Laub🍃

Laub🍃

2012.09.25
XML
カテゴリ: .1次メモ
「…その小計、小さすぎやしまへん?」

 元盗賊サルビア・レッグスは律儀である。

 --と、思われている。
 しかし彼女の9割がたは打算で構成されている。贋金の比率とまるで同じだ。

 彼女はこれまで誰かの為に自分の身を削ったことなどない。誰かの為に尽くす事が自分の身を守ることに繋がる場合だけだ。事実彼女は相手が嫌な思いをするであろうと分かっていても、その相手が他人であると認識すれば割り切ってしまう癖があった。故に彼女は誰をも愛さず誰にも愛されない生活が続いていた。しかし彼女はその冷たさが心地よかった。差し伸べる手はないが、誰かに縋り付かれ泥沼に嵌る事もない。周りは他人だらけ。

「お前、みみっちいなあ。本心から善人になって、善人として全ての責任を負って行動したほうがずっとましやろうに。そんな辛気臭い顔朝から見たくないねん」
「……確かにたまに死にたくはなりますよ、うちはうちが一番大事やから、そのうちがみっともない姿になっとったら許せへんのは当然でっしゃろ?……でもなぁ、善人ほどうちはまめでもないから誘惑に流されてまうんですよ…」
「その結果がお前の今の腹やろうが」

 金勘定は正確に。盗賊団として行動するとき、また盗んでも「許される」相手から盗むとき以外の彼女は徹底していた。そしてそうやって自分に誇れる、自分を見た誰かが自分に憧れるような生き方を彼女は望んでいた。その距離感が近過ぎると鬱陶しかったけれど。


 しかし起こってしまったのは仕方がない。

 せっかくの東への観光旅行としてグルメマップも作成していたがこれは当分ダイエットご褒美マップと化すだろう。その内のひとつ、「イワモルミズ」にて出会った細身の女性を思い出す。彼女は食べても食べても太らなかった。サルビアにとっては羨ましい限りである。東の重鎮の顔を思い出す。ルリネ。大寺院の副院長を勤める彼女は病的な程に細く白かったが、その銃弾のような言動は明らかに訓練された軍人のそれだった。彼女のように行動していれば少しは痩せられるだろうか。

「しゃーない、西の死事に戻りますわぁ。ほんでもっとたま~にこっちにテレポしますわ」
「そうやって制限しても一回の甘味で食う量が増えるだけやったら同じやぞ」

 いちいち魔王は水を刺すが、事実彼はサルビアの肥大した体に圧倒されていた。何をどこまで気を緩めたらこうなるのか。幼児退行した部分は勿論、その奥に眠る精神年齢400歳もまたこんな女見たことがないと怯えていた。彼女はうまくやっているのではない、後先をある程度は考えているが事実彼女が常に自分の生き方に納得していると思っているのは半数以上は開き直りによる自己暗示、「これでいいのだ」だからである。
 これではじきに太っていることさえ自己正当化するのではないか。じとりとねめあげても部下はにへらと笑うばかり。この笑顔に毒気を抜かれる人も居るのだろうが、魔王はそうではない、焦りが募るだけだ。
 確かに面白半分で彼女を部下にしたのは自分だが、隣の芝は青く、敵の部下は面白く見えるものだ。

 仕方がない、ある程度は自分が育てるしかあるまい。
 普段はサルビアに思われている「自分がしっかりしなければ」を、魔王タイダルは今サルビアに対して思っていた。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2016.07.11 12:59:11
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: