Laub🍃

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2011.07.19
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カテゴリ: .1次小
兄はよく僕の顔を撫でる。
何故なら、そこには僕が兄を庇ってつけた傷があるからだ。
だから僕は撫でて欲しくてより兄を庇う。

兄の為に汚れれば、兄はそれを洗ってくれた。
だから僕は兄の為に汚れる。

あれから何年経ったか。

今も兄は僕の隣に居る。
違うのは、いつも悠然と構えている兄がヒステリックに喚いていて、いつも犬のように走り回っている僕が動けないことだ。

冷えていく。身体も心も底に沈んでいく。


兄はとうとう限界を迎えたらしく、その痩せた頬を熱い涙で濡らす。
僕が死んだらもうそれを感じ取れない。
それは少し怖かったけど、きっと兄の心の中の自分は生涯兄に飼われ「こうすればよかった」「ああすればよかった」と熱い目で見つめられ続けるのだろう。

吐き出した血が兄の身体にかかって、兄がより慟哭する。
血がまるで兄の身体についた傷跡のようだ。


ー僕は、兄の傷として生きるんだ。
生涯癒えない傷に。

兄に最後の笑みを向けると、兄はー兄も、何故か笑っていた。

「…え?」

慟哭ではなく、笑いからくる震え。

「やっとーーーーやっとか。やっと、この時が」

「ずっとずっとずっとずっと俺を憎んでいたなお前は。俺が止めるごとに走りだして、言うことにいつも背いて。だから、だから俺は今回も止めたんだよ。どうせ逆らうだろうって。お前が今度は戻ってこれないって、死ぬってわかっててもな!!」
「……にい、さん…」
「あはははは、ざまあみろ!!!一番嫌いな奴の腕の中で死んでいく気分はどうだよ!!」
「……」

想像していたのとは違った。



兄の心が傷付いただけでなく回路が壊れていたのを目にしたことに、

僕は幸せを感じていた。


「……今までありがとう」
「おい!いくなよ!!おい!!」
「……」
「いつも、みたいに、憎まれ口叩けよ!死ぬわけないだろ馬鹿じゃんって…おい!!」


兄のぐずぐずになった目は透明な血を垂らす傷口のようで、それが美しくて僕はまた笑った。





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最終更新日  2017.05.13 19:01:43
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