Laub🍃

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2011.08.23
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カテゴリ: .1次メモ
 約1gは、1円玉の重さ。
 21gは、魂の重さ。
 では、幸せの重さは何グラムなのだろう。



 誰も目の前に居ないのに、その道化師は芸を続けていた。
 流石に哀れになったので、一円だけからっぽの帽子に入れた。
「ありがとうございまぁす!」
 明るく痛々しいその声を背に受けながら、そそくさと僕はその場を去った。

 それから何度も、「1円だけ足りない」ことがよくあった。


 その度に僕は、あああの時あんなことしていなければ、などと思った。みみっちいと笑うなら笑えばいい。1円にもたらされる不幸は大きいものも小さいものもあって、中には彼女との別れに発展したものもあった。あの道化師は貧乏神だったのだろうかとも思った。

 けれど最後の日、なんだかんだで僕は大事な友人、孫、子、そして嫁たちに囲まれてその時を迎えることができた。

 段々と真っ白になっていく視界、銀色の輝きがふと目の前に現れた。

「お前……」
「お久しぶりです」
「お久しぶりです、じゃない!やっぱりお前人間じゃなかったのか!!いっつもいっつも1円足りないと思ったら!!」
「まあまあ。私はそれでむしろ、貴方様に利益を与えてきたつもりですが?」
「……手のひらで転がされてるみたいで、面白くなかったよ」
 そう。面白くない。
 確かにご利益的なものはあった。
 別れた彼女はとんでもないヤンデレだったり、電車賃が足りなかった日電車事故が起こったり、欲しいものの値段がその後どんどん下がっていっていたり、買ってみたけど案外面白くなくて、最安値で妥当だと感じたり。俺がそうして健康体でいられるのだって、ポケットマネーが頻繁に1円足りなくなっていたお蔭かもしれない。買い食いも、妙な寄り道もせずにいたお蔭で、俺の健康と家族の仲は保障されていたのかも。それでも、なんともささやかな、ささやかな幸せだ。


 ……それこそ、何万何億出してもそれを買いたいと言う人だっている。ねえ、ものは相談です。あなたはこのささやかな幸せを売って、代わりにその人の人生を貰いますか?」
「断る」
「ふふふ。そうでしょう。そうでしょうとも……」

 不気味な声が渦巻く。それは俺の意識とともに、白い闇に溶けて消えた。



*****








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最終更新日  2016.08.30 23:17:04
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