<毎度のことながら市場予想を上回る>
先週4月13日、米国ハイテク企業の決算発表の先陣を切る形でインテル( INTC
)がCY2010の第1四半期の決算と続く第2四半期のガイダンスを発表しました。今月より火曜日のレギュラー・コメンテーターを担当させていただくことになったテレビ東京「イーモーニング」(午前9:00~9:27)の東証寄前コメント(13日放送分)の中でも“本日の注目材料”として取り上げさせていただきましたが、予想に違わず抜群の決算を発表してくれました。
発表になったのは現地時間13日のNY市場の引け後、すなわち日本では14日の早朝にあたるので、13日の日本市場の注目材料として取り上げるのはおかしいと思われた方もいらっしゃるかも知れませんが、それはちゃんと深い考えがあってのことです。
数多ある米国企業の中で、パソコンの心臓部であるMPUをほぼ独占的に全世界に供給するインテルのビジネス環境は、日本のハイテク関連企業にも幅広く影響を持つことは市場関係者にとっても周知の事実のため、その決算発表だけは株式市場が極めて注目していると言えるからです(機関投資家などが様子見を決め込むための言い訳とも言えますが……)。
事実、翌14日の日本株式市場では寄付きから関連と思われるハイテク株が値を飛ばして始まりました。当然、インテルの決算発表の内容及び第2四半期のガイダンスが市場予想を上回るものであったからです。そしてこれ、実は私の記憶の限りにおいては、2008年夏の決算発表から毎四半期、いつも同社は株式市場の予想を上回る内容を発表していると思います。つまりもう最低でも8回、ということです。
<世界最大の半導体メーカー!?>
インテルのことを説明する時、多くの場合その枕詞は「世界最大の半導体メーカー」と書かれることが多いと思いますが、私はこの言い方はあまり好きではありません。もちろん世界最大の半導体メーカーであることは事実ですが、半導体と言っても多種多様なものがあるので、その特徴がいま一つ浮かび上がってこないからです。少なくともロジック系とメモリー系では全然話が違うのでそれを区別したいと思うのですが、MPUメーカーといってしまうと「MPUって何?」ということになってしまうので、一般にはこの言い方は向かないのが難しいところです。
MPUとは「Micro Processor Unit」の略ですというような説明は以前にも詳説したことがありますので今回は省略しますが、要はパソコン1台には必ず1個は搭載されているパソコンの主たる演算を司る半導体であり、その市場におけるインテルのシェアは80%を優に超えているという事実から、同社のビジネス・トレンドはイコール“パソコン業界の動向”と言えます。だからこそインテルの決算は市場の注目を集め、それは今後のハイテク産業への投資方針を決めて行く上で極めて重要な指針を与えてくれることになります。今回の決算の内容とその後のカンファレンスの内容をまとめると以下の通りです。
・第1四半期(1-3月)
-売上高103億ドル(前四半期比3%減)
-ガイダンス:97億ドル±4億ドル
-コンセンサス:98.1億ドル
・第2四半期(4-6月)
-売上高ガイダンス102億ドル±4億ドル
-コンセンサス:96.8億ドル
・1Q粗利益率ガイダンス対してやや上振れ
-要因は、新製品寄与によるASP改善
-数量増、コスト削減等
・流通在庫健全なレベル。OEM/チャネル在庫横ばい
・自社在庫はさらに積み増しが必要とコメント
・32ナノ製品立ち上げ順調、供給が需要に追い付かない
・ハイエンドPC向けが好調。コーポレート向けも好調
・PC需要、1カ月前、四半期前より強くなってきている
<市場コンセンサスよりも上というのがひとつのポイント>
よく新聞紙上などで「最高益更新!」といかにも株価が喜んで上がりそうな見出しが出ても株価が上がらない時があります。逆に、例えば「3割減益」という叩き売られるかも知れない見出しの時に株価が上がる時があります。その主な理由は「市場がすでに織り込んでいたから」というのが通説です。要するに毎日毎日株が売買される中で、おおよそ誰もが取得しうる情報とだいたい共通の認識ならばそれは株価にすでに反映していて、その記事を見た時に「ああ、やっぱりな」と思えば株価は動かないし、逆に「これは凄いな」ということになれば、上か下かのどちらかに動くということです。
一見すると好材料でも、そもそも市場がすでに「良いだろう」と思っている時は、それ以上の結果を出さない限り、市場はもう喜びません。逆に「今期は厳しいだろうな」と皆が思っている時ならば、「あ、その程度の減益で済んだのか」などと売り込み過ぎを買い戻す時もあります。
そこで問題になるのがコンセンサスということになるのですが、上記の表をご覧いただけるように、第1四半期の実績も、第2四半期のガイダンスも市場コンセンサス(市場参加者の共通認識)を上回った素晴らしい決算が発表されました。同社の株価を追っているだけならば、ここまでの内容だけでもある意味充分と言えます。中には「これで材料出尽くし」と思った人もいるかも知れませんが、通常はその逆であり、更に同社の場合はこれが8四半期は続いているということを忘れてはなりません。
<ポイントは他にもたくさんある>
凄くシンプルなことを言えば、インテルの決算を通じて他社の動向や業界動向を探るヒントは数字よりもコメント類に多く現れます。英語で書かれているので読み辛いというのもあると思いますが、読み慣れてしまうとたいしたことではないので、個人投資家の方でも同社Webサイト(本国)に行ってご自身で読まれることをお勧めします。とはいえ、ちょっと概説してみましょう。
先程の表に戻っていただいてコメントを読んでみて下さい。在庫のことが書かれています。在庫にはいくつかの種類があって、流通在庫と自社在庫が大まかな分類ですが、どちらも足りないということをコメントしています。つまり作った端から売れて行くということです。これが流通在庫はないけれども自社在庫が膨らんでいるとか、自社在庫はないけれども流通在庫に溜まっているということだと需要が落ち込んでいることになるのですが、共に適正以上に少ないということになれば、極めて需要が強いことになります。
従来はAtomと呼ばれるネットブックPC向けの新製品が数量を伸ばしていましたが、今回はハイエンド向けや企業向けも好調だと言い出しています。これはマイクロソフトの状況とも併せて考える必要がありますが、昨秋登場したWindows7が遂にWindows XPからVistaに切り替えることを逡巡していた法人需要をも動かし始めたことを示していると思われます。
そして32ナノ製品の立ち上がりが好調で供給が需要に追い付かないというのは、最新のMPU(詳細はロードマップを見れば解りますが、話が複雑になるので省略します)が順調に市場に浸透して行っていることを表しています。そして需要が日を追うごとに強くなっている感じを伝えています。これだけでも相当に投資対象への絵は描けるというものです。
<投資対象企業を考える>
パソコンがMPUだけでできているものでないのは誰もがお分かりだと思いますが、インテルが作っているのは、そのMPU製品の中心で働いているシリコン(半導体)の部分だけです(マザーボードも多少作ってはいますが……)。通常誰もが目にする、例えばCore i7やCore2Duoと呼ばれる製品はそのシリコンをすでにパッケージに包んでしまっていますので、その中心のシリコン部分を見ることはできません。それを作っているのは日本の技術です。
パソコン1台を頭に浮かべていただき、どんな部品がついているかを考えてみて下さい。パソコンを買う時にこだわる性能の部分と言い換えても良いかも知れません。例えば、メモリーは4G欲しいなとか、HDDの容量は最低でも500Gは欲しいなとか、或いはDVDに書き込めるだけではなくてBD(Blu-ray Disc)が欲しいなとか思われませんか?
パソコンを頻繁に自作する私のようなマニア系でもない限り、普通はモニターも一緒に買い換えると思われますが、大画面にしようとか、横型にしようとか、いろいろとこだわりを持って商品選択をされると思います。インテルのMPUが売れているということは、当然にしてそれらも付随して売れているということです。
最近は韓国や台湾の企業も多くなりましたが、今でも値段で勝負という分野にならないものの多くは日本の技術が支えています。HDDのモーターやその磁気ヘッドは典型的なそうした商品です。また商品として消費者の目には止まり難いですが、デジタル・ノイズを除去するために必須の積層セラミック・コンデンサーなどもその好例です。投資対象を探すことは楽しい作業です。
<でも、一番のポイントは?>
今回のインテルの決算から見えてくることをまとめてみましたが、一番のポイントは何かと言えば、それは市場の予想が8回も外れているということです。それも毎回市場の予想の方がアンダー・エスティメートだということです。金融市場はリーマンショック以降、いろいろなことに懐疑的になっています。そしてある面では強気なことを言うのに自信をなくしています。そうこうしている間に、ネットブックPCに代表される安いパソコンが大量に消費者に受け入れられ、スマートフォンが普及し始め、そしてiPadのようなものが爆発的に市場に受け入れられ始めています。
これはコンピューティング環境、とりわけモバイル・コンピューティングの環境が自体が変わってきていることのひとつのサインだと思います。この流れを読むか読まないかで、インテルの決算を市場は毎回毎回過小評価して来たのではないでしょうか? 実は同じようなことが、ITバブル前夜にあったと記憶しています。私はいろんなことがとても面白くなってきたと感じています。
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CEO兼最高運用責任者 大島和隆
(楽天マネーニュース[株・投資]第73号 2010年4月23日発行より) ==========================================================