Laub🍃

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2011.06.08
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カテゴリ: .1次メモ
 やるなら最初から最後までぶっ通せ。それが俺の信念だった。

 ゆえに俺は勉強では常に優等生、体育も粘りを見せた結果リレーの選手に選ばれる、放課後の練習が実って優勝に貢献などなど華々しい来歴を見せ、その思い出に浸る俺は歴戦の勇者という自覚を抱いていた。

「好きです、付き合ってください!」
「えっ、ごめんなさい」

 人間関係は壊滅的だったが。特に恋。


「あ、はい……」
「う、うん、あ、でも、イサムくんのこと、いつもすごいとは思ってるから!今度のレース、応援してるねっ!!」
「ありがとう……」


「いやぁ、モテない男はつらいねぇ」
「当然だろそれ」

 くそ、お前だってろくにモテない癖に。

「俺は片想いしてるからいいの。モテたって困るだけだから」
「はいはい冗談はいいから」

 肩を急に下げ、腐れ縁の友人ヒロシの手を振り払う。

「ああそうそう、気晴らしに俺の好きな人の話でも訊く?」
「ノロケうざいから断る」
「まあまあ、俺多分望みないからお前にとっては他人の不幸で飯がうまいってことで昼休みの残り時間ちょっと慰められた気分でパンを食えるんじゃねーか」

 そう言って、振り返った俺の目の前に俺の好物カボチャパンと失恋酒ならぬ失恋コーンスープを突きだしてくるヒロシ。……仕方ねえな。

 秋の味覚ってマジ強い。




「んで?お前の好きな人ってどんなよ。つーか俺の知ってる人なんだったら名前教えろ、そっちのが早いだろうが」
「それはやだ。俺の好きな人は、黒髪で、一見真面目だけどところどころ不真面目なギャップが堪らなくて……」
「聞けよ」
「……そして、時折突き放すようなこともするんだけど、それでもなんだかんだいって優しくて」
「……」


 奴の言葉を聞き流しながら、近くに寄ってきた猫を眺める。あ、もう一匹。見つめ合う。あれこれはもしかして仲良いのか……?

「エロ本の趣味が意外とマニアックで、この間も」

 あ、猫パンチ。おいおいおいおいまさかここで喧嘩始めるんじゃないだろうな。

「……聞いてないね、イサム」
「えっあ、いや、聞いてるよ」

 タタッと二匹分の場所を離れる音を最後に俺の意識は完全にヒロシに戻る。やべえ。

「ごめん、もっかい話して」
「……いいよ。嫌々聞かせちゃった俺も俺だし。あ、でも失恋の愚痴にこの後付き合うのはお前のおごりな」
「ええ……いや、じゃあ、一言だけでも言ってくれていいから」

 罪悪感が沸き起こるのをどうにかしたいがゆえの言葉だったが、ふっとヒロシは微笑んでこう言った。

「ぶっちゃけモテなくて、何度も好きな人を作ってアタックしては振られてる。努力家だけど不器用。そんなところが可愛い、ちょっとだけ年上の人だよ」
「え、先輩!!?」


 いつも飄々とした友人なら、年下の生意気な後輩も同い年のツンデレ少女も年上の放っておけないお姉さんもアリかもと思ったが、そうか、年上か…!俄かに興味が湧いてきて、がしっとやつの両肩を掴みがくがくと揺さぶる。


「痛い痛い、お前食いつきすぎ。……何お前、興味あんの年上?これまで告白してきたの同い年か後輩ばっかじゃん」
「いや、身近に居るんだなーと思って……ありかも、年上」

 そう上気した顔で言うと、何故か奴はははと乾いた笑みを浮かべた。






 俺のカボチャパンとあいつの焼きそばパンデラックスの包装袋をまとめてゴミ箱に突っ込む俺の後ろ数メートル。
「数か月年上なだけだけどな……ま、いいか」
 とうに空き缶を捨て置えたあいつが、俺の背中を見詰めて呟いたことを、俺は知らない。





 *



「数か月年上なだけだけどな……ま、いいか」

 いつだって真っ直ぐに突き進むイサムは、間違う時も真っ直ぐにスッころんで、それでも何回も立ち上がるようなヤツで。
 俺はあいつの失敗から色々学んで今では色々小器用になってきた気がするけれど、それでもイサムを見ていると、なんだか俺の歩めない人生を歩んでいるように思えて、妬ましい反面、常に一緒に居れば、一対であれば、その妬みも解消されると踏んだ。

 ひとつのいきもの。関係性がどうあれあいつとそうであること、それさえ充たされていれば俺はきっとそれを決めた時から、息を止める時まで生きていられる。

 なんでも相手によって状況によってころころと変えていく変えてしまう俺が唯一貫けるもの。

 ゆりかごからはかばまで、信じ続けられるもの。





************


 定系男子と不定系男子のAtoZ。

 良くも悪くも勇者な進藤勇と余裕そうな天里裕





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最終更新日  2015.08.25 03:56:56
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