< 本田君の幸せ >

今日の本田君は絶好調だ。
朝から鼻歌が止まらないらしい。
どうでも良い事だが、トイレで横に並んで小用を足している時にこちらを向きながら笑顔で鼻歌を歌うのは気が散るし、生殖器むき出しの男二人の状況で目を合わせる事自体不気味なので何とかして欲しい。
しかし、温厚にして彼の幸せを願う私にはそんな事は言えなかった。

さて、いつまで鼻歌を続けるのだろうか?
目的は幸せを表現する事だというのは誰の目にも明らかだ。
必ず誰かの顔を見ながら鼻歌をしている。
それは「本田さん、何か良い事有ったのですか?」と聞いてもらいたいという意図が見え見えである。

しかし、誰もその事は聞かない。
聞いてしまったが最後、彼はマシンガンのように言葉を打ち出すであろう。
しかも、いつものようにちょっとピント外れの話術で。

誰かがこの場所を不自然な理由で抜け出したらバランスは崩れるだろう。
とても恐ろしい事だが、私以外は全員ここを抜け出す正当な理由を持っている。
私に救いの手がさしのべられるとしたら、朝からのこの状況を知らない新参者が本田君に声をかけるか、本田君が別の場所に鼻歌を歌いに行ってくれるかの二つに一つだ。

そしてその時はやってきた。
何も知らない鈴木さんが声をかける。

「本田さん、嬉しそうですね。何かあったんですか。」
そしてみんな逃げていった。
私もとりたてて飲みたくもない缶コーヒーを買いにコンビニまで。
愛すべき本田君の幸せについては鈴木さんから説明を受ける事にしよう。


© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: