Laub🍃

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2010.12.10
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カテゴリ: .1次長
「これが最後の誕生日プレゼントだ」

俺の家は15歳の時に解散した。
12月10日。良く晴れた冬の空だった。
そっくりな色の自転車はその時のプレゼント。

ちょっとのお金を貰って、俺達は負債に沈んでいく父から離れたのだった。

あれから父には会っていない。

仕事に人生を賭けていた父は、仕事と命を共にしたのかもしれない。





テスト3日目。あとは月曜。


だけど、きっつい深夜のバイトをしながらでも通ってる高校。
どれも大事にしなくちゃいけない。

「はい」
「はーい」

後ろの席の佐藤の解答を見て、自分の答えと違ってることを確かめため息を吐く。

「どうしたー?伊藤」
「あっ、わり。ぼーっとしてた」
「おー、大丈夫か?」

前の席の田中が振り返って、心配そうな目で見てくる。
渡すついでに田中の答案もちらっと見る。
あー、間違いだらけだなありゃ。



「これでやっと息抜きできるな!」
「はは、そうだな」
「おいおい、うちの田中ちゃんを甘やかさないでよ」

クラス一の秀才とクラス一のバカ。それがこいつらの代名詞だった。

「だーれがうちのだ」

「はいはい、愛してるのはお前だけだよ」

クラス一の運動音痴とクラス一の脳筋。
クラス一いい性格してる奴とクラス一性格がいい奴。

そんな二人は仲が良かった。

で、どっちも中の上の俺はといえば、大した親友も居なくて、だけど居ないと困るからつるんでる、そんな友達ばかりだった。

腰掛の人生だ。

だけど、いつ失うか分からないものに全体重をかけてなんて居られない。
俺の心はあの自転車に全部乗せて、何かあったらすぐに動けるようにしてあるんだ。





そのトラックが突っ込んできたのは、真っ青な空の中。

いや、青ですやん。

歩行者信号青ですやん。

なんできてんの?うわ、逃げな、きゃ……


とかなんとか言ってる間に俺は空の中吹っ飛ばされていた。
気のせいだろうか、俺の身体を押し出した自転車が、俺を庇ったように思えたのは。


あー俺どっか叩き付けられるのかな。

目の前でトラックに潰されていく自転車みたいに、なるのかな。


誕生日プレゼントだったのにな。







真っ青な空。



それが、次の瞬間。



「ー!?」


ごぼりごぼりと、口から泡が漏れた。

「おや、気付いてしまったのだね」
「がっ……!?」

目の前にはわかめみたいな頭をした女が居た。
どうしてこいつは。
ここ、水の中だろ。
どうしてこいつだけ喋れるんだ。

「うふふ、こんにちは。あなたはね、下界で死んでしまったの。だから天国とも地獄ともつかないここにやってきたのよ」
「……」


あの世……ってやつか?
じゃあ、なんでこんなに苦しいんだ。

「これからあなたをそこに連れて行くから、少しの辛抱ね」

生きてる時もあれだけ何度も息が詰まるような世界で暮らしてきたのにどうして死んでからもこんなに苦しいんだ。

「因みにそこを皆は『サイノカワラ』と呼んでいるのだけれど……」

「…ぼぼべぼ、びべんびゃ」
「……あら、ごめんなさいね。少し保護をかけてあげる」

瞬間、そいつの広げた両手から湧き出てきたわかめ?が俺とわかめ女のまわりを包み込んで、すごい勢いで泡を吐き出しはじめた。

「……あ、ありがとうございます」
「いいのよ。で、何をお話したかったの?」
「……あの、死んだ人がこっちに来るんですか?」
「ええ」
「じゃあ……無機物の魂……もこっちに来ていたり…」
「え?」
「あ、やっぱいいです、すみません」

そうだよな、馬鹿なことを言った。あの自転車と一緒にあの世に行きたいだなんて。

「魂…は分からないけど、物自体は持ってこられないことはないわ。
 あなたが亡くなった時近くにあったものならね」
「!!じゃ、じゃあ、お願いします」
「ええ…いいわ」

わかめ女は、今度は少し小さめのわかめ玉を作り出した。
わかめが再び女の手のひらに吸い込まれたとき、そこには俺の大事な自転車があった。

……ぐちゃぐちゃになって。

「悪いけど、有機物は治せても無機物は治せないのよね~。あの世にはそういうの治すのうまい人が居るから、そちらに頼んでもらえるかしら」
「いえ、ありがとうございます」

これでどこにでも、行ける。
今は乗る事ができない自転車。

俺の、相棒。
田中と佐藤みたいな仲ではないけれど俺の大事な友達。
俺を、どんなところにでも連れて行ってくれた最後の家族。齢3歳。

今度は俺がーこのダチをどこかへ連れて行く。



to be continued... ?





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最終更新日  2017.05.04 21:20:17
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