Laub🍃

Laub🍃

2012.09.26
XML
カテゴリ: .1次メモ
「とうぞくだんはきえるべきだ」

 幼い頃の俺の記憶。
 背後で起きた爆音の余韻がなくなっても、その憎しみは消えない。

 あんなものがある世界は、おかしい。

 弟のように、盗賊団は皆死ねとまでは言わない。廃業してまともな暮らしをしてほしいだけだ。

 馬車の待合宿に、盛り場に盗賊団への加入を呼びかける張り紙をみるたびに破り捨てたい衝動に駆られるだけだ。

 盗賊団があるゆえに生計を立てていられる人も居るだろうとは思う。彼らの中にも盗賊団であるという一点以外は非常に優れた人々であるという場合もある。盗賊団という副稼業が息抜きになっているという人たちもいるのだろう。

 俺の師の一人がそうだった。とても優しい顔で毒を垂れ流す。彼の場合は殆ど同業者に危害を与えるのみだったけれど、それでもその直後に会った時に返り血がついているのがたまらなくやるせなかった。
 彼でさえ、その欲からは逃れられないのかと。


 俺は彼らとすれ違うことさえ避けたい。奴らの周囲に流れる空気が生理的に無理だし、通りざまにあちこちに傷跡を残していきながらもかけらも罪悪感を覚えていないやからを見ると殺意さえ湧いてくる。傷が癒えても殺意は消えることなく積もり積もっていく。

 だから、俺は逆に敵を知ることにした。

 少しでも奴らを隔離する方法を、少しでも奴らの絶対数を減らす方法を。


「ごほっごほっ」


 俺の将来の夢。幼い頃は10あったそれは今や随分と減っていたが、最近珍しく、夢がまた加わった。

 地下都市をつくる「開拓者」に、なりたい。そしてそこに盗賊団を移住させるのだ。
 盗賊団のもたらす被害を全て、そこで完結させる。他の民には一切傷をつけない世界を作るのだ。

 そのためには、盗賊団の生態を知らねばなるまい。
 状況によって、また個々のたちの悪さは為政者にすら逆らう、あるいは為政者すら巻き込んで国全土に危害をまき散らすような盗賊団をそこにおびき寄せる為に。

 俺は燻される虫かもしれない。
 だが、根城に集まり、勢力を増せばそこからはみ出してさえくる奴らだって虫だろう。


「……何故あなたは盗賊団に、げほっ、はいっ、ごほっ」
「…………無理するなよ。お前さん、このクスリが苦手なんだろう?」

 奴らが頻繁に服用する、精神を落ち着かせるための『クスリ』。ずっと盗賊団を避けて暮らしていた俺にとっては、それだけで燻された虫の気分になるもので。

「……いえ。俺は、俺みたいな盗賊団が苦手な人間と、盗賊団の無用な衝突を無くしたいのです」

 そう言うと師は微笑む。


「……っそうですが、この調査を経て、この調査を生かした『開拓』を経て、一人前とはいかないまでも、三人前くらいにはなるつもりです」
「いいねぇ。野心が多いのは、いいことだ」

 しかし、師の横から茶々が入る。

「お前、盗賊団や盗賊団とつるむ奴を人扱いしていないだろう」
「っ……盗賊団としての活動をしている時、だけですよ。」

段々と、息を吸うコツがつかめてきた。この臭いに慣れてこの臭いに安住するような人間にはなりたくないが。

「はは、素直だな」

師が笑う。その顔は笑っているものの、次に何と言われるのかが予測できない。

「……すみません。ですが師も、いえ、師ならば、盗賊団としての自身について、少し思う事があったのではありませんか」

 だから、その前に、攻める。





【続】





ユクエは…の『盗賊団』について。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2015.07.26 23:35:38
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: