Laub🍃

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2011.06.25
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カテゴリ: .1次メモ
「そんなにいうなら見てみよう」

 彼の提案になど、乗らなければよかったのかもしれない。




 目の前には、全焼した家屋。俺たちの、元の家。

 もとい……「ヒト小屋」。




『なあ、逃げないか』

 そこから逃げ出そうと提案したのは、同じように『彼ら』に保護された、今は目の前で膝を抱えている、シゲキ。

『なんでそんなこと言うんだ。放っておいても支障のない俺たちみたいな存在を保護してくれたんだぞ。恩返しに、仕事したってばちはあたらないだろ』
『そうだよ、イタミのいうとおりだよ。ヌシさまは優しいよ』
『そりゃーカラミは……』


 『彼ら』になつくどころか、俺たちと姿かたちは違うが、考え方は似ているところのある彼らのうち一人に懐いている、俺の妹カラミ。

 結ばれることはありえないにしても、カラミがヌシさまに褒められて、撫でられているところを見ると嬉しくなるので、俺はいつもつい手助けをしてしまう。俺以外の多くの仲間も。

……シゲキを、除いて。


ダンッ と、シゲキが足元の板を踏む。しーっと慌てて言うが、シゲキは気にしていない調子だ。
くそ、周りの奴らが起きたらどうするんだ。

『……それが、おかしいっつってんだよ。あいつらにゃできねえ細かい作業をやらされるとかならまだ分かる。けど、けどな、何人かはあいつらの小競り合いに、ちょっと喧嘩が強いからって連れてかれて、帰ってこなかったり、特に何の感慨もなく売買されたりしてるじゃねーか。お前らそれでいいのか!?』
『…………いいも、なにも』
『あたしたち、それ以外なんにも知らないじゃないか』

 そもそも、俺たちは外の世界さえ碌に知らない。小さなヌシさまを運んだり、盾になったり、楽しませることぐらいしか能がないのだから、仕方がないといえばそうなのだが。

『だから、試してみようっていってんだよ』

『……何を?』



『あいつが、俺達を本当に大事にしてるか』





 そうして決行されたのが、今晩の火事。

 おれたちの住んでいる所が何者かによって燃やされたとしたら、落ち込むあいつの姿をそれで見られるかもしれない。そうしたら、おれだってあいつらのこと、信じてやってもいい

 と、偉そうな口調で言っていた、シゲキの言葉は。

『……だから、言っただろ』



 起こったことは仕方がない、それより使用人にけがはないか、とまで言っていて。

「だから言っただろ、お前ら。……なあ、一緒に野山に逃げよう」
「あ、あれは、みんなに気遣って言ってるだけだよ、本当はあたしたちをもっと……っ」

 ただ、お祭りで買ったおもちゃを、露店で買った道具ををなくしただけのようなそんなヌシさまには、そんな様子は見受けられなくて。


「……じゃあ、俺たちは、どこへ行くんだ」


 まがりなりにも天国に近かったそこから、常に何かに襲われる危険のあるところへ行くのが、そこまで幸せなのか。

「お前の言うことなんて、聞くんじゃなかった」

 今までに出したことのないような、低い声が出る。
 膝小僧の隙間からじっとやつを見ると、やつは眉間のしわを深くし、それでも目を逸らしはしなかった。

「……そう言うなよ。おれは、ただ……」
「……あたし、戻る」
「お、おいっ!」

 慌ててカラミの腕をつかむシゲキ。

「なあ、……頼むよ、じゃあ、3日。3日だけでいい、おれたちは、そこらへんで彷徨っていたんだ。きっと。
 ……頼むよ」

「3日後になったらここに戻ってくるから、それまでは野宿ってことか?……長すぎるだろう」
「……っ」
「じゃあ、決まりね」





 結局、俺達は戻ることにした。
 ヌシは、俺達の無事な顔を見てホッとした笑みを浮かべ、それを見たカラミはまたヌシに惚れ直していた。

「……なあ、シゲキ。冷静に考えろよ、飼われることがなんでいけないんだ」
「…………どこにもいけないじゃないか。自分の意思じゃ」
「お願いすれば、ある程度は聞いてもらえるかもしれないだろ。うちのヌシさまは特にお優しいんだから……というかお前本当にどうしたんだよ、誰かに変なこと吹き込まれたか」
「……」

 笑うと、シゲキは色をなくした顔で、何かをあきらめたような顔で、微笑んで見せた。

 そう、それでいい。

 俺たちは、そうでなくちゃ、いけないんだ。





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最終更新日  2015.07.02 07:32:02
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