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さて、さて、続きです。なんか、一つの事を思い出したら、次々と走馬燈のように思い出してしまって。
人生を駆け巡る走馬燈はちょっと早いとして、とりあえず思い出すままつらつらと。なので、長くなったらごめんなさい。
読んで下さる方には最大級の感謝を!それでは、第二夜。・・・・何夜までいくのだろう・・・・。
うだるような夏の日、付き人やアルバイトで忙しく幽霊部員も同然だった僕はサークルに放置してあるわずかな荷物を引き取りに、半年ぶりにジャズ研に顔を出した。
前日の電話で、部長の田崎さんに退部の意志を伝えた。
「そうかぁ、モンタ辞めちゃうのかぁ。」
電話の向こうで、田崎さんが飄々とした声で言う。
「そうだな。腰を入れてやるのなら、付き人一本でやった方がいいかもね。モンタが辞めちゃうのは寂しいけれど、残念ながら俺には止める理由が見つからない。」
彼は電話の向こうで笑いながらタバコに火を付ける。
昔は名門と言われたサークルも今や名ばかりになってしまっていた。
楽器よりも、遊ぶ方が大切な連中との温度差は僕を孤島に置き去りにしていった。
ある日、大学合同の大きなライブイベントが一ヶ月後に迫っても、なかなか腰を上げない先輩たちに僕の不満が爆発した。
その瞬間、僕は自分の椅子を失ってしまった。
話したこともない部長から学食に呼び出されたのは、それから数日経ってからのことだった。
週に一回、顔を出せば良い方で、サークルの雑務は副部長に任せっきりなのだが、彼が顔を出すと自然と人が集まった。
入りたての僕は話の輪には加われず、いつも遠くから見ているだけだった。
学食のテーブルの上に置かれた灰皿とコーヒーカップが離れ小島のようで、僕は少し寂しくなる。
「モンタ聞いたよ。お前暴れたんだって。」
部長の言い方があまりにも自然で、どこか飄々としていて、緊張した心と固まった身体を溶かしてくれた。
「僕は、ただジャズがやりたいだけなんです。」
声がスムーズに喉から音になった事に自分でも驚いた。
タバコの煙を揺らしながら部長は優しく微笑んでいる。
「僕は海にも山にも行かなくてもいいんです。ただ、ジャズがやりたいんです。」
部長は自分の言葉を確かめるように少し間を置いて
「モンタの言うことも分かるよ。でもね、ここは大学のサークルなんだ。みんながみんなモンタみたいに考えてる訳じゃないよ。遊び半分で学生生活を楽しみたい。それだって間違った考えじゃないぜ。」
「まぁ、ジャズやってるって言ったら女にモテそうだしね。」
部長はとぼけた顔を作りながら笑った。
つられて僕も笑顔になる。なぜ、この人の周りに人が集まるのかが分かるような気がした。
「言い過ぎました。部長の言うこと分かります。すいませんでした。」
と、僕は頭を下げた。
部長は美味しそうにコーヒーを飲みながら新しいタバコに火を付けた。
「あいつらだって悪い奴らじゃないんだよ。」
「はい。モテたいのが少し強いだけですよね。」
「そうそう、遊び盛りなんだよ。モンタと違って。お前はちょっと固すぎ。」
「そういう、部長はどうなんですか?」
「そいつはお袋に聞いてくれ。多分、お前の爪の垢を欲しがるだろうよ。」
「それじゃ、お世話になってるお礼も兼ねて、小瓶に溜めてお袋さんにプレゼントします。」
「よしてくれよ。俺は人一倍女にモテたいんだ。」
今度は二人で同時に笑う。
そして、椅子を僕の方に寄せて、バックからノートを取り出すと
「熱いジャズ少年に心ばかしのプレゼントだよ。」と田崎さんから手渡された紙には知らない名前と電話番号が書いてあった。
「何ですか、これ?」と僕。
「ライブがただで楽しめる魔法の番号さ!しかも、とびきりのやつだ。」
とぼけた顔で嬉しそうに彼は続ける。
「とにかく、ダイヤルを回して俺の紹介だと言えばいいよ。それで、モンタの数多い悩みの一つは解消されるはずだから。」
そう言うと、悪戯っぽくウィンクをして僕の肩を軽く叩いた
僕とお師匠さんの橋渡しをしてくれたのが田崎さんだった。
付き人が忙しくなり、次第にサークルとの距離を置き始めた僕に、 それでも田崎さんはマメに電話をかけてきてくれた。
「お~い、飯はちゃんと食ってるかぁ。」それが、彼の決まり文句だった。
それは僕にとって、心が温かくなる魔法の言葉だった。
「俺は実家暮らしだからさ。遠慮すんなよ。貧乏学生。」
彼と音楽やとりとめのない話をしながら食事をするひとときは、僕にとって何よりのご馳走だった。
翌日、部室の鍵を受け取りに待ち合わせの学食に行くと、いつものように黒いジャケットと黒いジーンズ、AC/DCのロゴ入りTシャツを着た田崎さんがいた。
その服装が彼の定番で、と言うより僕はその服装しか見たことがないのだけれど。
だから、最初の頃は彼を見るたびに、クローゼットの中に1ダースのAC/DCのTシャツと1ダースの田崎さんがハンガーで吊されているような妄想をしたものだ。
定番だけあって、細身で長身の身体にぴったり似合っている。
肩まで伸ばした黒髪も一見するとジャズドラマーには見えない。
まるで、絵に描いたロックスターだ。
鍵を受け取ると
「俺も後で部室に行くから待ってろよ。久しぶりに一発やろうぜ。」
親指を突き立てて、ニヤリと笑うと忙しそうに何処かへ行ってしまった。
去り際に
「それから・・・。う~ん、まぁ、いいや。とにかく後でな。」
と意味不明な言葉を残した。
・・・・・・続く
ますます乱文・駄文・時の運はご容赦のご勘弁。
最後まで付き合って下さった方に最大級の感謝と愛を!
それにしても、昔の事なれどよく覚えているものだと自分に感心です。
続きは近々。
もし、よろしければ。
おやすみなさい。
暑さに負けないで。