Laub🍃

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2012.07.22
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カテゴリ: .1次メモ
 思うにそれは、最後通告だったのだ。
 「それ以上私の望まぬ姿を晒したら、容赦しない」といった。




「君は最近変わってしまったな」
「俺にとってのお前は、こういったことをしないと思っていたんだがな」
「悪いが、そういうことをする貴方は私にとって貴方ではない」

 私はずっと同じ姿で居るというのに、いつもこう言われるのだ。
 いつもいつも、勝手な期待を抱かれる。

「ここまでとは思わなかった」と言われるのはまだいい、一番どうすればいいのか分からないのは僕の行いに対して、曖昧に笑って濁すか黙って立ち去られることだった。



 彼のその行動の原因は、恐らく僕にあるのだ。僕が優柔不断で、彼を見捨てた(と彼が思っている)せいなのだろう。彼は、「裏切りだけは絶対に王はしない」と信じていたからこそ、僕についてきていたのだ。

 僕はあの時「分かってほしい」と思っていた。分かっている、僕のわがままだということは。それでもあの時は、彼よりも他の存在を優先せざるを得なかった。僕が末席だということが分かっているだろう?ハチコ。魔王の会合、一番最後に攻め落とす為の、北の連合を切り崩す最初の砦が僕の所だということだけが僕の、僕たちの命を保障しているのだ。南の騎士は相変わらず冷たい目でこちらを見ているし、西の魔王など勢いで何をしでかすか分からない。唯一東だけが「北の魔王の人柄は好ましい」と言ってくれているのだ、彼らに逆らうわけにいかないだろう。

 目を閉じれば、思い出す。

「王、魔物と手を結ぶのは魔国をもう少し視察してからのほうがよいのではありませんか。植民地化された場が人民間戦争でのそれよりも良いという保障がどこにあるのです」
「黙れ、北の従者」

 そう発言したのは、僕を気に入ってくれている東の参謀で。
「…………」

 何も言えるわけがなかった。ハチコを庇うことも、かといってハチコを窘めることも。

 何か、言えば良かったというのか。

 僕に何を言えというのだ。僕はもともと、何かを決定することがとても苦手だということは長く仕えているのだから知っているだろう。僕に出来るのは、ささやかな平和を守ることだけだ。勉強は得意だ、それでも人と人の間のやり取りは常に最善を尽くすことしか知らないのだ。

 最善が浮かばなかった僕は、ただ黙ってハチコを見詰めた。ハチコは一瞬目を見開いてから、それから諦めたように肩を落とした。良かった。きっとこれが最善だったんだ。僕もハチコも、無用に攻撃されることがない最善の選択。



 あれからだ、ハチコの様子がおかしくなったのは。

 彼を、あの場に同席させるべきではなかったのだろう。いっそずっと関わりがなければ傷付けることはなかったのだ。中途半端なつながり等被害を広げるだけだ。

 なあ、良かったと言ってくれ、ハチコ。
 いつもいつも僕を全肯定してきたお前に苛立ちを感じてもいたけれど、やっとお前が僕を肯定しなくなったと思ったけれど。それでも今、よりにもよって今そうやって否定するのか。






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最終更新日  2016.06.06 06:21:44
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