Laub🍃

Laub🍃

2012.08.10
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カテゴリ: .1次メモ
「……何か、妙な臭いがするな」
「ではさっさと片付けて来てくださいませ。私には他にやることがございますので」
「はい」


 北の人間界で開かれた会合の帰り。魔力が尽きてしまったためテレポートが使えなくなった僕は執事長に舌打ちされた。いつも思うがこの執事長は僕と違う所で働いていたほうが幸せなのではないだろうか。
 我関せずと食事の支度をし始めた執事長。森の中の魔力耐性のない動物や植物たちが、次々と調理されたディナーに変わっていく。ここで僕の分を準備してくれるだけ、感謝すべきなのだろうな。僕は所詮、血縁だけしか意味のない存在なのだから。

「……死にたいな」

 こんな生きていてもどうにもできないような奴は死んだほうがいい。いっそ誰か殺してくれれば楽なのに。……そう思うけれど、もう少し頑張っていれば報われるのではないかと心のどこかで縋ってしまっている。頑張るほどの気力もないくせに。
「気を付けろ馬鹿後輩!」
「あ、ありがとうございます…でも馬鹿は余計ですぅ」



ん?

「……人間?」

 北。人間達は殆どそこに追いやられていて、他の地に僅かに残る人間達は殆ど魔族、動物もとい彼らにとっての「魔物」を殺すことはない。せいぜい飢えた時の非常食、人間で言う野鳥や野兎を捕まえるくらいのもので、小型のものは無視、大型のものに困らされたら魔族に依頼する場合がほとんどなのだが……ここは北の港町に近い場所、まあ、人が居てもおかしくないといえばおかしくはない。知り合いに会いにいく余所者だろうか?それとも商売範囲を広げに来た旅商人とか…

「……」
「やだぁ!やですぅ、しにますしにますぅ!」
「いいからてめーは回復とバリアに集中してろ!最近いい魔石手に入れたんだからちょっとは強くなってるはずだろ!?」
「……ごめんね、私が召喚できなくなっちゃったから…」
「いや、これまで世話になり過ぎた。あと少しで町だ、突っ切ろう」
「コルクは大丈夫か?」
「いや、かすり傷だ。回復はお前の後でいい。というか、そろそろ壁役代わるか?」
「ぐっ……平気だ」



『ねえねえ、あにえす!これあにえすにあげる!!』

 幼い日の記憶が何故か頭をよぎった。

 あのころはまだ執事長ーアニエスを、厳しいけれど、それでも世話をしてくれる人だと思っていて、プレゼントは人を喜ばせるものだと思っていたのだ。

 愚かなことに。

『…………っ』



 僕が生まれたせいで、アニエスの大好きな母様が体調を崩してしまったと知ったのはそれから少ししてから。
 そんな僕から何かもらったところで、大嫌いな僕の顔と母様の死に顔とが、もらったものを見るたびに思い出すだけだろうことを知ったのも、そのとき。

 僕はずっと、居ない方がいい存在で。

『死ぬなら子供残してから死んでくださいね』


 ……見ていないで、戻るか。きっとアニエスが苛々しながら待ってー…

「せんぱーい!!!」
「ハチコ!?」

 ドスッ、と痛々しい音が響いたのは僕が踵を返した直後。

「……」

 見ると、そこには予想通りの惨状、ハチコと呼ばれた先ほどまで壁役をしていた男が倒れていた。

「どっ、どうします」
「どうにかして生き返らせたいが、生憎このアイテムしかない…」
「それって確か、契約している王城で生き返るやつですよね……」
「一旦戻るのは面倒だな」
「いや、先輩の場合、喧嘩別れしたうちの王様の所に戻ることになってしまうんですよねぇ。絶対怒ります。私に。死んだ方がましだとか言い出すかもぉ…」

 …いやに冷静な対応だ。もしや、生き返りの術を人間でも使えるのだろうか?だったらやはり放って…

「流石に大丈夫だろ?使ってみっ、うぐっ」
「コルクさぁん!!?」
「あがっ」
「サラさん!!!待ってください今回復をっ、あっ」
「君だけでもいき…ろ……」
「……せめて…っせっ、先輩方、あとで私のことも拾いに来てくださいよぉ!!?」

 ちーん。

 見事に僕の目の前には死体が4つ鎮座していた。
 因みに死体に近付いた僕に対し、先ほどまで敵愾心剥き出しだった魔物、ホワイトイーター達は逃げ出していった。
 類種のグレイイーターなどならすり寄って来るのだが。やはり懐かない獣は可愛くないな。

 さて、と。

「……」

 まあ、腐っても僕は魔王子だ。いや、一応魔王だ。北の魔物大嫌いな人々だったとしても、少しの期間で契約が切れるのだからまあ、いいだろう。……「ハチコ」含め、最後に死んだ女以外の体が白く光り始めてる、まずいな。このままだと彼らの本拠地に戻ってしまう。早くしてやろう。

 これくらい、おせっかいじゃないだろう。

「生と死の境に居る汝を、我が眷属に任じる」

 死体にしか使えない能力だから、相手に「命じる」ことしかできない能力だ。王としては相応しいのかもしれないが、ずっと嫌だった。それでも、仕方がない。ハチコはじめ4人に掛ける。ひとまず光が落ち着き、代わりに青く光り始める。…僕の色。

「死の国の住人達よ、我が眷属から手を離せ」
「……!かしこまりました」

 運が良かった。下っ端の死神くらいしか僕には追い払えないから。

「ふう……」
「……あれ?俺は…」
「おはよう」

 さて、久しぶりの庶民との会話だ。巷の面白い話でもないか、訊いてみるかな。



***



この世界での生き返り方:

死神が命を刈り取ると効果発動するもの、命を刈り取る前に効果発動するものとがある。
体と魂が残っていれば体つきで甦れるが、残っていなければどちらかだけの存在として甦る→モンスター化する羽目になる。


・王城強制送還→一部の「勇者一行」となった人々にだけ渡されるアイテム・黄泉がえりの宝珠で生き返れる。ただし「契約」している王城に強制送還される&契約王城に置いている魔力石使用費負担のおまけつき。契約は一箇所としかできない。

・一部の魔族に生き返らせてもらう→人間にとっての人間が魔族、動植物が魔物。魔族によっては軽い感覚でやってくれるが、たいていの場合よみがえらせてくれた魔族の眷属になる必要がある。魔族さえ許してくれれば眷属契約解除も可能なため、西や東ではこの方法をとる人もちらほら。

・特別な力を持つ賢者・大僧侶に生き返らせてもらう→そこまで死体を引きずっていき、なおかつコネさえあればやってもらえる。





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最終更新日  2016.06.15 23:51:10
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