Laub🍃

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2014.09.06
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カテゴリ: 🔗少プリ


「安田か」
廊下で突然呼びかけてきた安田。何の用事で呼びかけてきたのかは知らないが、生憎僕には可及的速やかに向かわねばならない場所がある。焦燥を隠しもせず安田に問う。
「用件は何だ?今は急用が入っているから後回しにすることになるが」
「いや、大したことではないが……それは劇の小道具か」
何かと思ったらそのことか。
神妙に問う安田はいつもの厳格な冷静な担任ではない、好奇心をくすぐられた一人の人間だ。
数か月前、図書室前で鉢合わせした時のことを思い出す。
「こんなものが小道具に使われてはたまらない、もしそれを提案してきた人間が居たら僕はその人間の品性を疑う」


「雑用のような仕事だが、僕以外に適任者が居ないのだから仕方がない……没収品の返却用具だ」

本当に面倒なことこの上ない、責任だけが大きな仕事だ。




















「没収物の返却をする」
空き教室で待つこと十数分、やっと荷物抱えて入ってきた鍵屋崎の第一声が響く。
僕達を呼び出しておいて待たせるなんてと思ったけど、時間通りに来なきゃ返さないって脅してくるんだから仕方がない。
「待ってました!」
「おっしゃー!」
僕をはじめとしたノリのいい面子の上げる歓声の大きさにも動じることなく鍵屋崎は淡々と続ける。
「返却するとは言っても、全てではない。以前にも言っておいたが、総数は君達が赤点を回避した分だけだ。

薬帰ってくるかな?流石に無理か、確実に捨てられてるか誰かの懐に入ってる。
何を没収されていたか思い出せばキリがないけど、せめてこの間のアレとか先月のアレは帰ってきてくれないかなとか思っていたら手の上に置かれたそれ。
……日に透かして見ても両手で包んでみてもそれは幻覚なんかじゃなく、鍵屋崎を見上げても冗談を言っている様子なんかじゃないのは丸分かり。

「……ねえ」
「反論は受け付けない」



「いやいやいや、飴玉3つってふざけてんの?ねえ」

噛みつくように言う、物凄くうざったそうな顔をされるけど怯んでられない。
手の平の中にやすやすと収まるそれは確か7月の持ち物検査で没収された飴玉。
先生にもよるけど一番厳しい水準のタジマに取られたソレはぶっちゃけ今の今まで存在を忘れてた。
だってのにわざわざこれをチョイスする鍵屋崎だか担当教師だかに悪意しか感じない。

「3つは3つだろう。因みに交換と逆指定は受け付けないからな、もしも残っている物の中でどうにかして取り返したい物があるのならば次の試験で努力しろ」
「ちょっ」
「次はロンだ。漫画本だったな」

反論の隙もなく鍵屋崎が目の前から消える。やり場の無い気持ちをどうにも出来ず、取り敢えず胸糞悪い気持ちを抑えるべく飴玉を口の中に放り込む。まずそうで敬遠していたドリアン味が意外とうまいというどうでもいいことを知る。ころころと口の中で転がしながら鍵屋崎をにらんでみるけど、お構いなしで隣のロンに話しかけている。

「頑張ったな、丁度君が没収されていた分だ」
「……謝々」

ロンが受け取ってのは漫画本。ぼくらのとか書いてあるそれの表紙には鍵屋崎と似た眼鏡が居る。

「礼は要らない、単にそれは君が努力した分に相当する対価だ。次からは没収されそうなものは持ってくるな。あるいは見付からないようにするかヨンイルに預けておけ」

ロンが嬉しそうな顔をしつつも神妙に頷く。ヨンイルがいつのまにか持ち物検査を躱してるってのは有名だ。それが持ち前の口のうまさによる交渉のおかげなのか喧嘩の強さのおかげなのかは知らないが全く羨ましい話だ。

「次は、元から赤点を取っていないがサムライ、君の分だ」

鍵屋崎が几帳面に整理された箱の中から取り出す。やたら大きい箱を持ってきたと思ったけど、おそらくこのせいだろう。

「……木刀か」

持ち主の手に戻った木刀は気のせいか再び生き生きしはじめたような気がする。
同時に剣を手にした武士、その安心感とそこはかとない緊張感が辺りを包む。
まあ、剣を持っていなくてもお箸無双があるといえばあるんだけど。

「次は……レイジ、君だ」
「……何で俺のだけ箱ごと?」

鍵屋崎が出来る限りその箱を自分の体から遠ざけようとする。対するレイジは困惑しつつもその中身に思い当たることがあるらしく、その笑顔は若干引き攣っている。

「僕が素手で触りたくない。見ただけで不快になる。風紀を乱す。以上だ。ビニール越しにどことなくシルエットが窺えるだろう、だからここで取り出すんじゃない、それがこの空間にあるだけで不快だからただちにそれをしまえ、そして持ち帰れ」
「何だそれ」
なんにもわかってなさそうだけど嫌な予感だけは察知したのだろうロン。訊かれた二人が微妙な顔になる。

「ロン、君は見ない方がいい。君はまだ若い、情操教育に影響する。レイジに似たくなければやめておくことを薦める」
「キーストアそれひどくね?」
「異論はあるか。無いなら迅速に帰れ」
「ねーよ、ねーけどさ…」
「おい帰るぞ」

まだぶつぶつ言ってる王様を飼い猫が連れて帰る。一体中身は何だろう。まあ大体想像はつくけど。

「次は……ビバリー、君のものだ」
「何それ、ラジオ?」

四角い灰色のそれは以前に見たものとは違っていたけれど、音を出す所やアンテナに既視感を覚える。

「はい。ちょっと技術部に持っていこうと思ってたんスけど、没収されちゃってたんです」
「ふーん」
笑って答えるビバリーに少し違和感を覚えつつ、取り敢えず納得。

「では次は……ああ、もう終わった生徒は帰っていい」
「はいはい」
つっけんどんに言い放つ鍵屋崎にまた反感が募るけど、ビバリーが何か意味ありげな目配せを送ってきたのでついていく。
……どうも、ただ帰るというわけではなさそうだ。










「ビバリー、あれ何なのさ?」
誰も居ない廊下の端っこで聞いた次の瞬間、ビバリーがニヤリと悪ガキの笑みを浮かべる。
「ふっふっふ……実は、置き場所が分かる器具を仕込んであったりします」
「……と、いうことは」
つまり、僕の都合の良い想像が当たっているなら……
「そう…僕のまだ没収されたままの計器、リョウさんの[ピー]とか[ピー]とかを取りに行けるというわけです。」
「!!!」
目を見開くとビバリーがにかりと歯を見せて笑う。
「つきましてはリョウさん、アンタの鍵開けの力を貸してもらっても」
「勿論全面協力するよ!うわああビバリー大好き!まじgoodjobだよ君!」
本当によくやった。これまで、持ち物返却はクソ真面目で「没収されるのが分かりきっている物を何故学校に持ってくるんだ?はなはだ理解に欠ける」とか素で言っちゃうような優等生鍵屋崎に任されていたから。取ったことがばれないようにするには、似たような物とかハリボテとか置いとけばいいだろう。










「……」
「………」
「ビバリーどうにかしてよ、僕達の力があればどうにかできるって言ったじゃない」
「職員室の中じゃないっスか!」
「敵の本拠地に滑り込むのってワクワクしない?」
暫し無言、何事かを振り切るように首を振るビバリー。
「…………いやいや、やっぱ危ないですって!」
だけどそう言いつつも、さっき目がちょっときらりと光ってたのを僕は見逃さなかった。
ハッカーの本能だかプライドだか、プラス僕をほっとけないお人好しに賭けて、じっと見つめる。


「……今回だけっすよ」
折れた。

「はーい!」
お行儀よくお返事。仕方ないなんて顔をしつつも付き合ってくれるビバリーは何だかんだノリが良い。たぶんばれたらもっと警戒濃くなると思うけど、今回はそんなのに構って居られない。お客様を待たせている商品を取りに行かなくちゃいけないんだから。

「じゃあ、まずは……」
どうやって先生達を誘導しよっか。













この後問題を起こして先生全員そっちに集中とか職員室に自分の顧客オンリーにするとか職員室に煙幕張って疑似4章とか。






・ロン:漫画本
・リョウ:お菓子、薬(直ちゃんが渡すかどうか迷う)
・レイジ:大人のオモチャ
・ビバリー:なんかよく分からないメカ
・サムライ:木刀。問題が起こる度いちゃもんをつけて没収される。
  「お前帯刀やめろよ、それさえやめれば模範生なのに」
  「俺にこの名と刀を捨てることは出来ん」
・直「学校の理不尽な規則、尊敬に値しない教師陣に従うのは不本意だが僕達はそれに抗う術を殆ど持たない。効率重視で考えれば『持っていかない』これが最善であることは自明の理だ」







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最終更新日  2014.09.06 08:24:26 コメントを書く
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