Laub🍃

Laub🍃

2011.07.13
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カテゴリ: .1次メモ
 いけるかな、と思ったんだ。

 こいつなら俺のそういう所も受け入れてくれるかな、と。
 ほんのちょっとだけ甘えていた。

 ただ期待していた分だけがっかりすることにはなったけれど、
 どうってことない。
 そう、どうってことないんだ。

 元からこういうのには慣れている。

 ただ、相手があいつだったというだけで、ここまでショックなのは正直言って予想外だったけれど。

「はあはあはあはあもっと殴って!もっと俺を痛めつけて!!!」



 ずっと抑え込んでいたものは押入れに詰め込んだエロ本よろしく一度出すとなるとキリが無い、強制終了は心身ともに不都合が発生する。セールストークに容易く乗ってしまうみたいに、人は一貫性を持ちたい生き物らしいしな。仕方ないよな。

 そんなことを考えながら固まっているやつの足に顔を擦り付ける。はあはあ臭い、興奮する。

 ああこういうこといける絶対いけるって思って告っちまったんだよな。

 あ、でもいいわ、気持ち悪がられるならそれはそれでいいや。ちょっとだけ自分のまともな部分が傷付くけれどまともじゃない部分はそれを想像しただけでどこがとは言わないが存在を主張しまくっている。ああ駄目だなあ俺、親友よこんな俺を叱ってくれ。誰でもいいわけじゃないんだよ叱るのは。お前が一番いいんだ。お前が俺を叱って、矯正して、そうして支配してくれれば。まあ殴られることについては死ぬほどじゃなければ誰でもいいんだけど。相手の殴った時の興奮した様子、ほのかな達成感と罪悪感が堪らないのだ。
 家族にそれをやられている時ふと目覚めてしまって、笑い出した俺を気持ち悪いと言われたっけ。

 まあ、それもこれも全て「楽しい」とか「気持ちいい」とかに変換されれば、そうしてそれを隠すことが出来れば、なんて世の中は楽しみに満ちているんだろう。


 ……唯一の欠点は、他の人達が「楽しい」「気持ちいい」と感じている時に、置いてけぼりにされることくらいだから。


 相変わらず石のようなそいつの足に頬ずりして夏休みから洗っていないっぽい上履きにキスをして、そうして見上げると。

 やつは、呆けたような表情から、一気に顔を赤らめた。




 何だろう、この反応。





***

「実は俺…」

 とか言われるから、ちょっと反応してしまったんだ。

 まさか、まさかこいつにも、そして俺にも春が来たのかと。
 その可能性だけで、一生こいつを守ってやる、そこまで想像した俺はちょっとキてるのかもしれないけれど、まあ許容範囲ということであってほしい。いやむしろ、いけるだろ。絶対いけるだろ。こいつ俺の言う事ほぼ何でも聞くし(まあそのきっかけがこいつの暴走だから当たり前といえば当たり前かもしれないが)いつも一緒に居るし。フラグ充分立ってるだろ。



「はあはあはあはあ」

 今の現状から逃避すべく、数分前の出来事を思い出す。
 たしか。

「はあ…はあ……」

 あの時も、こいつは自分を落ち着かせる為か息をしきりにはいていたっけ。
 俺は今と違ってかなり興奮したものだが、その後に吐かれた台詞は告白は告白でも、

「お…俺を、殴って欲しいんだ」
「は……?」
「頼む、お前確か野球部だろ、その鍛えられた腕で一発殴ってくれ」
「えっ…じ、自分が許せない、とかか?なんか俺に隠していたことでもあったのか?」
「いや、その違うけど、違うけど、お前がレギュラーに選ばれなかったからって苛々しながら力任せに自主練習してるの見て…なんかその、そういうの持て余してるのかと思って…」
「ぐっ……いや、いいよそういうの。俺人に八つ当たりできるほど気が大きくないし、お前大事だしさ」

 末尾はちょっとした告白のつもりだった。

 が。

「ちがっ…違うんだ!俺、人に殴られると興奮するみたいなんだ……!お前の殺気立った姿見てたらムラムラムラムラしちゃってさあ!!!頼むよ!!なあ!!!」

 ……そういうとんでもない秘密の告白を受け、俺は急に迫ってくるそいつについ平手打ちを喰らわせてしまった。

 あ。

 やばい。

 いくらびっくりしていたとしてもいきなり暴力は駄目だよな、そんな力は込めていない筈なのだが帰宅部のこいつと曲がりなりにも運動部の俺とでは感覚が違うのかもしれない、そんなことを考えながらへたりこんだそいつを助け起こそうとすると。

「はあはあはあはあ」


……冒頭に、いや、現状に戻ってくるわけだ。

 そいつが、頬ずりしていた俺の上履きにあろうことかキスまでした。おいそれ洗ってないぞ。
 心配とこいつへの引きが釣り合いをとり、どう反応すればいいのか分からず更に全身の筋肉が固まる。


 と。―――…そいつが、ふいに顔を上げた。



「……」
「………」


 無言で見つめ合う。

 痛いほどの静寂。

 だが永遠に続くかと思われたそれは、わずか10秒程度で破られた。

「その困惑した申し訳なさそうなでも隠しきれていないなんだこいつおかしいって目興奮するもっとそんな目で見てああなんか可哀想な子を見る目になってるそれでもいいていうか見捨てないで見捨てないでね他に何やってもいいしていうかむしろ何でも大歓迎だからこれからもよろしくおねがっ…げふっぐ、し、ますっ」

 途中からほぼ泣き始めたそいつに、

 取り敢えず俺はくすぐりの刑を課したのだった。





*****


ちょっと支配欲のある常識人×後天的M

S:佐藤都
M:牧野想





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最終更新日  2015.10.02 01:43:36
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