MORITA in Cyberland

PR

Profile

mrtk@jp

mrtk@jp

Archives

August , 2025
July , 2025
March 21, 2006
XML
カテゴリ: 映画
「白バラ」は、ナチスに対する抵抗運動。
と書くと、誤解を招きかねませんが、彼ら彼女らの行動は、あくまでも、言論によるナチス政権への批判であり、弾劾でした。

しかし、言論の自由が許されぬ時代、「反ナチのビラを撒いた」ことにより、彼ら彼女らは「国家反逆者」として、死刑を言い渡されます。

-----
逮捕から審問、裁判、死刑まで、たったの5日間。

この映画は、「白バラ」メンバーの紅一点、ゾフィー・ショルの視点-彼女から見た、彼女の最期の日々を凝縮して描きます。

-----
冒頭シーン、ラジオから流れるアメリカンポップに興じる2人の少女。

その「戦時下の明るさ」から一転、地下活動でビラを印刷し、郵送準備をするシーンへ。



-----
ここからの、息詰るような心理劇の描写は見事。

ゲシュタポの審問官ロベルト・モーア役のアレクサンダー・ヘルトとゾフィー・ショル役のユリア・イェンテの、緊張感と気迫に満ち溢れた演技。

そして、彼女が「罪」を認めるシーン。
「自分の行動を誇りに思っている」というセリフが胸を打ちます。

-----
つらいのは、彼を審問するロベルト・モーアというゲシュタポの職員が、「善人」であることです。

だからこそ、彼は彼女の罪を少しでも軽くしようと、司法取引を持ちかける。

頑なにそれを拒む少女に、戸惑う審問官。

-----
そして舞台は法廷へ。


そこで自らの正義を、ナチスの犯罪を、訴える声は、裁判官によって遮られます。

何も弁護を行わない弁護士。

そう、結論の出ていた審理は、すぐに幕を閉じ、彼女らの死刑は確定します。

-----
そして、心の準備も整わぬまま、死刑へと向かわされる「被告」達。



そして、1942年2月のたった5日間の物語は最期を迎えます。
彼女らの祈りが届くのには、あと3年の月日が必要でした。

-----
-----
ゲシュタポの職員が、「善人」であることがつらい、と書きました。

彼はこう言います。
「ナチスがいなければ、私は仕立て屋の子として一生を終えていただろう。」
「ナチスがフランスを攻めたおかげで、我々は職にありつくことができ、君たちも教育を受けることができる。なのに何故、君はナチスに反対するのだ?」


彼は決して悪い人間ではなく、善良な一市民にすぎません。
しかし、その彼すらも「国家」「法律」は、彼女を死に追いやる道具と変えてしまうのです。

彼が、一市民として、真面目に仕事をすればするほど、彼女の死期が近づくという皮肉に、ゾッとします。

彼は、法律を持ち出して彼女に問います。
「法に従わないとすれば、秩序はどうなるのだ。」

それに対して、ゾフィーは答えます。
「良心に従えば良い。」

苦しげに答える彼。
「皆が、自分の信じることをすれば秩序は崩壊してしまう。そのために法律はあるのだ。」

-----
そう、「法律」とはそういうもの。

生活をしていく上で、ルールは必要ですし、弱者(環境も含め)を守り、助けるためにも、法律を制定することは重要なのですが、それが「強者の強者による強者のもの」になった時、弱者を傷つける「正当な」理由として法律は機能するのです。

-----
だから、と敢えて書いてしまいますが、私は「不偏不党無所属」のノンポリ平和主義者ですが、憲法に「愛国心」を入れることには反対です。

それが、どのように利用される可能性があるのか、歴史をちゃんと考えたことがある人には自明のはず。

むしろ、「愛される国」にすることを国家の義務にするべきであって、国民に「我を愛せ」と強要するのは、お門違いも良い所です。

恋愛とか結婚で例えても良いですけど…。

感情論的なことを言えば、「我を愛せ」と強要しなければならない、というのは、むしろこの国に対する侮辱でしょう。

この国は、そんなにも魅力のない国なのでしょうか?
私はそうは思っていませんけど。

-----
-----
閑話休題。

最初に白バラを「摘発」した用務員のおじさんも、容赦なく死刑を言い渡す裁判長も、彼らの信じた「正義」に則っている、という意味では、「悪人」では決してないのです。

「司法テロ」と評されたこの裁判の裁判官は、1945年、ベルリン空襲によって命を落としました。

ちなみに、テロの元の意味は「恐怖政治」を指します。
国家による国民の暴力支配。これが本来のテロの意味です。

-----
さて、憎らしいまでの、裁判長の高圧的な言説に、現代日本で勢いを持っている一部の言説に似たものを感じてしまうのは、私だけではないと信じます。

勇ましい言説が、「自由」の名の下に叫ばれ、それが時代の空気に紛れ込み、「国のため」という言葉が、妙な力を持ってきている現在。

明るい未来を予感させる動きもたくさん知っていながら、特に団塊と若者の狭間にあるあたりの世代から漂ってくる「勇ましいきな臭さ」に、私は多少の危機感を感じています。

-----
-----
私が和服を着る理由の一つは、大正デモクラシー末期のきな臭さと同じ臭いが漂う現在に対する、一種の皮肉もあるのですが…この映画を観に来ているお客さんの中に、ナチスドイツの軍服を着ていらっしゃる方がおられました。

うーん。
どういう意味合いなのかしら…?
御丁寧にサングラスまでかけていましたから(いや、上映中は外していたと思いますけど)、表情も分からずじまいでしたが。



ドイツからの帰国後、最初の映画。
多少の単語が聞き取れたのがちょっぴり嬉しい(字幕がなかったら無理ですけど)…とは言え、あまりに静かで、あまりに祈りに満ちた、哀しい映画でした。

-----

『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』
- "SOPHIE SCHOLL-DIE LETZTEN TAGE"

2005年 ドイツ 121分

白バラ


出演:ユリア・イェンチ / アレキサンダー・ヘルト / フィビアン・ヒンヒリス / アンドレ・ヘンニック 他

★★★★☆





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  June 5, 2006 11:51:27 PM
コメント(2) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Calendar

Comments

RonaldBus@ Transforming your landscape with gorgeous blue stone slabs. Understanding the Benefits of Choosing …
mrtk@jp @ Re[1]:本と共に~「ぼくらはそれでも肉を食う」(06/19) >そらねこさん コメントありがとうござ…
そらねこ@ Re:本と共に~「ぼくらはそれでも肉を食う」(06/19) はじめまして。本の題名につられてお邪魔…
浅葱斑@ 心のハレっていいですよね? こんにちは。 誕生日の暦から今の自分、未…
I read your post and wished I'd wrtietn it@ I read your post and I read your post and wished I'd wr…

Favorite Blog

ロシア生活2004-2012 koshka0467さん
 eco-blog 環境エン… 拓也@エコブログさん
Chobi's Garden chobi-rinさん
紺洲堂の文化的生活 紺洲堂主人さん
mypo MihO in Berlinさん

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: