Laub🍃

Laub🍃

2011.03.03
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カテゴリ: .1次メモ
 先生の頭の中が分かりません、というと「俺を分かろうだなんて100年早いぜ」と言われた。うん、そうかもな。


 新しく来た家庭教師の先生は、教える勉強内容以外では矛盾したことばかり言っている。
 甘いものは嫌いと言いながら姉ちゃんの焼いたクッソ甘いクッキーをぼりぼり食う。
 綺麗好きとか言いながら俺の部屋に参考書とかプリントとかお薦めの本とか散らかして帰る。
 おかげで以前はする必要もなかった掃除をしなきゃいけなくなった。
 ぼっちとか自称してる癖して、頻繁に自分の友達の話をし始める。

 何なんだこの先生は。

 そういうことを言っている割に、担当の数学以外の解けない問題について相談しても雑談交じりながら面白おかしくヒントをくれて、解くのが楽しくなるような豆知識をくれたりなんかするから、本当にわけのわからない人だ。

 何にもなかった俺の世界に、少しずつ色を与えて行ったのは先生だった。


 嘘はつかないとか言いながらそんなの見間違いじゃないかと言っていた。
 姉ちゃんの告白になんとも言えない照れた顔をして黙っていた。
 俺に貸したのと同じ本を他のやつに貸していた。

 光だけが差し込んでいた俺の部屋に、黒いもやもやしたものを与えて行ったのは先生だった。

 先生。先生。どうして。


 先生が分からない。


 100年も待つなんて、我慢するなんて、無理だ。


「なっ……高田!?」
「……静かにして、先生」

 だから俺は、先生の動きをまず止めることにした。
 そうしたら、いつか追いつけるだろうから。



 お前の母さんから貰った給料で買ったもんだからとか、安かったから気にするなとか、言われたそれらは俺の宝物で。捨てちゃっていいのに、と言われても、些細な解説の為のメモですら捨てられなくて。

「先生の通った高校に、大学の学科に進むよ。先生の話した人と話してみるよ。先生の知ってること、全部、なぞるよ」
「っ…」
「先生の振った人とも付き合ってみようかな」
「だ、だめだ!」




「だって、そうしたら先生のこと、分かれるかなって。虹を追いかけるみたいだけど」
「そ、そんな大した奴じゃないぞ俺。お前が追う意味なんてな、」
「は?先生どうしたのさ」


大した奴じゃない?何言ってるんだ先生。


「取り敢えず、10年頑張ってみるね」


青ざめた顔で喉を鳴らす、今の先生のことが分かるまで。





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最終更新日  2015.07.30 01:25:39
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