Laub🍃

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2012.03.05
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 世界には知の魔王、力の魔王、欲の魔王が居た。
 知の魔王は戦略に長け、力の魔王は武勇に長け、欲の魔王は取引に長けていたが彼らの仲は常にぎすぎすしていた。

 ゆえに彼らは四人目の魔王を作ろうと決めた。
 阿呆で、無力で、純粋な子供を攫ってきて、魔王の冠だけを授けたのだ。

 その子供は四天王最弱だったが、ゆえに皆から愛された。何せ気を張る必要はない、自然体で居ても攻撃してこない、こちらがうっかり失言しても攻撃してしまっても反撃するすべをもたずむくれるだけ。ご機嫌をとる楽しみを三人は初めて知った。
 ー勿論、驕り高ぶられない為に最弱で居続けてもらうために一定の権威をこちらから示しはしたが、それにしても一般の庶民でいう「お嬢様をたしなめる執事」のようだったろう。
 他の二人を除く全てに平伏される三魔王にとってご機嫌をとることは独特の背徳感を伴うぞくぞくとしたー言うなれば貴族がマゾヒスティックな趣味に目覚めるようなーものであった。

 勇者が何人も普通の村から異世界から雷の落ちた場所から天空からやってきたが、三人の魔王は常に最弱の魔王に相手させることはなかった。進化させるわけにはいかない。あの子には最弱でいてもらわねばならない。

 そうして最弱の魔王は最弱なまま育った。


「やっとわらわが戦える番が来た!」

 しかし四人目の魔王は勇者に拉致された。

「なんじゃ!放せ何をする無礼者!」
「助けに参りました、姫」
「姫!?知らん、わらわは魔王じゃ!」

 勇者達は、何世代も前の女王の悲願をずっと遂行し続けてきた。毎度毎度返り討ちにされていたがそれでも彼らは姫を救い出す為だけに育てられ最強になったのだ。
 成長と死を奪われただけの彼女には為すすべはなかった。
 守られ、心が折られない限り解けないまじないはいまや彼女を苦しめるだけのものに成り果てた。
 けれど彼女は永遠に待ちぼうけをすることを幸か不幸か知らない。知ることが出来ない。
 彼女は何も知ることが出来ない。

「なあ、強いんじゃろ、知の魔王、力の魔王、欲の魔王!起きてくれ、この弱の魔王を助けてくれ!やっぱりわらわ一人じゃ倒すの無理じゃったー!」


 最強の声は、最弱には届かなかった。
 最弱の声も、最強には届かなかった。

「……鳥……知の魔王の使いか…?伝えてくれ…囚われていると……」

 今まで何回か、こっそりと潜入した不埒者に囚われたことはあった。けれど毎回助けに来てくれたのだ。
「助けに来てくれとは言ってないじゃろ!」


なんて言いながら。
 彼女は助けを望み続けたがとうとう意識がホワイトアウトしー気が付いたらでっかい鳥に運ばれていた。

「おお!迎えに来たのか!!」
「……ああ、ご案内するよ、死の国へ」
「…死?」
「いい所さ」

 三つ目の鳥が喋る異様さも畏れぬ最弱の魔王は、死という概念も知らなかった。

 かくして四人は地獄で再会する。
 そして地獄を支配する第一歩を踏み出すのだった。

*****


魔王サーの姫の戦いはこれからだ。

姫はある意味色の魔王かもしれない。





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最終更新日  2016.12.15 00:46:35
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