Laub🍃

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2010.09.14
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カテゴリ: .1次小
首を絞めると幸せな気持ちになれるとその人が言う。
幼い頃から一緒だったその人の性癖を初めて知ってからこちら、驚きっぱなしだ。

抱き締められている気分になるのだという。

「世界なんて滅びてしまえばいいのに」

引きこもり。僕はそんな幼馴染のセラピーとして、親から駆り出されていた。
特定の誰かを貶すこともなく言う彼の部屋に居座りながら、僕は気ままに相槌を打つ。

「全部?」
「そう、全部。そうしたら、こんな寒いこともないのに」

ベッドの上、布団に包まる彼は、幼い子供のようだ。


僕が抱き締めたら、どんな顔をするのだろうか。
よく分からなくて、同じくベッドの上、彼にもたれかかる。
ぼすりと音が鳴って同時に彼の驚きの声。
「な…っ」
「うはは、重い奴~」
「重いのはお前だろ…すっくすく育ちやがって」
「あはは、それほどでも」
「褒めてねぇよっ!今何センチ差だ」

布団を間に挟んで、彼が脱出しようともがくのを更に上から覆いかぶさる。
抱き締めるなんて照れてできそうにないから、伸びの姿勢のまま。

「それはお前が運動しないからでしょー…一緒に部活やろうよ~」

「何事もチャレンジ精神だよー?」

暖房を入れていない深い秋。人の温もりは悪くない。
くそそんなん関係あるか、俺なんて水泳やってたし牛乳を飲むだけ飲んだのに全然育たねえ、と彼はぶつぶつ言っている。
でも、その声が通る今は彼は誰にも、自分自身にも喉を絞められていない。
少しくぐもったような苦しそうな声は、僕が彼を圧迫しているからこそ出るものだ。


親から期待されなくなった彼は、たびたびこういったことを言うようになった。
彼は必死にもがいた結果外された首輪を眺めながらも、家から出て行こうとはしなかった。

それは良かったのか、悪かったのか。
いつも一緒に遊んでいた筈なのに何も見ていなかった俺が、彼に何をできるのか。

「重いっつーの」
…束縛には程遠いかもしれない。
「あはは」

だけど、どこかへ飛んでいきそうな彼の重りにはなれると思った。





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最終更新日  2017.04.23 23:57:37
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