翡翠へ







答えはすでに知っていた。


  ~秋夜~

「       、じゃあね。」
Y字型の分かれ道で友達にわかれを告げる。
左手に目を向ければ、もう七時五十三分。だいぶ遅くなってしまった。
秋分も過ぎた10月の午後。こんな時間になってしまえば辺りはすっかり暗い。
人通りも少ないこの道でひとりぽっちは怖いもので。
犬の吠える声にも肩が震える。
真っ暗な晩。それが嫌いで嫌いでしょうがない。
風も冷たく、こんな晩。


  あなたに会いたい


なんて、思ってみたり。
無理だとわかっているのに、かなわないとわかっているのに。
願ってみるだけと心につぶやき。
強く、強く。    願ってみた。…その時。


    一吹きの風が、魔法をかける。



「風邪ひくなよ」
風で掻き消されてしまうような小さな声が、私の横を通りすぎた。
ふいをつかれたせいで空耳のようにも感じたが。
それは確かにあなたでした。
そのまま振り替えず去っていくあなたの姿が目に焼き付いた。
そして、あなたに惹かれていく。
浮いた足で家まで帰り、ふと窓を見上げたら。

  今宵は、美しい満月の晩。


月の光のあたるところで
あなたは何をしているでしょうか?
私と同じことだったら
とってもステキなことなのに

すんだ秋の夜空には
月の光がまぶしくて
思わずあなたを思っては
一人ため息ついてしまう

とても とても 大好きなのに
とても とても 遠い人
「この距離をうめるもの」
あなたはきっと知っている

正直なあなたが、
ツキアカリのようにあたたかい、あなたが、
とても
とても
・・・大好きです

美しいツキアカリの下で
恋焦がれる私が思うこと。




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