「なぁ、蓮」
声をかけても返事がない。
「返事くらいしてくれんか?」
蓮の肉体は腕の中にあるのに。
「蓮…。」


そして君は蝶になった。




蓮が目を覚まさなくなってから早一週間。
周りのものからすれば早い一週間という時も、葉にとっては一ヶ月にも一年にも感じられた。
「蓮。」
葉の口からはこの単語しか出てこない。
今、蓮は民宿炎の二階に寝ている。
そして葉はそのそばから離れようとしない。


「蓮、蓮…」
「いい加減そいつから離れたら?」
ふすまを大きく開け仁王立ちしているアンナを横目で視界に入れると
葉はまた蓮だけを見つめた。


「蓮蓮蓮」
「もう返事さえしないやつの何処がいいの?」
「お前なんかより数万倍いい」
アンナが小さく舌打ちをした。
「…もう二度と起きないのに?」
「わからんよ、明日でも、来月でもいつか必ず蓮は起きる」


「魂がないのに?起きられるわけないでしょ」


その言葉を聞いたとたん葉の体中に火が通ったようだった。
「お前が、やったんか?」
「…そうよ。その子が死ねばあんたが私のもとに戻って来ると思ったのに!!
 なんであんたはその子しか見ないのよ!!
 私を見てよ!!ね…」
気づいたら葉の瞳が死に神のようで。


「アンナ、お前殺してやるよ。」
「なっ!」
「それで蓮が助かるンなら。十編も百編も殺してやる」
「あんた、本気でいってるの?葉」
「ああ本気も本気だ。それに今となっちゃ、お前じゃおいらを倒せねえ」


絶望を感じた。
二度と抜けることは出来ない泥沼に、アンナは落ちたような錯覚を感じた。
「でも殺さねぇ、そんなん時間の無駄だし。起きたときに蓮が泣いちまうからな」


そう言うと葉がアンナの方を振り返ることはなかった。

                                   End


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