ない>
お気付きの通り、ここまで専門家然とした投資判断プロセスは何一つ踏んでいません。あくまでただ一人の消費者としての目線で評判の商品を求めて電気屋さんを回り、品切れであること確認し続けただけです。これならば誰にだってできそうな方法ではないですか? そして応用範囲が広い。要するに売れ筋になりそうな商品を見つけることができれば良いのです。それは必然的に身近なものでしょうし、普段いろんな方法で情報収集をして流行に敏感な方なら誰でもできると思います。実は同じ方法で外国株も投資判断することができます。代表例はiPodやiPhoneで飛ぶ鳥を落とす勢いのアップル( AAPL
)や、誰もがそのサービスを使っているグーグル( GOOG
)などです。
<この話のインプリケーション>
話は任天堂に戻って、多分今この話を聞かされてもWiiが任天堂の馬鹿売れ商品になったことは誰もが知っているし、株価がその後すごく上昇したことも株式市場に関わる人ならば常識なので、誰も驚きも感動もしないだろうと思いますが、実は少なくとも2006年12月頃からしばらくの間は相当に懐疑的な人が多かったのです。何よりそれが証拠に、わずか1年足らずで株価は2.5倍になりました。
つまり半信半疑であった人が段々と宗旨替え(良いのかも知れないと考え始めた)をしながら上値を買い求めて行ったということであり、だからこそ株価はあっという間に73,200円の高値まで値上がりをしたわけです。株は植物ではないので、水や肥料をあげれば勝手に育つ(値上がりする)というわけではなく、誰かが何らかの判断基準で「まだ上がる」と考えてその値段を買うからこそ、段々と値上がりするわけです。ここがポイントです。
つまり100人中100人までが値上がりすると思ったら、もう誰もその上の値段を買いませんから株価は上がらなくなります。逆に今回のように、半信半疑、ましてや専門のアナリストの意見が二分されているような時こそ実は絶好のチャンスなのです。そしてあとは自分自身で先見の明を持つということになるのですが、電気屋さんのような小売の最前線こそ、どっちに付くべきかを悩んだ時の絶好の判断材料を与えてくれる場所だと言えます。
<目の前で厳然と売れているという事実が大事>
作っても、作っても販売に製造が追いつかないからこそ店頭で商品が品切れします。売れる商品だとプロのマーチャンダイザーが確信するからこそディスプレイも棚割も目立つように大きくもなります。その結果が日報、週報、月報、四半期決算と段々と反映されて証券分析のデータ根拠となるわけですが、その最前線(最初のデルタ変化)こそ電気屋さんです。これ以上に確かなデータがあるでしょうか?
それを実感できる数少ない場所が電気屋さんなのですから、それを確かめに行けばいいのです。そして販売員にちょっと相談してみる。買う気がないのに質問攻めにだけしていたら嫌がられますが、多少の質問ならば喜んで答え、色々な付帯情報も教えてくれます。そしてできれば自分でも欲しくなるようなものだとより確実でしょう。私の場合、子供たちと話し合ってWiiについては「欲しい」という結論になりました。
<そのものズバリで良い>
さてWiiが売れそうだということは解ったとします。でも不思議なことにこの時「では、何を買えば良いんですか?」と聞かれることがあります。最初は質問の意味が解りませんでしたが、任天堂の話をしても駄目だということです。つまりそこで任天堂を買うのはベートーベンの“運命”を聞くようなもので、フォーレのレクイエムを教えろということのだと解りました。でも私の答えはこの場合、あくまで任天堂です。
機関投資家という立場で大きなポートフォリオを運用していると、時として銘柄を分散しなくてはならず、この場合だと任天堂一社に買いを集中させることができない場合があります。そういう場合に、例えばWiiのコントローラーを作っている会社の株を買ってばらけるという選択をする時がありますが、少なくとも個人投資家の普通の投資規模ならばそこまでは大きくはないだろうと思います。そのものズバリを買えば良いと思います。ましてやその会社の株主になるのですから、本家本元を買って所有するというのが株式投資の王道に適うと思います。
<身近なものでしょ?>
株式投資の銘柄選び、少しは身近になりませんか? こういう視点で始めると、きっと身近な有望企業はたくさんあるはずです。自分の日常生活、趣味、仕事など関わりのある企業は山のようにあるはずだからです。何も好き好んで難しいアプローチをすることはありません。要は売り上げが伸びていて、利益が増えること、そのことを数多ある企業の中から嗅ぎわける方法さえ見つけられれば良いのです。
ただこの方法だけだと時々ちょっとした落とし穴がありますので、次回はその注意する点について触れたいと思います。
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CEO兼最高運用責任者 大島和隆
(楽天マネーニュース[株・投資]第70号 2010年3月12日発行より) ==========================================================