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October 10, 2005
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カテゴリ: 美術
SUGIMOTO HIROSHI


時間と空間の狭間に「美術」という罠を仕掛けるモノクロの狩人。
「一瞬を切り取る」のではなく「一瞬を作り出す」、時を操る時空の魔術師。

杉本博司さん、今回は初の回顧展だそうです。
世界では日本が最初で、NYなどは展示量が3割カットだそうですから、世界に先駆けた、しかも完全版として、主要シリーズが出揃っているとのこと。

というわけで、今回は主要シリーズごとに感想をば。



「Conceptual Forms」
幾何学立体を撮って、大きく引き伸ばしたシリーズ。
数学的美に満ちた抽象図形が、幻想的モダンの世界への入口を飾ります。

これらの被写体となった「作品」は、数年前、「東京大学120周年記念展」で一部を見たことがあります。




「Dioramas」
ジオラマを、モノクロで撮ることによって、その過剰な装飾=嘘臭さを消してしまう、と言う作品。

どこかの一瞬を切り取って造られたジオラマを、一瞬を切り取る写真で写すことによって、「リアル」を表現しようという、その発想がそもそもありえない。
この発想の飛躍と、モノクロの陰影を扱うテクニックの確かさが、観ている者を不思議な浮遊感に導きます。



「Seascapes」
世界各地の水平線を、全く同じ構図で撮ったシリーズです。
これは、このシリーズは、すごい。

あえてモノクロで撮っているからこそ、見えてくる普遍性。
もし、カラーなら、海の色の違いを楽しむ作品になっていたでしょう。
白黒のグラデーションによって「いずこもおなじ」を表現することで、これらの作品群は、人類の深層意識のレベルまで降りてきます。

能舞台を中心に展開される、世界の海の持つグラデーションのリズムが、我々を心地良い酩酊感にいざないます。


「Portraits」
肖像画なり絵画から起こして造られた蝋人形を、肖像画のように撮ったシリーズ。

私が杉本さんの作品で初めて見たのはこのシリーズでした。
一瞬「え、この時代に写真なんてあったの?」と思わされて、とにかく度肝を抜かれ、そのあと笑いが込み上げてきたのを覚えています。

「蝋人形という虚」と「モノクロ写真という虚」が掛け合わされて、「実」に見えてくるという倒錯。
この意味では、「ジオラマ」のシリーズに似ていますね。


本物を写真に撮るのではなく、蝋人形を写真で撮ることによって、彼らは歴史上の人物と同列に並べられ、普遍化されます。
それは能面の写真に似て、どこかで「感情」「表情」が昇華され、本物を撮った写真とは少し違う、別な像を我々の中に結びます。



「Theaters」
劇場でシャッターを開きっ放しにして、フィルムを感光させるのだそうです。
そこに写るのは真っ白なスクリーンと、それによって照らし出された、劇場の風景。
ドライブインシアターのバックには、夜空を動く星が写っているのも面白い。

余談ながら、私なら、映画の題名もあわせて併記するなぁ、と思いました。
つまり、クラフト・エヴィング商會さん風に「この写真をじぃっとご覧あれ。この中には、なんと丸々一本の映画がおさまっておるのです。」っていうのが私の好み。



「Architecture」
有名建築を、わざと焦点をぼかして撮ることで、建築家が最初に持っていたであろうイメージを再現・具現化した作品、だそうです。

これは一方で、我々の「記憶」を作品化している、という言い方も出来ます。
面白い中に、どこか、「記憶」のもどかしさを思い知らされる作品でもあります。



その他の作品について

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入口にある、マルセル・デュシャン「大ガラス」に捧げられたオマージュ作品は、自身の作品が、その系譜に連なることの宣言、と捉えたら良いのでしょうか。
表裏で白黒を反転させているのは、ポジーネガのイメージ。


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松林図は…個人的には再度チャレンジして頂きたいですねぇ。
杉本さんなら、もっともっと「本物」(絵なんですけど)に近づいた写真(本物なんですけど)が撮れるのでは、という期待があるのですよ。

そう、この人の手にかかれば、「写真による水墨画」は可能だと思います。
いつか、その完成作と、長谷川等伯の絵を並べて見せる展覧会をやって頂きたいなぁ、と。


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護王神社社殿は、日本文化に対する造詣の深さと、センスの良さが見事に止揚された作品(?)

本殿に架かるのは、氷のきざはしを連想させる透明な階段。
この階段は地下墳墓を想起させる、地下の巨石空間へと連なっていきます。
しかし、この階段を下ることが出来るのは、光のみ。
別な入口から入った参拝者は、帰り道、遥かなる水平線を臨むことになります。
(ここで展示されている模型の通路部分からも海を見ることが出来ます。)

彼岸と此岸を結ぶ多様なイメージを美しく配置して、新しい時代の拝殿を創りあげた手腕は、お見事。
いつか本物を見に行くのが楽しみです。




杉本さんは古美術蒐集家としても有名で(主に平安時代らしい)、そのコレクションとのコラボレーション展覧会もやったことがあるそうです。
それは機会があれば、是非観てみたいですね。

「BRUTUS」9月号に詳しい解説が載っています。
安藤忠雄先生との対談など、かなり充実した内容。
展覧会カタログは6000円と少々高価なので、600円のこちらがオススメ、かな。


『杉本 博司:時間の終わり』
- HIROSHI SUGIMOTO : End of TIME -

森美術館 (六本木)

2005.9/17 ~2006.1/9(月・祝)

作者:杉本 博司

★★★★★





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Last updated  October 19, 2005 10:54:14 PM
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RonaldBus@ Transforming your landscape with gorgeous blue stone slabs. Understanding the Benefits of Choosing …
mrtk@jp @ Re[1]:本と共に~「ぼくらはそれでも肉を食う」(06/19) >そらねこさん コメントありがとうござ…
そらねこ@ Re:本と共に~「ぼくらはそれでも肉を食う」(06/19) はじめまして。本の題名につられてお邪魔…
浅葱斑@ 心のハレっていいですよね? こんにちは。 誕生日の暦から今の自分、未…
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