Laub🍃

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2012.08.16
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カテゴリ: .1次メモ
 俺の名はハッポウ。わけあってヤガ・ルージュ(母の旧姓)と名乗り、一人の元同僚を後ろからこっそり追いかけている。
 現在の仲間は怪しげな薬使いとその弟子。もう一人の元同僚は「え…めんどい」って言ってついてきてくれなかった。

 そんな俺達ですが今、緊急事態に直面しています。

「東の海域は俺達の領土だって知ってたか?」
「いえ、知りません。碌なもの持ってないですが命だけはお助けを」

 海賊にカツアゲされています。





「ニース、そっちはどうだ?」
「ああ、食糧くらいしかないな……あとは、君たちの体に着いている宝石くらいかな?」

「そうか、それは可哀そうにな」
「だ、だった、らっ」

 ……丁寧に迅速に毟り取られた。同情の言葉だけを口にしつつ持って行きやがる、容赦がない。

 こうなるから、どこかの派閥になんて付きたくなかったんだ。例えクズと言われようと根無し草ナンパと言われようと、ずっと傭兵稼業だけやってりゃよかった、どっかに肩入れするから義理なんてもんが生じる。
 いや、義理はもう仕方がない。その分得られた安定だってあるしな。……俺は悪くないし選択も間違ってねえ、それもこれも寝返って勇者に着いたハチコと、スパイしに行ったくせにろくに連絡しないナグモに、気付いたら他の勢力に組み込まれて偽の情報発信してやがったモファのせいだ。あいつら全員俺が死んだら呪ってやる。呪ってやる!!!

「……お頭、嵐が近付いてきます!!」
「仕方ないな、今行く。……逃げようと思うなよ。今外に出たら死ぬぞ」

 今がチャンス。そんな声が心の中で聞こえた。
 残念だったな海賊どもよ、俺には加護の力が使えるんだよ。救命ボートにでも乗り込んで加護掛ければ、最悪でも飢える直前にはどっかに着いてくれるだろうよ。こいつらの思い通りになるよりは100倍ましだ。

 そう思って縄を解いたはいいものの。

「どこ行った!?」


 あ゛~…逃げてぇ。だが、逃げる場所がねえ。

 俺はあっさり追い詰められていた。
 ああ、俺のこの横のドアが空けば。走り回った甲斐はあった、多分ここから外に出られるってことが分かったから。……まあ、そのせいで追い詰められているともいうけれど。

「……あの…鍵って…これか?」

 背後に唐突に気配が出現する。



 思わず素で驚く、一応俺も歴戦の兵士なのに。人なんて居たか……?怪しげな眼で見ると、戸惑ったようにそいつは返す。目が慣れてきて、暗い方に居るそいつの姿が見えてくる。

「僕も、囚われてて…西出身なんだが、身内がごたごたしているから亡命したら、この海賊たちにつかまってしまって。……一緒に東の島に行かないか」

 薄茶色の目と髪は女みたいで、けれどその目は確かな生きる為のぎらぎらした光に満たされていた。
 お前のことは助けてやるから代わりに僕を助けて脱出させて、とでも言う顔。
「……」
 見るからにお坊ちゃん。なんか、……足手まといじゃねえ?
「こう見えても僕、鍛練とかしてるので結構強いんだぞ?」
「……途中で別れるっていうのは」
「嫌だ」
 くっそー!!



 結局一緒に逃げることになってしまった俺達。
 最後に追ってきたのは濃い顔の色素の薄い男。

「……っ」
「どうした?」
「…そこそこ、面倒を見てくれていた人だ。だが、今はもう、無関係だ」
 ようやく探し当てた救命ボートに乗り込む俺達。体力のない奴が先で、何故かお坊ちゃんは一番後。

「脱出なんてさせる、かっ」
「……さようなら」

 すがりついてくる白頭の男を、坊ちゃんが蹴り飛ばす。……男の急所を。

「お前…お前……!」
「…一番効率的だからな」
「ああ……羽が生えた超美少年がたくさん見える……」

 そりゃお迎えだ。

「……おいおい、仮にも元々一緒の船に乗ってたんだろ?」
 冷や汗だらだら口元がひきつるのを誤魔化しながら問うと、冷たく返される。
「未練はない。元々身代金目的の誘拐だったんだ、少し離れるのが早くなっただけの話」

 俺もこいつの気に食わないことしたら蹴られそうでぞっとした。
 なんだよ。なんで一介のお坊ちゃんがここまで強いんだよ。

「……これからよろしく頼む」
「はい」

 俺が逆らえないものが一つ増えた。
 女の涙と笑顔、そして、こいつ。

***

一方嵐に巻き込まれながら飲み会なうの
幸運降雨の旅ハチコたち。

名前も名乗っていないのに尻に敷かれているヤガさん。





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最終更新日  2016.06.27 01:27:41
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