当てとフンドシは向こうから外れる

お金は時間的集積を利用するための媒介



 経営者にとって、お金は何のためにあるのだろうか。つまり、経営者はお金と、どのように関わったらよいのだろうか。お金との関わり方に、あなたの未来の事業の発展がかかっている。
 番外編の2つめの質問は、これだ。
 「あなたは、お金と、どのような関わり方をしていますか」
 お金との三つの関わり方
 経営者は、大別すれば、お金と三つの関わり方ができる。一つは、経営者は、利潤追求のために会社を経営するという関わり方だ。
 企業は利益を出し、多くの従業員を雇い、たくさんの税金を払うのが使命である。これが社会貢献だというのである。この場合は、良い経営の結果が利益として表現される。
 さらに、儲けたお金を、企業として社会貢献活動などをすることによって、社会に還元すればよいという人たちもいる。
 二つめの関わり方は、私的な生活を経済的に豊かにするために、会社の活動を通して、お金を稼ぐということだ。これに対する記述は、するまでもないだろう。
これを公的に発言することはかなり難しいが、厳然と経営者の心の中に存在している。
 この2つの関わり方の違いは、「私的な利潤追求か、公的な利潤追求なのか」という一点に存在する。図1を見てみよう。


 多くの経営者は、この2つの利潤追求の狭間で、多かれ少なかれ葛藤している。「公的な利潤追求か、それとも私的な利益のためか」と二者択一が迫られているかのように。これは、心の領域の現象を示す「お金のシーソー図」といえる。
 三つめの関わり方は、お金は天命を実現するために使われるというものだ。
 言い換えれば、天命を実現するためにお金と関わるという関わり方だ。
 図1に示されるように、私的な利潤と公的な利潤の追求に揺れる私たちの葛藤も、これは「魂の領域」にあるあなたの「行動の源泉」に支えられている上のことだという認識があれば、自ずとバランスはとれてくるだろう。
 私たちの人生が有限であるがゆえに、私たちの天命は、その手段と対象を絞らざるを得ない。しかも、もしあなたが志す天命の領域が、自分ひとりの生涯ではやりきれない大きさなら、あなたは必然的に時間を買うことになる。
 さまざまな天命と専門性を持つ人を雇うのも、設備投資するのも、M&Aもその典型だ。
 ここで言いたいとこは、事業でもうけたお金で税金をたくさん払い、あるいは寄付や別事業をとおして利益還元をして社会貢献すればよいと考えるのではなく、私的にお金を儲けることに徹するというのでもない。
 あなたの事業そのものが、天命の表現であり、社会貢献活動なのである。さらに、それは多くの人たちの天職を集積したものを利用して、初めて可能になる。
 「特別な時間の集積」
 今あなたの傍にある「モノ」は、全ては時間の集積によるものだ。ここにある一冊の本も、あなたの資格や専門知識、技術も全て時間の集積なのだ。時間が集積されればされるほど、それは高価なものになる。
 この膨大な時間の集積で造られた「モノ」や「サービス」を相互に利用することで、私たちの仕事や事業は現実化されている。つまり、お金は「時間の集積」を利用するための「媒介」として存在していると言える。
 私がこのように言えば、「出口さん、同じ時間を使っても結果に差が出てくる。単純に時間の集積とは言えない。それは、時間の質が問われるからだ」と、あなたは言うかもしれない。
 その質を決めるのが、天命に志して生きている時間なのである。天命を志して潔く生きる「サムライ時間」の集積こそが違いを創ることになる。それは、もちろん自分の時間だけではなく、人の時間も同様なのだ。
 しかも人生の時間が有限であるがゆえに、天命を実行する「対象」と「手段」を限定せざるを得ない。何事をなすにも時間がかかり、全てをやることはできないからだ。そこに、具体的に限定された「天職」が顕れるのだ。
 多くの人たちが異なる天命を持ち、それをさまざまな対象と手段でそれを表現することで、さまざまな天職が生まれる。
 この天命に使われた特別な「サムライ時間」を買うための手段がお金であり、それは資本と呼ばれる。「資」とは、「助ける」「貢献する」という意味であり、資本とは、「助ける本(モト)」という意味になる。
 お金は、天命を現実化するために「資する」使い方であらねばならない。
 したがって、ここでは、お金を媒介としなくとも、あるいは少ないお金で、物的なものや人的なものを、あなたが動員できるなら、物的資本と人的資本になりえるのだ。それは、お互いに志を共有する「氣脈」を創ることにほかならない。
 時間を制するものは人生を制する。古今東西同じようなことが言われてきた。その制し方は、天命に使われた「特別なサムライ時間」の集積によって決まってくる。それを使いこなす手段が、資本なのだ。
 あなたや社員がどれほど多くの時間を使って働こうが、あなたがどれだけ多くのお金で企業や設備や営業権を買収しようが、それが「特別な時間の集積」でなければ、事業に本物のパワーは顕れないだろう。
 あなたの企業が、なぜ独特の「社風」と呼ばれる、特有の価値観を持つに至るのだろうか。それは創業以来の経験の蓄積であり、歴史の積み重ねであり、それが今のあなたの企業文化を創り上げている。それには、膨大な時間の集積が必要だったのだ。
 その時間の質はどのようなものであったのだろうか。そして、あなたはどのような時間の質を未来に向かって、集積していくのだろうか。

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