< 出会い系なんです >

「出会い系なんです。」
本田君はいつでも唐突だ。
「彼女との始まりは出会い系なんです。」
最初から主語述語の整った日本語を使って欲しいと願うが、半分諦めてもいる。
それより出会い系だから何だというのだ、本田君はなかなか次のセリフを言おうとしない。
彼はなまじ頭が良いせいだろうか、時々言葉を選ぶように考え込む。
考えに考えたあげく唐突で意味の通じない言葉を用いる。
おそらくショートした思考回路から絞り出されるギリギリの自己表現なのだろう。

彼が言葉をはき出すまで、私も考える。

人は何かを求めて他人との接点を探す。
それが知的な交流であったり、快感を伴った痴的(こういう単語があればの話だが)交流であったりは知った事ではない。
要するに生活するためだけに社会に属しているのではなく、外的な刺激が欲しいから社会に属しているのだと思う。
その手段が出会い系と呼ばれるネット上の場所であっても特段問題は無かろう。

やっと本田君が口を開いた。
「略奪したんです。」
またしても主語も述語も無い言葉。
しばらく彼の顔を見ているとやっと正しい日本語が聞けた。
「彼女と出会った当時、彼女には旦那さんがいたんです。でも、それを略奪したんです。 略奪というと言葉が汚いですが、僕を選んでくれたんです。」
「よかったね。」
めいっぱいの愛想笑いを本田君に向けながら心の中で「だから何なのだ!」と言いたいのを我慢していた。
「だから、今度は僕が誰かに彼女を略奪されるかも知れないんです。」
本田君は自分に対してはあまり高い評価をする男ではないのだが、身内や持ち物に関してはやたらと評価が高い。
フィアンセについてもこの例に漏れていないのだろう。
最愛の彼女が離れていく事を結婚する前から心配しているのだ。

私は愛想笑いを崩さないように言った。
「心配ないよ。」
ここまで言ってこのセリフの続きの「君の趣味は変わっているから。」というのを「彼女は君以外の男など見ないよ。」とすり替えた。
大人って狡い。 改めて自戒する。


© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: