Laub🍃

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2012.02.23
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カテゴリ: .1次メモ
 今日も俺は、学業が終わり次第直ぐ縫物をはじめる。この時代、男が針仕事をしていると笑われるのが常ではあるが、仕方がないのだ。それに、最近は少し楽しくなっても来た。

 彼女の忘れ形見の為に、彼女の形見を解いては縫い、またその端切れで人形などをつくってやる。
 そうすると微笑むのだ、

「おじさま、ありがとう。だいすき」

 この言葉の為に俺は眠い目をぐいぐいと擦り縫い続ける。
 何もかもを忘れ、没頭する。思い出したくない事を押し込める時などむしろこの集中は好都合だ。
 そうして小さな存在に、俺の労力と時間と執念の詰まったものを託して、それを身に着けているのを見て、安心する。

 その目的の為に頑張れる。
 帰って来れる。





 *****



 彼の後ろに佇む白い影はふ、と寂しげに微笑む。

 こうでもしないと彼をこの世に繋ぎ止められないのだ。

 己を、大事な家族である己を喪って沈む彼を、どうにかして立ち直らせてやりたかった。




 *****


 彼は今日も縫い続ける。

 幻想の声を聞きながら、人形の、姉の形見の人形の服を。





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最終更新日  2015.09.26 01:08:50
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