Laub🍃

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2011.12.10
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カテゴリ: .1次メモ
僕とお父さんは死んでいる。
 現世にお母さんと妹を遺したままで。

 僕は二人に会いたい。学校にももう一度行きたい。
 あの世の暮らしは案外快適だ。ほとんどこの世と同じで、いいことやお仕事になることをすればお金のようなものを貰えて、それが溜まれば生まれ変われる。だから僕は他の人のお手伝いをしたり、子供でもできる簡単な仕事…たとえば砂利を運ぶとか、をして暮らしている。ちなみに昔の人はこれを見て賽の河原のイメージを持ったみたいだ。

 そしてお父さんは、生前の職を生かして

「はい、全員揃いましたか」
「はい」
 現世に戻るツアーをやっている。


 だけど、僕がいくらお願いしても、貯めたお金を持って行っても、全然連れて行ってくれないんだ。


 でも僕と同じように弾かれている大人の人も居るし、逆に僕と同い年くらい、いやもっと小さいのにツアーに入れて貰っている人も居る。

 ああ、いいなあ。
 現世に向かうあの人たちは皆死人みたいな…いや皆死んでるけど、せっかく現世に迎えるのに沈み込んだ顔か、ブツブツ呟いてるか、煮えたぎった目でどこかを見ているだけ。あの小さい子までも。

「それでは、行きますよ」

 お父さんたちの体が、雲の中にずぶずぶと沈み込んでいく。
 雲が多い雨の日に、お父さんたちは雨に紛れて降りていく。
 一度僕もついていこうとしたけど、すぐ気付いたお父さんに怖い顔で止められてしまった。
 あーあ、僕もいきたいのに。








 津田欣司は死者のツアーガイドをやっている。
 その主な目的は、復讐を果たしてもらうこと。


 以前はこういった感情も、恨み直す時にまとめて回収され産業廃棄物となっていたものだったが、恨む相手が死ぬまでずっとあの世にとどまり続ける亡者が殖えたり、生まれ変わる時にそのかけらが残っていたり、また恨みを吸い取る時の亡者の声があまりにもあんまり聞くにたえないものだったからこのシステムが導入されたらしい。

「さて、行きますよ。まずは1番の方から。繰り返しになりますが、申請した以上の復讐はできませんし、申請したもの以外には触れられませんからね」
「……分かってる」

 とはいっても、毎回毎回予定が狂うのが日常だ。
 好きな所には行けない、同業者とも滅多に愚痴りあえない。余程恨みが溜まっている亡者だけに声がかかるシステムだから、情報が漏れるとまずい。


 傘を広げる。黒い傘に、死人にだけ見える白い不思議な模様。
 この世に留まっている地縛霊も、このシステムを紹介することであの世に連れて行くように言われている。その場合この模様は効果的らしい。

「見えました。あちらの方です…ああ、もう気付いてらっしゃるようで」
「当たり前だ」

 白かった顔が、怒りで赤く染まる。

「申請した以上の…」
「分かってる」

 まあ、こんなものだろう。
 何かあったら自分が止める。体と心の準備をしながら、彼を連れて行く。
 因みに他の復讐人の人々には見えないようにする。ストッパー役として協力してもらえばいいという意見もあるが、逆にヒートアップしてしまう場合もある。申請した以上のことをする為にはまたあの世で金を貯めねばならないし、そこまで苦しませるのは酷ということで今の所はブラインドさせて頂いている。

「では、いってらっしゃい。気を付けて」
「……」

 さて今回はどうなることやら。





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最終更新日  2016.11.15 13:26:04
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