人生の原点
銀座6丁目、東芝ビルの近くに「シノワ」というワインバーがある。ここが、自分の酒人生の原点となる場所だ。
最初に訪れたのは2001年12月。酒人生の伴侶であるシロネコと一緒だった。「グラスワインが豊富」という言葉に惹かれてふらふらと入ってしまって、実は一瞬後悔した。
階段を下りた先にあるシックなドアを開けると、きちんとスーツを着た男性が軽く頭を下げながら「いらっしゃいませ」と迎えてくれ、荷物を預かってくれる。店内は「シノワ」(フランス語で東洋趣味)という言葉に表されるように、オリエンタルな雰囲気が漂っていて、何かのお祝いか、スーツ姿の男女のグループが楽しげにワインを飲んでいた。
・・・なのに、なのに、自分はジーパンにフリース。さっき預けたバッグはナイロンバッグだし、上着はコートじゃなくてジャンパー。足元はスニーカー。しかも、フリースはフード付き。だって、まさかこんなに洗練された雰囲気のお店だと思わなかったんだもん。やばいよ。穴があったら入りたいよ。どうせ邪魔ならこのフード被っちゃうか。って感じだった。
が、全員ソムリエの資格を持つという店員さんは明らかに浮いた格好の私にも引かずちゃんと対応してくれて、酒が回るにつれ、フードのことは忘れていったのだった。今思えば、フードを被らなくてよかった。そんなことをしていたらさすがの店員さんも
「お客様・・。」
と言葉を濁したに違いない。
その次に行ったのは翌2002年の7月。この時は1人だった。ソムリエさんに
「今日はたくさん飲まれましたね。」
と感心されてしまうほどに飲み、いただいた鴨の八帖味噌ソースを
「味噌カツの味がする!」
と褒め、
「飲んだ翌日は赤出汁。」
と主張する自分を
「ちょっとオヤジ入ってますね。」
とソムリエさんに評されたところで正気に返って、シュンとしながら帰った。
こんなことがあったせいか、ソムリエさんに覚えてもらい、今では好みのワインを出してもらえるほどになった。銀座にある馴染みのバー。遠くてなかなか行けないけれど、とても大事な場所である。
![]()

