Laub🍃

Laub🍃

2014.10.28
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カテゴリ: 🔗少プリ
















 動画を見始めてから数分。
たったの数分だけど、既に堪忍袋の緒が擦り切れ始めてる。その主な原因、レイジとロンの人影が映るスマホを見詰めてもそれは数分前と同じような音を発し続けている。動画から会話や笑い声が聞こえてくるのはいい、全然ホラーっぽくないのは別に構わない、けどそれ以上にどこの低予算青春ドラマだよってくらいひっかかるノイズだのどことなく空々しい笑い声だのがうざったくて仕方がない。しかもどんどん酷くなってくる画面のノイズのせいでレイジとロンが立ち止まっているのか歩いているのかすら分からないし歩いてるんだとしたらもうとっくに外に着いてもいい頃だっていうのに、動画の中の二人は未だに真っ暗な中でいちゃいちゃしてるし……
 ああもう、このスマホ地面に叩き付けたい。


「……いつまで笑ってんのさレイジ」
「まあ仕方ねっスよ、レイジさんですから」

レイジの笑い声が雨の後の蛙かよってくらいトンネルの壁に反響しまくってて気に障る。
まったくロンに会えたからってはしゃぎすぎだっつーの。

眉を下げたビバリーが困り顔で首を傾げるのが視界の端に映る。













切る
切らない





























→切らない


「んー、まあ確かに鍵屋崎に見付かったら面倒だけど……」

指を動かす気は全く起こらない。好奇心、ついでに鍵屋崎への反発。
あとはここまでイライラしながら見たんだから、ここでやめたら勿体ないっていうギャンブル中毒みたいな気持ち。

「どうせだから最後まで見ちゃおうよ。レイジに返したらその後見せてもらえないかもしれないしさー」
「それはそうですけど、こんな笑い声ずっと聞いてても仕方ねっスよ……て、言ったそばから」
「……ん?」

音の暴力と呼んでもいいようなレイジの笑い声は、ロンのちょっと暴力的な突っ込みによって中断させられた。
ぼやきはじめた途端に切り替わるって、タイミングが良すぎて微妙に気持ち悪い。けど、まあ好都合だ。さっきまで帰る気満々だったビバリーは、微笑ましげに動画の中の掛け合いを見ている。


『大丈夫だって、ゆっくり行こうぜ?せっかく合流したんだし』
『お前と一緒だと違う意味で身の危険を感じるんだよ』
『ひっでえ』

 目の前で繰り広げられている掛け合いは、微笑ましい反面、まだ油断できないような空気が漂っていて……危険に気づかないでいちゃいちゃしてるホラー映画のカップルを思い出させる。

『……そうだ、そんな暗さが気になるなら、気をまぎらわす為にトンネルにまつわる噂でも話すか?』


唐突にレイジが言い出す。別に怖くないと言いつつも、やたら早めに通り抜けようとしていたロンが食いつく。やっぱ怖がってんじゃん。

『そう、たとえば…

……あ、やっぱいいや』
『は?』

『いや、いいって。やっぱやめとく、この間出された課題の話でもしようぜ』
『例えばなんだよ、言えよ。露骨なんだよ話の逸らし方が!いつもは課題なんて忘れ去ってんじゃねーか!!』
『いや、だってお前怖がるんじゃねーかって』

『平気だっつーの!馬鹿にすんじゃねえ』

ロンの怒ったような声。あーあ、本当にこういうのに乗せられやすいよね。
「ホラー映画だとこういう展開って、大抵直後に噂のヌシが襲ってくるんじゃなかったっけ」
「やめてください」
小声で呟くとビバリーが押し殺した悲鳴みたいな声を出す。
自分よりオーバーに怖がってる人が居ると怖くなくなってくるの法則、これまであった得体のしれない不安はどこへやら。もっとからかいたくなるけど、それで逆に落ち着いちゃったら面白くないのでやめておく。

『じゃあ話すぞ』

丁度、話も始まったことだし。









その後話されたのは、本当におかしな話だった。
どっかで見たような、けれど、どこにもないような。

レイジのふざけたような口調では、いまいち怪談みたいな印象は与えられない。
ロンも半信半疑で、びびっているというよりはちょっと薄気味悪いぐらいの態度で聞いている。

『で、地獄からはい出てきたみたいな――赤い、妙にひょろ長い奴が、そいつらに話しかけて――』

「……ワケわかりませんね」
「大人しく聞こうよビバリー。こういうのは雰囲気が大事なんだから」
「敢えて壊してるんですよ!僕はもうそれを楽しめる気力じゃねっス」



 真っ赤なお話とは対極的に未だに画像は暗い灰色、床のまま。たまに濃いシミが目に付く、それだけ。

 噂という無責任で無機質な話、無機質で無感情なトンネル、吸い込まれそうないつ果てるとも知れない……


『連れ』



突如一人語りを途切れさせたのは着信音だった。





やたらと甲高い音は主が居ないというのにその役割を果たし続ける。一体何だって言うんだ、動画の途中だってのに。いつのまにか随分とのめり込んでいたみたいで、地に足がついていることを今更実感する。頭から冷たい何かが降りてくるような、そんな自我を取り戻した感覚にぎゅっと手を握り締めると、ビバリーが僕を落ち着けるように喋り出す。

「リョウさん、大丈夫っスか?」
「……平気だって。ビバリーこそ、声震えてんじゃん」
「だって、もしかしたら、カーギーさんやヨンイルさんかもしれませんけど、こういうのってホラー映画じゃ大体とっちゃいけないパターンっスよ」

そう。
電話をかけてきたのが、あいつらなら万々歳だ。なんならレイジの愛人だろうと怪しい仕事仲間だろうと構わない。
鍵屋崎の叱り声だって、いつもなら耳に指をずっぽり咥え込ませるところだけど今に限っては大歓迎だ。


……だけど、もしそうじゃなかったら?




そうじゃなかったら、僕達はどうなるのだろう。







電話に出る
   出ない





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最終更新日  2014.10.29 01:01:03
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