じゃじゃ馬馴らし

じゃじゃ馬馴らし

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彼女にお母さんがいたらたとえ貧乏でもドレスを数着くらいは買って毎日洗濯してアイロンをかけてくれたのかもしれませんがペトロンスキー家に女性はワンダだけだったし、一生懸命家計の為に働いている兄のジェイクやお父さんの気を遣ってドレスをねだったりはしませんでした。

 ペトロンスキー家はポーランド系のアメリカ人でペトロンスキーという名字はものめずらしく人々からからかわれました。兄のジェイクやお父さんはそのことをとてもくやしがっていました。お父さんはどこか遠くへ行きたいと言っていましたがワンダはずっとボギンズの丘に住みたいと思っていました。

 学校に行こうとするとたまにペギーとマデラインという2人の女子がオリバー通りの楓の木の下でかまってくれるからです。
「ワンダ 貴方 何枚ドレス持ってるんだっけ?」
「100枚」
からかわれてることはわかっていてもこんなとりとめのない会話で接してくれる2人を名前や国籍,たった一枚の青いドレスのことでからかわれるよりまだよかったのです。
ペギーもマデラインも成績も顔もいい女の子でした。ワンダほど貧しい家庭でなく2人ともそれなりに可愛らしいドレスを着ていました。服を買ってもらえないワンダにとってみんなのお洒落なドレスを見るのが楽しみでした。

ワンダは家に帰って絵を描いていました。お洒落な服を見る度いいインスピレーションが思いつくのかいろんな色のドレスを描いていました。それをクローゼットに入って

いつだったか天気が良く,兄のジェイクが寝坊して一緒に学校に行った日がありました。
その日は天気が良くって灰色の毛糸の帽子といつもの青い服に合わせてかぶってルンルンと歩いているとクラスメートの女子がワイワイと群がっていました。
背の高い、すらっとしたセシルが新しい真っ赤な綺麗なドレスに身を包み,黒いサテンのバッグを肩にかけていたのです。みんなはセシルの新しい赤いドレスを誉めていて「自分も新しいドレスを買った」と自慢する子達の中に入って行きたくなりました。

「早くこいよ」とジェイクが言いました。
「俺 急がなきゃ 戸を開けたり鐘を鳴らさなきゃいけないんだ」
「じゃ ジェイクは先に行って 私ここにいる」
ジェイクが肩をすくめてメイプル通りを急いで行きました。ワンダはそろーーと他の子達に近づいて行きました。しかし誰もワンダの存在に気づいていませんでした。
「本当に綺麗なドレスね」
「あたしも青い服持ってるけどこれほどじゃないわ」
「あたし こないだ お母さんにチェック柄のスカート買ってもらったわ」
だれもがペチャクチャしゃべっていましたが誰もワンダに話しかけません。
でもワンダはみんなの中に入り込んでるつもりでした。

 ワンダも何か言わなきゃと思いました。みんなの仲間に入るには自分も何か見栄を張ればいいのだ。そうだ 私の家のタンスにあるドレスの絵を自慢しよう。ワンダはペギーの近くに寄って腕を触り小さな声で言いました。
「えっ なんですって?」ペギーはワンダの声がよく聞き取れませんでした。
今度こそワンダははっきり言いました。
「あたし 家に100枚ドレスがあるの。」
「ドレス100枚!100枚ですって!みんな聞いて この子は100枚もドレスがあるんだって!」とペギーは叫びました。
みんなが驚いた顔をしてワンダをじろじろ見ていました。

「ドレスが100枚?そんなにもってる人なんていないわ」
「でも 持ってる」
「じゃ どこにあるのよ」
「家のクローゼットよ」
「へぇ 学校で着てるの見たことないけど」
「ちがうの よそ行き用なの」
「へぇ 普段着はないの」
「あるわ いろんなのが」
「じゃ どうして学校に着てこないのよ」

こう聞かれてワンダは黙りこんでしまいました。たしかに家にあるドレスはみんな色とりどりで綺麗だけど着れるものじゃない。ただの絵だった。
今まで黙ってたペギーが口を開いて言いました.
「ええ わかったわよ。この子100枚ドレス持ってるけど学校へ着て行くの嫌なんですって。たぶんインクやチョークの粉がつくのがやなんでしょ。」
みんながどっと笑っておしゃべりし始めました。ワンダは口を閉じて灰色の毛糸の帽子がずり落ちるくらい額にしわをよせてみんなを見ていました。
その時 学校の始まる5分前の鐘が聞こえてきました。
「早く行かないと遅れるわね。」とマデラインが言いました。
「じゃあね ワンダ。あなたの100枚のドレスは綺麗なんでしょうね」
そしてみんなはもう一度どっと笑いました。

その日からみんながドレスのことでからんでくるようになりました。
まだ数十枚しか絵を描いていなかったワンダはその日から根気的にドレスをいっぱい描きました。ドレスにあわせる靴,着ている女の子もしっかり描いてみました。
そうだ モデルをペギーやマデライン セシルのような可愛い子も描いてみよう
ワンダのイマジネーションはみんなに知られることなく育っていきました。
その絵は本当に100枚クローゼットに並んでいきました。




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