Laub🍃

Laub🍃

2012.08.07
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カテゴリ: .1次メモ
 先輩は失礼だ。それは誰に対しても平等なもので、だからこそ私含めいろいろな人が先輩についていった。

 ……なのに、これは。手酷い裏切りじゃないだろうか。

「やはりさすがだな、コルクは」
「いや、ハチコもなかなかのものだろう」

 認め合っている二人。そして別枠のサラさん。そんな3人の中で、私一人、役立たず。

 勿論これは宮廷内じゃなくて、勝手についてきたのは私で、先輩に私の面倒を見る余裕も義理もなくて、私は自分で頑張らなきゃいけなくて、それでもやはり、先輩を独占しているなああの勇者様は、とか思ってしまう。

「……せんぱぁい、おぶってくれませんか?」
「………いや、また何を言い出すんだお前は…」
「ヒールが折れちゃいましてぇ」



「…そんな靴はいてくるから…って、まあ、魔力補強の中で一番コスパよかったから仕方ないが…」
「やっぱりバザールで買った中古はいけませんねぇ」
「もう両方ともヒール折っちま……あー、いい、いい。そこいらの枯れ木で代用しろよ。それか一旦町まで戻れ」
「まちぃ?いやですう」
「いや、すぐそこだろうが」
「足の速い先輩にはすぐでしょうけどぉ、私には遠いんですぅ。……お金かかりますし」
「……はぁ。まあいい、丈夫な木の枝探そう。俺も手伝うから。コルクとサラが食事と寝床の準備するところだし」

 カネの話を出されれば、私が貧乏なことを知っている先輩は黙らざるを得ない。町に戻って野宿していたら警吏にいろいろ言われますし、新しい靴を買うのにも何かとセットな方が安く買えますし。今の状態じゃあ分が悪いってことは先輩も分かっているようで。

「……ありそぉですか?」
「まだだ」

 先輩に申し訳ないのと、先輩一人で放っておくのや自分一人になるのが不安で追いかけると、「ヒヨコかてめぇは。歩きづらいのならじっとおとなしくしてろ」というお言葉を賜った。はいはいツンデレツンデレ。



「……あらぁ、奇遇ねぇ!」
「……あ、もしかして」

 そういえば、この前の町のバザールで、私が螺子とか歯車をじーっと見ている時に同じく隣でじーっとみていた人が居たのだった。

「モハ!モハも冒険してるのぉ?」
 敬語じゃない言葉を使うのなんて久しぶりだ。


 暗い森の中、月のように彼女の白い肌だけが浮かび上がっている。

「なんか、落ち込んでいるみたいね?」
「…………私だけ、使えないみたいでぇ」

 夜のような彼女の、太陽のような明るさに、つい打ち明けてしまう。
 使えない。スパイとして、やっぱりスパイ相手に有用性は示しておかなくちゃいけないっていうことと、もう一つ。どこか、悔しいんだ。ここでも、先輩に認められなくて。

「……でも、仲間は別にそういうこと言ってないんでしょ?」
「それは、私が僧侶だからだと思う。先輩は戦士で、あとの二人は勇者と召喚士で、私だけ使える魔法がいくつかあるから。……でも、それだって少し値の張る薬を買えば代用できるし、勇者さんは多分そのうち私より凄い回復魔法とか、強化魔法とか使えるようになる。……いつか、不要になる。いまだって、お荷物なのに」

 先輩におぶって、なんて甘えたのは不安の裏返しだ。それだけ頼ってもまだ私を置いていかないでくれるって、信じたかった。

「なら、いい手段があるよ」
「え?」

 彼女が突如両腕を広げ、その後ろから何かが湧き上がる。

「―――…え」

「ようこそ、私たちの密教団へ!」


 それはとても大きな、石塊の翼。






「ふふ、私これでも結構重要な仕事してるのよ?」

「……魔、族」

 ぼそりと漏らした言葉を彼女は拾う。いつのまにか現れた片レンズの向こう、目は金に怪しく輝いて。

「ふふ、生まれついてではないよ?私も勧誘してもらったの。魔族の力を借りてるけど、一応肩書は神官よ。闇の神官ってやつ」
「…わ、私、一応、勇者様の一行なのでぇ、そういった方向への勧誘はちょっとぉ…」

 自分が北の魔王(仮)のスパイだってことは一応まだ隠しておきたいし。

「あぁいえいえ、別に行動を共にしてもらうのも、私たちの仲間だって公言するのも必要ない。ただあなたは私たちの能力を使ってくれればいいの。この欠片を一つあげるから、今度からこれを握りながら魔法をかけてみて。怪しがられたらバザールで店主からもらったとでも言えばいいの」

 立て板に水、断れようもない。
「…………そ、それであなたたちに何の得が……?」
「……ふふ」

 じりじりと追い詰められ、手をすっと差し出され。後ろに下がると――とん、と衝撃。木の幹。追い詰められた。
 モハは木の幹に手をつき、ぐっと顔を近づけてくる。

「私の、個人的な趣味。あなたが私の力を借りて戦っている、それだけで嬉しいの」
「…私、そんな気に入られるようなことしてませんけどぉ」

 怪しい。怪しすぎる。先輩だったらこの時点で相手をぶん殴ってる所だ。私あそこまで野蛮人じゃないですけど。
「…なーんてね!とぼけているように見えて頑張り屋で、私と趣味の合うあなたを気に入ったのは本当だけど、でも、まあ本当に私たちにとっても得のある話なのよ。…私たち、今の魔王政権が気に食わないの。でも、ここまで魔に汚染された世界、人間たちにとっては毒。取り戻したってろくに扱えない。西や東の元人間たちなんて、人間のままでは生きづらいからって言ってどんどん自ら魔族化していってる。……これは、浄化よ。私たちの術による、人間と魔を繋ぐための秘術が、私たちの力には組み込まれているの。だから、あなたにはそのお手伝いをしてもらいたいと思って。」
 にこりと微笑むマハ。その顔には、嘘などなさそうで。だからこそ、恐ろしくて。
「……私が魔法を使った場所は、その「浄化」とやらがされるんですかぁ?」

 不利な体勢、それでも負けずにとぼけた口調で言い返す。目も口も笑えはしないけれど。

「そう。だから安心して魔法を使ってね」
「……はぁ」

 先輩ならきっと断るんだろうこんな契約。先輩なら。……そんな仮定には意味がない。先輩はそもそもこんな状況に陥らないだろうし、そしてそもそも先輩と私は別の人間だ。…別の価値観を持っている。

「よろしくお願いします」

 そう言ってゆるく微笑む私を、マハは抱き締めた。





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最終更新日  2016.06.13 01:20:58
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