Laub🍃

Laub🍃

2012.06.01
XML
カテゴリ: .1次メモ
彼女のことをわかっている、つもりだった。
そうしてゆくゆくは結婚するのだと、根拠もなく信じていた。


「これだから、人間は嫌なんだ」





「あ、こんにちは!南の……バーン様」
 目の前に居るのは真っ白な長身美女。気温に歯向かうような重装備をしとるけど、私はそれが寒がりなせいやないと知っとる。
「アリスでいい。そちらは西のサルビア、でよかったかな」
「ええ、アリス様。…先日の、援助の件本当にありがとうございます。うちの国、本当今内乱だのなんだので慌しくて」
 私もアリス様も、似たような立場。ただしアリス様は王の直属護衛兼軍師と右腕として立派な働きをされている一方、私などはどこにでも飛び出す王の尻拭いや遊びへの付き合いばかりさせられとる小間使い。

「気にするな。直接介入するわけにいかぬから、監視くらいしか出来んがな」
「それでも十二分にありがたいですよ!!」
 ほんま、かっこいいお人やわ。
 簡単に世間話などをしていると、体が少し震える。
「ああすまんな、そろそろお暇するとしよう。そろそろ主のお話も終わるであろうしな」
「お気になさらず、こちらこそ引き止めてしまって」
「うむ…もう少し改良するとしよう」
 彼女のコートは、寒さを防ぐ。ただし、外側に対して。
 氷の女王と評される彼女は、体の芯から冷気を発する能力を有している。
 だからこそ、熱気をコントロールできる南の魔王様とバランスが取れているのだろう。
 歩きづらそうな高いヒールを響かせながら、冷たく澄んだ音を響かせアリス様は去っていった。



「…で、アナタはアリス様に話しかけへんのですか?」
 アリス様が去った後。振り返らずに後ろの気配に言うと、慌てた声が返ってくる。
「で、できるかそんなこと!使用人が偉そうに…」
 参謀に頭の上がらない人がよう言うわ。
「アリス様もアナタに気付いとると思いますけどね、東の魔王子様」

「それやって、アナタの所の参謀が決めているだけなんでしょう?」
「……勘違いするな。僕はただの傀儡だ。勝手をしていい筈がない。言動も結婚相手も全て決められている。それが僕の、唯一貢献出来ることなのだから」
「…難儀ですねえ」
 徹底的な一子、徹底的な女尊男卑制度、徹底的な参謀の力の強さ。うちの国も大概だが、東の彼らは輪をかけて異常だ。

「いいか。絶対に見たことを言うなよ」
「そう言われなくとも、別に漏らしたりはしませんよ」
「絶対だぞ!」
「大丈夫ですって」
 さっさかさーと走り去る彼の背中にため息を漏らす。
 …ずいぶんとえらそうだが、あっちの参謀よりは感情が読めるだけまだ、味方をしたくなる。

「どこの国も色恋沙汰というのは難しいものじゃな」
「それ、5つの子供のせりふではありませんよ魔王様」
 そこら辺を好きに回っていた魔王様が、不意にテレポートで隣に現れる。この唐突さにももう、慣れた。
「…それで、唯一残っている人間の国はいかがでしたか?」
 魔界で生まれた邪神を元にしている、我らが西の魔王様。
 先日の事件で精神年齢でも若返っている彼にとっては、人間界ははじめての筈だ。
「それがなあ…」


 魔王様の尻拭いに奔走するのはこの2分後だった。


「なんで、天下一武道会みたいなもん開催しとるんですか!?」
「面白そうやろ?」
「全然面白くないですよ!」
「俺のせいやないもん。誰が一番強いん?って酒場で聞いとったら勝手に開催されとったんやもん」
「アンタの言い方は挑発してるみたいなんですよ、少しは気を付けてください……ま、まあ、一般人同士の戦いだからいいものの」
「すまん、俺名指しで来い言われとる」
「は!?なんでやねん!!?見たとこ5歳児やろ自分!?」
「大魔法使いの子供やって言って来たらその才能見てみたい言われてなあ…乗せられて他の部下も参加させることにしてしもうたわ」
「そんなもんすっぽかしてくださいよ!」
 ああ、本当にこの人は年齢が下がると更に手が付けられへん。
「しゃーないですね、適当な所で負けてきてくださいよ」
「優勝したい」
「だめです」
 ああ、東の魔王のあの恋する瞳がほんまに羨ましい。私にはそんな暇もなさそうや。
 昨日市井でちょっとええなあと思った花屋も私が魔王とかかわりあるって分かったとたんすんごい勢いで逃げてったしな!もう知らんわ!!!





人間は嫌いだ。さきほどうるさかったメイドのような奴など特に。







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2016.05.30 12:40:39
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: