Laub🍃

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2012.05.28
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カテゴリ: .1次メモ
「お久しぶりです、皆さん。早速ですが本題です。こちらの魔王様の件でご援助願いたく、僭越ながら私が連絡役を勤めさせていただきます」
 いつもの会合。西の魔王が立っている筈のそこに立っているのは彼女…魔王のメイド長一人。
「……タイダルがまた何かやらかしたのか…」
 既に何を言わずとも分かっていることだったが、一応確認する。彼は一月に二三度は魔王にあるまじき失態をしている。見た目は四大魔王中一番年上だが、中身は一番子供っぽいと評判だ。さすがに本人の前で口にしたりはしないが。しかし部下たちが一番それを実感しているのだろう、僕よりも大きな溜息を吐きながらメイド長が言う。
「ええ、またこちらの魔王様がやらかしました。面白そうやからと勇者に単身で戦いに行って返り討ちに遭いました」
「冗談を言うな…奴とて魔王の一員。そこまでタイダルは弱くなかろう。」
 冷たい目で、しかしやつならやりかねないという若干の焦りと共に言い放つのは北の魔王直属騎士、アリス=バーン。隣でにこにこと面白そうに微笑む主とは反対に、眉間の皺が段々と濃くなっていく。
「申し訳ありませんが、事実なんですわ。ほんますみません、迷惑掛ける思います」
 訛りの強い、本当に情けないという声音でメイド長が言う。

 心配そうな声を挙げたのは、最近会合に参加したばかりの北の魔王。確かプディルと言ったか。
「いえ、攻撃を受けたわけではなく、呪いを被ってしまったようです。ぱるぷんてとかいう呪文でした」
「ぱるぷんてか…それは私も苦しめられたぞ」
「戸惑うアリスは可愛かったのう」
「魔王様からかわないで下さいますか」
「えーと…何が起こるか分からない呪文でしたっけ?」
「どんな呪いを被ったんだい?まさか石化とか……」
 そうなったら魔の均衡が崩れるぞ。
「いえ、なんとか話はできます。できるのですが……」
 次の瞬間、彼女が机上に映像を映し出した。まだ幼く、人生の苦労も知らないような少年だ。
 ……まさか。


 メイド長の赤毛が小刻みに揺れている。

「うちの魔王様、子供にされてしまいました」

 ピシャーン、と背後で雷が鳴る。

 まるで人間界の物語における、サスペンスの1シーン。
 だが、その緊迫感に対し僕たちの反応は非常に落ち着いたものだった。


「こちらの魔王様がそろそろ疲れてきたみたいだから帰ってもいいか?」
「可愛いですね…!」
「…………」

 メイド長は暫く硬直した後、おもむろに窓を開け、
「ちくしょーーーーー!!!」

 と叫んだ。
 そして翌日から彼女はベビーシッター兼代理魔王捜索を始めた。





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最終更新日  2016.05.23 19:02:30
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