<内閣支持率の低下と日経平均株価>
その一方で、内閣支持率の低下など全く関係ないというトーンで日経平均株価は11月2日につけた終値9,159.98円を底値に3営業日で9,700円台まで回復しています。因みに、原稿執筆(11月8日時点)の日経平均株価の終値は9,732.92円です。NYダウが年初来高値を更新してリーマン・ショック前の水準を取り戻したのに比べれば、それでもはるかに出遅れていることは否めませんが、内閣支持率の低下のみならず、ねじれ国会を抱えて来年度予算審議もままならない日本市場の株価、このまま上昇してくれるのでしょうか?
<先進5カ国中で出遅れる日経平均株価>
添付したチャートは2009年3月初めを100として比較した先進5カ国(米国、ドイツ、フランス、英国、日本)の株価推移のチャートです。
ご覧いただける通り、いわゆる先進5カ国の株価運びの中で、日本のそれ(最下段の青線)だけがある時を境にしてとてもアンダーパフォームしていることが解ります。今現在で比較すると、ドイツが180%を超えてトップですが、4位のフランスでさえ150%を超えるプラス・パフォーマンスを示しています。一方、我が国日本は情けないほど出遅れており、わずかに110%です。
いつからこんなに出遅れたのか? チャート上で見ていただけると明らかですが、2009年8月の終わりから9月の初めにかけて変化点を迎えているということが解ります。この時に何が日本に起こったかというと、熱狂的な支持を受けての民主党政権誕生です。国民に信を問うことなく、安倍⇒福田⇒麻生と首相の首を据え換えることで、政権与党であることを延命し続けた自民党政治に対し、国民がNOを突きつけ、圧倒的多数を持って鳩山民主党内閣が誕生した歴史的な瞬間です。
しかし、この頃を境に日本株式市場の株価は先進5カ国の中で大きく出遅れ始めたことが見て解ります。政権支持率との関係は今とはまったく逆の状態で、支持率の高い政権が誕生したにもかかわらず、株価が低迷を続けるという状態が続きました。
<日本の信用リスクと株価の相関関係>
さて、もう一枚のチャートを見ていただきましょう。これは日本国債(5年)のCDS、すなわち日本に対する信用リスクの市場評価と東証TOPIXの推移を比較したチャートです。
ご覧いただける通り、赤線で示した日本の信用リスクが低下する局面では、通常青線のTOPIXは上昇し、逆に信用リスクが高まっていると評価される局面においては、株価は下落するという当たり前とも言える「負の相関関係」を持っていたことが解ります。しかし、この負の相関関係も2010年7月の頃から「正の相関関係」にあたかも変わってしまったかのように見えるようになりました。言い換えると、日本の信用リスクが低下し、過去の経験則からは株価は上がっても良い局面にありながらも低迷を続けているという状態です。
さてそんな状態になった2010年7月頃の日本に何が起こったのかと言えば、まだ記憶に新しい参議院選挙です。「政治と金」の問題などで鳩山前首相が小沢前幹事長と共に辞任した直後の参議院選挙、当初は衆議院選挙と同じように民主党が躍進すると言われていましたが、結果を見れば民主党が大敗して法案審議が難航する「ねじれ国会」という状態へ突入しました。
野党時代にはあれほど「首相の首を据え換えるのではなく、国民に信を問うべきだ」と主張していたあの民主党も、実際政権与党になってしまうと鳩山⇒管とあっさりと首相交代を実現し、そのわずか2カ月後には再度党代表選挙で鳩山⇒管⇒小沢との首相交代の可能性をも残すという状態で迎えた参議院選挙です。
当然と言えば当然なのかも知れませんが、そんな選挙結果が出た時と時期を同じくして、日本の信用リスクとTOPIXの負の相関関係が崩れています。もっと平たく言えば、日本の信用リスクが下がっても株価が上昇しない局面へと入ってしまいました。これらで見る限り、日本の株価が冴えない展開が続いている大きな理由は政治にあると、どうしても考えたくなるのは私だけではないだろうと思えてきます。
<ドルベースやユーロベースで見てみよう>
さて、それでは政治のせいではないという考え方を示す方法を考えてみます。次のチャートは日経平均株価を円ベース(黄緑)、ドルベース(青)、ユーロベース(赤)と3つの前提で2008年1月初めからをグラフ化したものです。スタートを100としてあります。ご覧いただける通り、実はドルベースやユーロベースで日経平均株価を見ると、何と今現在見事にリーマン・ショック前の水準を回復していることが解り、前述の先進5カ国の株価推移と比較しても遜色ない株価運びになっていることが解ります。
つまりこれで見る限り、日本の株価が冴えないのは「円ベース」で見るからであって、グローバルな投資家の目線で見れば決してアンダーパフォームなんてしていないということです。きっとすべて為替のせいだということです。日本という国の通貨自体が高く評価されているので、「強い円は国益に適う」と財務大臣が言ったか言わないかは知りませんが、グローバル・スタンダードで見ればきちんと回復しています。
<なんでこんなに窓が開くのか?>
しかし当然のことながら円で暮らす日本人としてこんなまやかしの分析結果に納得できる訳がありません。円ベース見れば、マイナスはマイナスなのですから。ただ最後にもう一枚、次のチャートを見てください。これは今年に入ってからの日経平均株価の日足チャートですが、ご覧いただける通り滅茶苦茶たくさんの窓が開いており、3時に大引けを迎えた後、翌日9時の寄り付きまでの間に市場を取り巻く環境が頻繁に大きく変わったことを暗示しています。通常、地球を一回りしてくるまでの間に諸々のことがあるとしても、そうそう簡単に窓が開くということは起こりません。たまにそうなることがあるから話題となるわけです。しかし今年は様子が変わっています。
この意味するところはなんでしょうか? そう、日本市場が日本固有の理由によって変動するよりも、海外要因で変動することが大きくなっていることです。これは市場占有率で外国人投資家のシェアが増えているということとも正に繋がっていると思われ、だからこそ、先程のドルベースやユーロベースでの日経平均株価の動きと言うのがあるのかも知れないとも言えます。ここは日本の株式市場ではなくなってしまったのでしょうか?
<政治が変わってくれることを願う>
今回の見立てはふたつの教訓が与えられているように思います。まずひとつは、政治が変われば円ベースでの株価は上がるかも知れないということです。単なる偶然の一致かも知れませんが、選挙の時を境に市場がこうも大きく変わっているとすれば、あながちそれを関係なしとは言えないと思います。もうひとつは、市場を動かしているのがドルベースやユーロベースの外国人投資家なのだとするならば、評価も含めて、彼らの目線で考えないといけないということです。
小泉内閣当時、外国人投資家が日本の構造改革を信じて株を買った時がありました。それが正に後戻りしたのが今だ(それが選挙結果に出た国民の選択だったのも事実です)ということが言えると思いますが、株価が国内政治の混迷を無視して外部要因(外国人投資家の目線)で上昇している間に、早く政治が株価にとってのポジティブ・ファクターとなってくれることを切に願うばかりです。正直、現状はあまりそれが期待できるとは思えませんが、せめてもう足を引っ張らないで欲しいというのが市場参加者の本音です。
円ベースで株価がきちんと動けば、それをドルベースで見た時は抜群のパフォーマンスになり、それこそ出遅れないように外国人投資家が買って来るかも知れません。
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楽天投信投資顧問株式会社
CEO兼最高運用責任者 大島和隆
(楽天マネーニュース[株・投資]第86号 2010年11月12日発行より) ==========================================================