Laub🍃

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2012.08.17
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カテゴリ: .1次メモ
「遅い」
「遅いな」

 私の隣に居るのは、尼寺院長のチヅル。私の相方だ。彼女は先ほどから、帰りの遅い我らが王子たちに対し、随分とイライラしている。まあ、彼女の場合大半は心配からくるものなのだろうが。私…ルリネの場合は物事が思い通りに運ばないイライラだ。

「……まあ、アニエスならメイオス様を首に縄着けてでも引きずって来てくれるだろう?もしかしたら魔力切れを起こして、「イカズチ」が使えないでいるのかもしれない、待っていればいずれ現れるだろう」
 そう言ってフォローしたのは、王子…メイオスに空間転移魔法「イカズチ」を教えた張本人、イナヅマ。
「あの子は、あの魔法をまだ使いこなせていない、燃費がとても悪いのだから仕方がない」
「……そうだとしても、だ。連絡がないのが困るな。忘れているのか、魔力がそこまで枯渇しているのか…メイオス様が居ないのはいいのだが、アニエスが居ないと……」

 この国では、男性より女性。そして、魔王子より魔女王の側近のほうが、実権・発言権を持っている。またそれに相応するように、男性への教育は殆ど施されていない。男性、種馬達をいいように操縦する術、女社会でやりあっていく知恵を教えるのが我々「尼寺」の者たちの使命だ。…もっとも、寺を分けた中では美形の男ばかりを集め「楽園」と称する場を作ったり、男にこっそりと教育を施している場もあるようだが。その内に警告をせねばなるまい。

「……やーっ!」


「…………稽古か」
「ああ……」

 寺院の中庭を越え、曇った硝子と這う蔦に囲まれた訓練場を見やる。…もっぱら少女達の訓練場として使われている場所。
 男は「丈夫」だから、盾としての訓練のみをさせているが、女には加えて矛としての訓練を課している。この国を秘密の国で居させる為に、たまにやってくる余所者を排除するためにはそれぐらいやらないといけないのだ。

「……もう、やだ。俺にはどうせ力なんてないんだ」
「こら!双子のコガレは頑張っているんだぞ、お前は…」
「いいんです、先生」
「庇うなよコガレ!余計に惨めになる。……こんなことなら、俺なんて男に生まれてりゃよかったんだ。そしたら最初っから何の期待もされずに」
「なんてことを言うんだコグレ…!」

 ……だからこそ、現れてしまうのだ。あんな異端児が。

「反乱分子ではないのか、あれは」

「……いや、大丈夫だって。もしあの子が本当に男に性転換でもしたら、あたしが囲うよ」
「冗談でもやめてくれ」
「はいはい」

 ……チヅルは、優しい。男のレジスタンス軍団に、昔傷付けられた過去があるとしても。
 だからこそ私はそんなチヅルを守りたい。守らなくてはならないのだ。


「……メイオスだって、小さい頃は可愛かっただろう?」
「無神経だったとも言うだろう?……お前は、可愛がっていたようだったが…」
「まあな。同じ本を手に取ったら、男だろうと女だろうと関係ないさ」
「…お前は全く」

 彼女の焼け爛れた顔左半分が、本当に懐かしそうに嬉しげに笑うので、今日も私は彼女に絆されてしまうのだ。


***


・チヅル→尼寺(本拠地)院長。顔の左半分がレジスタンスの男によって焼かれている。口調は荒いが優しい。
     メイオスとはじめに「ともだち」になった。
・ルリネ→尼寺副院長。眼鏡委員長気質。ビジネスライクな態度が板についているが、幼馴染のチヅルの前ではそれが崩れる。チヅルを守りたい。
・イナヅマ→メイオスに空間転移魔法「イカズチ」を教えたが、しょっちゅう迷子になられるので教えたことを後悔している。最近やっと安定してきた為魔王会合への利用を許可したが……。
・コガレ→ロリ。優しくおっとりしている。双子の妹。
・コグレ→ロリ。反抗的で自虐的。双子の姉。






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最終更新日  2016.06.18 21:56:52
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