Laub🍃

Laub🍃

2013.04.15
XML
カテゴリ: .1次メモ
 我慢して、我慢して。我慢しきれなくなったら忘れてしまおう。

 大好きだったものがあった。けれど我慢しなければいけない時がとても長かった。
 だから忘れた。

 指を噛んでその肉の感触に満足して誰かを傷付けていることによる充足感を得てそれでも誰も自分のほかには傷付けていないのだからと無駄な罪悪感を抱くことも無くそうすることで忘れることができた。

 世界に参加しなければすぐに忘れられる。うざったいしがらみも何もない。
 少しの寂しさならばすぐに忘れられる。うざったい後悔も何もない。

 大事なものも、プライドも、求めていた夢も全て忘れて、新しいものに目移りして。
 空っぽな私が増えていく。

 だから代わりに食べた。何もかも何も考えずに吸収していけば、その吸収する瞬間だけは幸せになれるから。

 食べ物を、他人の力を、他人の夢を、全て貪欲に吸収し続けた。
 食べた後には何も残らなかった。骨の髄までしゃぶりつくしたら私に文句を言うものもなにもない。
 食べてしまった後悔も目の前に実物がなければすぐに忘れられる。

 脳とはそういうものなのだ。

 けれど腹はじきに一杯になる。はち切れる程食べた後に残るのは虚しさだけだった。
 そんな私の前に広がるのは荒廃した世界。私が食べつくした後の何もない世界。
 私は何も生み出すことができないのだ。

 親の脛を齧る者と何の違いがあるのだろう。こんな卑小な図体だけが大きな自分に価値など。

「ならば、『おいしいもの』のある所に連れて行ってあげましょうか」
「え」
 小さな少女がそこに居た。



 黒い猫の仮面をかぶった小さな少女。

「むしろ、放っておくと他の物を食い荒らしてしまうのです。あなたのように『悪食』ならば、それを食べて抑えることなど造作もないでしょう」
「はは、同類狩りってやつか」


 ああ、でも一度味見してみたいものだ。
 味見で済むかどうかは分からないけれど。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2015.07.23 22:53:28
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: