Laub🍃

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2012.07.18
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カテゴリ: .1次メモ
 つまりは、そういうことなのだ。


「つまりはこういうことかい?」



 俺のやり方が全て気に入らないと。


「俺はもういらないと」


 だが単独で立ち向かう気もさらさらない。


「そいつを次は祀り上げるんだな」


 だから俺の居た椅子に、次の大馬鹿野郎を引っ張ってきて、責任もすべておっかぶせる。

 愚民共はいっつもそればかりだ。

 親父に未開拓のこの土地を任され、強引ではあったかもしれないが荒れ野を整備し皆に職を与えてやったのは誰だ?俺だ。


 それがこの数か月で覆されちまうだなんて。


 なあ大臣、お前は俺に小言言うことが多かっただろ。なんでそいつには言わない?
親しみゆえのもんだと思ってたのがうぬぼれだったのか?

 なあ将軍、どうして言葉を発する俺を冷たい目で見る?お前が守ろうとしたあの塔は残しておいてくれと言う俺の言葉はそんなに変か?お前はそれにもともと大した拘りなんてなかったのか?

 なあ宰相、その場所は楽しいか?俺はお前らが楽しく過ごせたらと思って頑張ってきたんだぞ?どうして、どうしてだ。お前らの話聞いて、その度工夫して、それが暑苦しかったのか?

 冷たい王宮の中、民衆はまだ居ない。
 だが俺が王宮の外に引きずり出されたら、どういう反応をするかなんて……嫌な予感しかしないじゃねえか。

「なかなか言い出せなかったんだろ、俺が王だなんて不適とは」

 だから、征服者に皆で寝返ったっていうわけだ。

「あ、あなたも、彼の下に下ればいいじゃないですか。今ならまだ……」
「嫌だね。どうせお前らが知っているみたいに俺は変な所で頑固なんだよ」



 意見を全く聞かないこいつより、聞こうとしてあがいていた俺はカリスマ性に欠けて見えたかもしれない。
 だけど、俺はそれでも、いつかのこいつらの願いをどうしても忘れられなかった。
 こいつらの願いを、たとえこいつらが今やもう望んでいないとしても、かなえようと俺が言った時のあの笑顔を忘れられなかった。

 今でも少し、あの願いがかなえばいいと思っているんじゃないのか?
 俺に対して噤む口があったように、新しい王にも噤んでいるんじゃないのか?

 新しい王に抗うきっかけも少しはもとめているんじゃないのか?


 冷静を装って、元部下たちの目の中を見る。

 だがそこにはかつてあった温かさなどなく、その闇からは何も、読み取れなかった。


「勝手にすればいい。俺はどうせ、無力だ」


 何もかもが折れてしまった。
 もう、いい。どうせ、俺は王の器じゃなかった。

 民衆の下に引きずられていくまで、あと何歩だろうか。

 俺は何をする気力もなく、また何も求められていないゆえに何もしようがなく、
矢張り俺は王としてぐいぐい引っ張っていく力に欠けていたのだなと思い知る。

 俺はただ、みんなが「この国で生きていてよかった」と思える国を作りたかっただけなのに。

 出来るだけ多くのみんなの言いなりになり、出来るだけ多くのみんなに言うことを聞かせたかった。
 それもすべて大義名分に縋っていたとお前らは言うんだろうか。

 これから俺は、言いなりにはなれど、言うことを聞かせることはない。
 守りたいものも守れない。言いたい事も言えない。

 だからこの国がどうなるかなんて知ったこっちゃない。

 絶望は心の独裁者と言うところか。
 うまいことを言ったつもりはないが、口元が何故か笑うように歪んでいく。

俺は、「独裁者の言いなりになり」「他者に言うことをきかせる」民衆のもとへと、足を踏み出した。





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最終更新日  2015.06.18 17:08:07
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