Laub🍃

Laub🍃

2012.09.10
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カテゴリ: ◎2次裏漫

 そんな僕は、それでもあの子の背中だけはいつも必死に追ってきた。
 その為なら何にでも食らいつけた。地を走り崖を登り辞書に目を通して。あるいはあの子を目と耳で追って、そうして一緒に難敵をクリアしてきたんだ。
 だけど体力がなくて息を切らせているものだからあの子には心配ばかりされていた。世話を焼かれてばかりいた。切羽詰まってるあの子のフォローも、ろくにできないままだった。…あいつと違って。

 あの子の目が、ぎらぎらと光る時は少しぞくりとしたけれど何かが胸に刺さるような気もした。

 僕があの子を追いかけたのはずっと一緒だったからというだけじゃない。
 そしてあの子が凄いということでもない。何よりもその凄さを支えるひたむきさの中に放っておけない危うさがあったからだ。
 その弱い所を僕には見せてくれていたんだ。先生の悪口をぼそりとこぼすような内緒話から始まって、キャンプの時交代で眠ったり、忘れてる所欠けていた注意を補ったりする、ハリネズミのお腹同士のような関係だった。
 小さい頃から信じていた。あの子を一番間近で支えるのも、あの子が弱った時に真っ先に駆け寄るのも、あの子が怒った時に宥めるのも、あの子の眠りを守るのも、僕の筈だと。

 その幼い握りあう手さえ守られていれば他は別によかったんだ。

 金魚のフンと馬鹿にされてようと他人におまけ扱いされてようと先生にできそこない扱いされていようと、僕の世界の一番星が、きらきらぎらぎらと光るあの子が僕を一番だと認めている限り、それでよかった。僕の世界にあの子しか居なくても、あの子の世界に僕しか居ないのならそれで。
 うっかり追い越してしまった時にあの子がむっとした顔をしていても、ビレイヤーをさせてくれなくても、それが僕の立ち位置なんだからと思えた。

 あの子の我儘や傲慢と紙一重の命令ごっこも指図ごっこも全部僕と二人の世界で行われているものだったから、それが守られている限りそれでよかったんだ。

 なのにあの子はその世界から出て行ってしまった。
 いつの間にか僕の知るあの子でなくなった。
 いつの間にか僕の知らない所に行っていた。
 いつの間にか僕のろくに知らない相手とよく話すようになっていた。

 あの子が先に世界を壊した。

 僕にとっての世界の殻は、僕にとっての生きる理由だったのに。

 それが壊されてからはあの子だけが外に続く穴に顔を出していた。
 綺麗な殻の中から汚い外へ年々、乗り出していった。
 段々顔つきが変わっていくあの子を僕は引き留める事も出来なかった。
 僕が追いかけても何も出来ないと分かっていたし、あの時のあの子は「僕と一緒に居られる」昔からのあの子と同じだとは思えなかったから。
 別人みたいに殺気立って外の世界を呪って、誰かが居なくなっても死んでも絶対に涙を流さない。
 だから、僕には無理だと思った。あの子の行く先で人を殺さないといけないのなら、僕は行けないと思うと言った。

 あの子の隣に居るのは僕じゃなくて、あいつになったけど、それでよかった。

 そのままだったら、僕はもしかしたら別々に生きていけていたのかもしれない。
 外の世界だったら、僕らはもしかして別々に生きていったのかもしれなかった。

 なのにあの子はやっぱりあの子で、この世界はやっぱり容赦がなくて協力を強要してきて。
 2年ぶりに一緒に行動するようになったあの子は大人びてはいたけどやっぱり昔どおりで。
 昔のようにことあるごとに僕を危ない時に助けてくれて、悔しかったけど、恥ずかしかったけど、少し怖くて圧力が嫌だったけど、それでも僕はあの子をまた助けることが出来るのかもしれないとも思った。あいつとは別の行動だったから。

 なのにやっぱり僕はあの子に頼りにされてなくて、指先が痛くて、ありがとうと僕は言われることがなくて、僕はごめんと言ってばかりで、一緒に来なければ良かったと思うのにまた一緒に話せて嬉しいとも思ってしまった。

 だから友人の死を間近で見た時、確かに哀しいと思ったけど少し羨ましかった。
 僕が死んだ時あの子はあんな風に哀しんでくれるだろうかとちらりと考えた。

 他の友人が無惨に殺されていた事を知った時も、先生達は酷いと思った。

 けれど、それをあの子はあいつだけにはその惨劇についても、あの子がその泥の中に突き落とされたことについても打ち明けたのだということが他の全てを焼き尽くすくらいに許せなかった。

 ああ、なるほど、だから、道理で。

「お前とは一緒に受かりたい」

 じゃあ僕は。

 僕は何さ。

 君にとっての、何さ。

 一心同体とでもいうつもり?

 大事な事を言う気がないくせに。そんなの光と影ですらない。
 せいぜい、選ばれしヒーローと、ヒーローにお情けで助けられる一般人だろ。

 もう何もかもが嫌だった。
 縋りつくつもりで僕は君にとっての何なんだと叫んだけれど、碌にあの子は答えてくれなかった。

 そういう場面じゃないと言われた。独占欲をむき出しにする場面ではないってこと、自分でもわかっていた。生き残る為に協力する場面なんだと。
 だけどずっと我慢してきたんだから、ここで切れなかったらずっと、ずっと言えない気がした。
 後悔する気がした。
 その想いだって汚い。分かっている。
 あの子の『言ってはいけない』は人の為のものだ。けれど僕の『言ってはいけない』はあの子に負担を掛けたくないという想いもあったし、あの子が僕に言うまで待とうという期待だってあったけれど、それは結局は僕があの子にうざったいと思われない為のものだった。
 それを僕は自分で壊した。

 犬のように従い続けていたら鬱憤は溜まっていなかったのだろうか。
 いつもの関係を当たり前のこととして認識できていたら、そこから踏み出さなければよかったのだろうか。一人目覚めると当たり前だけど目の前にあの子が居ないことを再認識する。
 あの子が持ってきてくれた服を着てあの子が持ってきてくれたテントに籠ってあの子が持ってきてくれた毛布にくるまってあの子に救われた命でもって今僕はこうして考えているというのに、あの子が居ないと生きていけないことは分かっているのに、僕はあの子を拒絶した。

 僕があの子と互いに助け合えていることが僕の理想だった。

 けれどあの子は優秀で僕は叶わない、いつも応援する側だった。

 そんなあの子に認められている、伸ばせば伸びると思われている事が嬉しかったのに、手を伸ばせばとってくれる優しさとその絆が愛おしかったのに、子供の頃の関係のままでは満足できなくなってしまった。
 僕の応援が何よりあの子を励ましている時はそのままでもよかったけれど、あの子に時期にそれは届かなくなってしまった。
 あの子は僕の世界の裏側をとうに知っていたからそれどころじゃなかったんだ。
 あいつは違うのに。あいつは君の隣に居るのに、互いに見合っているのに、僕はいつもその背中を見るだけで、呼んで君が振り返ってくれるのを待つばかりで立ち止まって君が手を差し伸べてくれるのをただ享受するだけで。

 情けなかった。

 いっそ本当の主従や兄弟姉妹だったら割り切れたのに、半端に対等扱いされてるからこそやりきれなかった。
 何かことあるごとに恩返しとして世話を焼き返しても、あっという間にそのストックは尽きる。あの子は十分だと言っているけれど、僕にはそうは思えない。あの子の兄姉や親のような支配欲に呼応するだけではなくて僕が支配をし返したいと言う意志なのかもしれない、これは。
 世話を焼く事で僕の方向を決めるあの子。尽くすことですくいあげきれないキーワードを渡す僕。どちらも独占に支配、生殺与奪の権限を握ってることには違いないんだろう。だけど、僕はそれを実感する機会が欲しかった。

 だから。

 僕を探して死にそうな声が響いている時、つい顔を出してしまった。



 僕の罪は何だろう。

 嫉妬したことか、

 黙っていたことか、

 独りでいたことか、

 それともあの子にとっての敵を見抜けなかったことか。


 もし生まれ変われるのなら、また一緒に笑って、そして馬鹿なことで協力したいな。
 誰かに頼る君を、素直に自分なりの方法で支えられる人になりたい。
 勇気がなくても、君が沈んでいる時にこそ声をかけたい。
 独りにならないで、独りにさせない。

 他はどんなに駄目でも構わないから、この記憶だって手放して構わないから、君を救える人になれますように。





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最終更新日  2017.04.04 01:55:28
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