もえうぉっち

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桜絵巻怪異譚 3桜神丸


放っても放っても、血流はある一点へと向かってゆく。

溺れるとはこういうことなのだろうな、狩野実平は朦朧とした頭で考えた。
幾ら衆道がはじめてとはいえ、三十路も過ぎた男である。
女の味くらい知っている。
それが10代の頃ならいざ知らず、そう、まるで野猿のごとく。

しかし、とまらないのだ。
魔に魅入られたように、そのカラダから離れられない。
腕に抱かれる少年に目をやる。
つややかな黒髪は汗やらなにやらで濡れそぼり
そのうちの一筋が乱れて唇のはしにかかっている。
唇から声ではなく吐息が漏れた。

―も・っ・と

古びたお堂は板張りで、春とはいえまだ冷たい。
睦みあう二人の下には薄い水干があるばかり。

実平は今や馴染みとなった桜神丸の菊座に指を二本すべりこませる。
幾度となく放たれた白濁のぬめりで、そこはもう女体のソレのようだ。
深く抉りかき回すと、何かの拍子に桜神丸から声が漏れる。

「あっ ん あぁ・・・・」

実平は指でかきまわしながら、反対の腕で少年をかき抱く。
首筋、わき腹、太もも、およそからだの表面すべてに紅い印が散っている。
それでもなお白い部分を探すかのように実平は桜神丸にくらいつく。

いや、食われているのは・・・こちらのほうだ。
桜神丸を己自身で何度も穿ちながら、実平は確信する。
食らっているのは、桜神丸・・・・。



「そなた、ここで暮らしているのか?」

いまだ名残惜しそうに桜神丸を抱きつつ、仰向けになって実平は問うた。

「まぁ、そうなるかの。正確にはこの裏手にある樹齢100年の桜の樹に」
「はははは。そうか、そなたは桜の精か」
「うれしそうじゃの」
「いや、そなたこれまでは己を鬼よ、魔よとばかりゆうておったから」
「・・・・・」
「桜の精ならば、受けいれようというものだ」

桜神丸は突然がばと起き上がり、実平を冷たい目で見据えた。

「鬼はいかんが、桜の精はよいのか。なにゆえ、そう言える?どちらもヒトではなかろうに」

実平はあっさりと答えた。

「いかんとか何とかではない。そなたは鬼ではない。それだけだ」

「なぜ鬼でないと言える?」

ニヤリと笑う桜神丸に、実平は暖かいまなざしを向けた。

「鬼では困るのだ」
「・・・・?・・・」
「我が家へ来ぬか」

とまどう桜神丸への実平の視線はどこまでも澄んでいた。

「痴れたことを。家人が騒ぐぞ。わたしは鬼だ」
「家人などおらぬ。独り者ゆえ、そなたも気が楽だろう」
「・・・・妻はおらぬのか・・・?」
「あぁ、女は囲うておらぬ。親も、親類縁者も皆逝ってしまった」
「まて、狩野一族といえばそれなりにたくさんおったのでは・・・?」
「知っているのか?まぁ、祖父の頃には隆盛を誇ったらしいが、このじじいがなぁ」

実平は刀の柄にくくってあった水晶の勾玉を手に取り、眺めながらつぶやく。

桜神丸は、顔を背けてはいるが、こちらの話をじっと聞いている。

―よりによって藤原氏の稚児に手を出しての。
 藤氏の怒りを買えばただでは済まぬ。せっかく殿上しておったのに降格だ。
 さらに不幸は重なるもので、親類縁者が次々と疫病や怪異に見舞われ亡くなったのだ。

 当時オレはまだ乳飲み子だった故詳しくは知らぬが
 母者はよく病床で藤氏が呪をかけたと大層恨んでおったなぁ。

 そのせいかは知らぬが、じじいは降格された途端に隠居してしまって
 なにやら怪しげな陰陽道やら祈祷やら、呪やらに没頭しておった。
 おかげで家はすっかり落ちぶれてしもうてな。
 いま、オレにあるのは、荒れた家屋敷とこの水晶だけだ。

 今はなんとか検非違使の職についているが、気楽な一人暮らしだ。
 まぁ、炊屋(かしきや)のことはできぬゆえ、手伝いのオンナが通ってきてはいるがな。―

「そこで、だ。ゴホン。そなたも共に暮らさぬか・・と(////)」
「われを女子のかわりにいたすつもりか?」
「ば、バカを言うな!」
「では、なんなのだ?」
「じょ、情が・・・・うつった・・・のだ・・・(/////)」
「やれやれ、惚れっぽいことだ。そなた、じじいを笑えぬぞ」
「うっ、うるさいっ。皆まで言わせるそなたが野暮というものだ」

桜神丸は、長い睫毛を伏せたまま、寂しげに笑って言った。

「のぅ、実平。その相手の稚児の話を聞きたくはないか?」
「あぁ、その稚児もひどい目にあったことだろうな。じじいにさえ目をつけられなんだら贅沢三昧であったろうに」
「そなたは、お人よしじゃ。まぁ、聞くがよい」



夜の帳(とばり)の中、宿直(とのい)の間からひとりの直衣(のうし)姿のオトコが音もなく抜け出す。
白洲をわたり、内裏を抜け出し、何条かの屋敷にすべりこむ。
慣れた様子で渡殿(わたどの)を進み、ある部屋の板戸をほとほとと叩く。

「さくら、さくらの君よ」

と、静かに戸が開く。

「狩野様、種平さま、どうぞおはいりくださいませ」

オトコはすべるように部屋に入った。

「さくらの君よ、会いたかった!」
「種平さま。われとて同じでございます」

待っていたのは、年のころ15、6の少年であった。
ふたりは恋人同士のように熱い抱擁をかわす。

「御酒でもお召しになりますか?」
「いや、もう宿直の間でたらふく。それよりもそなたがよい」
「あれ」

種平と呼ばれたオトコの手にひかれ、
さくらの君の身体は、すっぽりと胸の中へ。

種平の手により衣を解かれ、曝け出された肢体は、ほの暗い灯心のもとでなお眩しかった。
まちきれぬように、己が衣をとり、さくらの君をかき抱く。
そこから灯心は吹き消され、あたりは闇に包まれたが
ごそごそとなにやらうごめく音と、甘くあえぐ声が響くばかり。



寝乱れた髪を指にからめる種平に、さくらの君が告げる。

「われの髪を落とす日取りが決まりました」

髪を落とす、つまりいっぱしの貴族となり囲われ稚児ではなくなるわけだ。
種平は心底うれしそうに、さくらの君を抱きしめた。

「やっと藤氏の稚児ではなくなるのだな。晴れて自由の身なのだな」
「儀式は藤氏が行いますので、自由ではないでしょうが、今の浮き草のような身分ではなくなります」
「長かった。早いものは10歳で髪を落とすというのに、そなたはその美貌のせいでずいぶん遠回りをしたの」
「稚児も育ってしまえばむくつけき男ですから、用済みといったところでしょう」

種平はさくらの君のほおを愛しそうに撫でる。

「わたしには、これから用がたんとあるのだぞ」
「種平さま。われが髪を落としても、今と同じように愛してくださりまするか」
「痴れたことを申すな。当たり前だ」

どちらからともなく唇をよせる。
また夜の睦言が始まる。
求めても求めても止まぬ、際限なく惹かれあう。
何度も何度も上になり下になり、いつ果てるとも知らず秘め事は続いた。

「種平様、そろそろ明けの鴉(からす)が鳴きまする」

桜神丸はけだるげに半身を起こし、種平を優しく揺り起こす。

「む。いかんいかん。寝過ごした。疾く戻らねば」
「お急ぎくださいませ、今ご用意を」
「そなたは寝ておれ。ちと無理をさせたようだ」

種平ははらりと砧紙(たとう)を渡す。
桜神丸は頬を赤らめ、それを受け取ると、そっと菊座にあてがった。
種平の白い欲望がどろどろと流れ出てくる。

種平は急ぎ衣をまとうと桜神丸の頬に唇を落とし
「また、明日くる」と残して、部屋を去った。
その後姿を伺う、さくらの君ではない影に気づかずに。

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