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June 23, 2007
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カテゴリ: 映画
「殯(もがり)」とは、死者を悼む期間のこと。
また、その場所のことを指します。

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深い緑の懐に抱かれて、静々と葬列が歩むシーンから、この映画は始まります。

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生きている、ってどういうことですか?
老人ケアハウスでそう問う、33年前に伴呂「 まこ 」さんを失った、
しげき 」さんが、この物語の一人の主人公。

もう一人の主人公は、不慮の事故で子供を失い、夫に別れられ、
(どういう事故か作品中では明らかにされません)
看護士として新しい人生を歩み始めようとしている 若い女性「 まちこ 」さん。

認知症の症状の中で、変わらず妻を想い続ける老人と、
子を喪った哀しみにさいなまれ、もがき足掻いている若い女性と。

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前半、二人の出会いとディス・コミュニケーションが物語の軸になります。

しげき さんの行動に戸感いながらも、真摯に寄り添う まちこ さんに、

こうせないかん、てことはないから

段々に心を通わせていく二人。
ニ人は「まこの墓参り」に向かいます。

エンストした自動車をおいて、歩くことになったニ人は、

「まこの墓」へと、森の奥へと向かっていくのでした…。

ニ人が森の中で、出会い、見付けるもの。
紡がれる、二人の絆。

静かに流れるオルゴールが、二人の、いや、四人のを魂を、
ゆるやかに結び付けます。

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作品中、セリフは極限まで削ぎ落とされ、その代わりに、
森のざわめきが、場面を雄弁に物語ります。

森は、決して沈黙しません。
森は、たくさんの生命を包み込んで、そこに在ります。

それは、『後巷説百物語』で語られた「山」と同じものです。

だからこそ、そこでは死者に遭うこともできるし、
死者への悼みを、自らの再生を、果たすことができる。

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「死」を媒介に結びつく二人の姿は、
悲愴なものでも、哀しみに満ちたものでもなくて、
ただ、そこにあることを認める、穏やかなものです。

生と死の狭間、嘆きも哀しみも超えて、死をあるがままに受け入れる、
「殯」はそのための準備期間だと言えるでしょう。

生きる者と逝きし者は、時という壁に隔てられていても、
同じ地平にあるもので、決して遠くにあるものではない。

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印象に残ったシーンから。

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雨激しき森の小川を渡って進んでいこうとする しげき さんに、
まちこ さんが「 行かないで 」と叫ぶシーン。

川は彼岸と此岸の境界線。

「行かないで」の悲痛な叫びは、喪ってしまった我が子を呼ぶ行為でもあります。

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雨に打たれて身体の冷え切ってしまった しげき さんを、
まちこ さんが身体を張って温めるシーン。

私は、このシーンに、 光明皇后 のエピソードを思い出しました。

施薬院を創設し、自ら病人を救って回ってらっしゃった皇后が、
ある日、全身が爛れた患者の膿を吸って救ったところ、
仏の姿となって、光明皇后の前に顕れた、という説話。

この行為が、次の、そしてラストシーンの「救い」へと繋がっていくのです。

=====
決して、楽しい物語ではありませんし、分かりやすい映画でもありません。

しかし、森の中での、主人公二人の「再生」に、
生死のあわいに思いを馳せる時、静かな感動が心に拡がります。

何度観ても、観る度に、違う風景が観えてくるであろう「深い」映画でした。

=====
『殯の森』

2007年 日本 97分

http://www.mogarinomori.com/

監督: 河瀬直美
出演: うだ しげき/ 尾野 真千子 / 渡辺 真起子 / ますだ かなこ / 他

★★★★☆







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Last updated  July 6, 2007 02:03:32 AM
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mrtk@jp @ Re[1]:本と共に~「ぼくらはそれでも肉を食う」(06/19) >そらねこさん コメントありがとうござ…
そらねこ@ Re:本と共に~「ぼくらはそれでも肉を食う」(06/19) はじめまして。本の題名につられてお邪魔…
浅葱斑@ 心のハレっていいですよね? こんにちは。 誕生日の暦から今の自分、未…
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