Laub🍃

Laub🍃

2017.02.04
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カテゴリ: ●少年漫画
ヤクザVSおばけ。
殺した者と殺された者はホテルの中で共存する。

そんな中、読者は当初通行人のように猫の皮を被って登場した人達の沼にも填まり込んでいく。
その一番の理由としては、例えば子供同士の繋がりとか例えば昔あった事と現在の関係性のギャップとかふわふわと漂うあの人たちが目にしたちょっとしたフラグとか、
「皮」「表にある比較的綺麗な世界」「中身は治っているのに傷跡は残る」ものと、詰まった
「糞」「裏にある歪な血と泥の世界」「外側は綺麗なのに中身はずれてる」ものを繋げる、
おぞましくて健気な赤い糸に魅せられたからなんじゃないかと思う。


外見は綺麗なのに殺象剤を盛られたケーキはきっとその体現。

そして、ずるいずるいチラ見せの本性、くさいくさいズル剥けの本性はどちらかが欠けては存在できない。



 個人的には人の命を虫けらのように踏みつぶしてきた殺し屋が同じように踏みつぶされていく様が、それでもいいと笑うような殺し屋達の覚悟が大人のように強く、子供のように純粋でまっすぐで、とても好き。殺し屋ではなくとも、心を殺す彼女達の売るそれが煙になって昇っていくさまはトーンもないのに真っ青な空を連想させる。殺す者の流儀。

 紙一枚に書けるようなぺらりとした契約や誓いが、愛憎も運命も血の絆をも縛っている。

 そして、救いのない世界の一番の救いが、何名もが「幽霊」になってホテルの中で動き続けられるということ。死んだ後もう何も怖くない状態になるのがとても面白い。いわば皮に包まれた臓物に包まれた更に中身。感情の剥きだし状態。

 そんな彼らが「やめなさい」と生者に狂った世界でする説教は綺麗で生々しい。

 「楽しく気持ちよく人を殺すもの」で繋がった数学者とデスクワークのカップルの絆に、なんだかんだで殺してきたやつの関係者にネチネチ怒ってる数学者もいい。
 死んだ後に初めて一服する委員長気質の子も可愛いし、「もう居ないし」の後の閃きも好き。
 惚れた女に殺されて、自分に惚れてくれた女に最期の警告をする彼も好き。短気なお姉さんそれまでそんな好きじゃなかったんだけどこの時好きになった。

 だからこそ一番成仏を嫌がる幽霊(裏社会下っ端系)達と、幽霊に仲良しが居る存在が「先に行くなよ」「行かないでくれ!」って言って最上級のある意味一番怖い(※神除く)存在に頼るっていうのがとても可愛かった。
 そして成仏しない作戦がとてつもなく可愛くて萌えた。にんじん齧ってポルターガイストるベジータとナッパ達可愛すぎるんだよなあ。特に今まで生きてきたこと、昔の仕事や趣味を生かして漫画家さんの直面した問題を解決するところとかシュール可愛い。

 そしてまた、糞みたいなグロテスクで悲劇的でどうしようもない世界や臓物や糞そのものを曝け出している癖して、肝心な所は秘めて守るっていう変態紳士っぷりがまた良い。

 鍵がかかっているのを確認して「おめでとう」っていうのほんと好き。



 一皮剥けば人間の中身や人を興奮させるものや絶望させるものや憎悪させるものやおぞましいものがあるというのを察させながらそれは敢えて塗りつぶしておくっていうのは、読者への流儀なんだろうなと思う。

 主人公のシャツの中身しかり、ヒロインの右目しかり、彼女達の正体しかり、彼達の正体しかり。これは中身の物語だけど、
「皮」の物語でもあると思う。

同じものを背負った「兄」と「弟」の絆のように。

皮を被った時にやっと本当の事を言えた姉妹の絆のように。



皮を被っては、それが剥がれていく時にぼろぼろと泣く彼女やそんな彼女に寄り添う彼のように。

彼女の隣で少しずつ良くなっていく彼の、ラストシーンの姿のように。

皮があるからこそ覚えている杭になる顔の傷のように。

主という肩書に拘る黒猫のように。

反対になった腕のように。

ずっと無表情で過ごした彼女のように。

腐った麦に包まれ、ある男をも包み込んでいた木の落とし穴のついた箱のように。

吐血の果てにある世界を「案外良いもの」と語り合う「友だち」同士の関係のように。

中身が曝け出されていないからこそ起こった悲劇も、中身が曝け出された時に「時間を戻す」並みに困難なことを悪魔に頼んだ声も、様々な事を軽く捉えて居そうな後輩悪魔が唯一先輩に見られたがらず恥ずかしがる体のあの部分を覆うものも、上っ面を滑るように食いつきのいい話を集めてきた箱も、付属物としては結局少年にトラウマを植え付ける以外で役に立たなかった二つの丘も、壁に張り付けられたあの皮も、ばらばらにされた彼女も、皮にドラマの残滓があり、時には魂すら宿る。

中の人が変わったことで表情が変わったあの「皮」も、その一つだと思う。

そうした皮を見ながら、その奥にあるものを読者は心の中で繋げることができる。

「もうこれは要らないわ」と捨てた理由が自殺を辞めたということでも愛しのあの人を殺すのを辞めたということでもなかったと気付くような「ぞっとする体験」、
某アレの位置がうっかり動かされていたことで起こる「ほっとする体験」。

サスペンスというのはこれを表す為にある言葉ではないかと思うほどにこれが面白い。

破裂する寸前の肉袋と糞袋はどこか、腐る寸前の果実のように魅力的だと思うけれど、それをぎりぎりのところで保ち続ける袋、皮、「紳士さ」自体もまた、とても健気に見える。

そして、そういったものを隠すときの小さな笑顔も可愛いし、
ぶちまける時の子供みたいな不安な顔も可愛い。

「知ってたよ」

それを受け止める顔は、大人のように優しくて、子供のように晴れやか。
チラ見せの本性をしてきた彼だからこそ、知っていたと言えたのだろう。

たった3巻。その何倍もの時を経た物語を読んだ時のような読後感が得られたのは、きっとまだ破裂していない袋の中でぐるぐると泳ぐ影を見てきた記憶が残っているからなんだろう。

パ○チラは普段覆われているからこそいいのだ。
メイドさんはミニスカよりロンスカがいいのだ。
守られているから暴き、暴かれたくないから守るのだ。

そして、そうやって「袋」を「守っていく」覚悟を持った機械の彼の傷だらけの背中が、
それを追うようにして同じ道を辿ることにした彼が、

この世界の未来の体現なのだということが最高にかっこいい。

ヴォイニッチホテル (1-3巻完) ​​




……あとね。

一つだけ糞袋肉袋の中身について言いたい。

布 団 と い う 皮 の 中 で 何 や っ て ん す か お 二 人 さ ん。

怪しいと思ってたよ!けどここまでガチめの描写されるといくらないものを掘り起こす腐女子でも反応に困っちゃうよ!!

……うん、もしも中でそういうことをやっていたとしたらって思うと色々なニュアンスが変わってくる可能性があるんだよね。「お前ら殺してやる」の色が変わる。

しかし家族としての愛でも、信長蘭丸みたいな愛でも、どっちでもありだと思う。
この話の面白い所として、「どっちでも取れる」面白さがあると思う。
原作版と映画版とアニメ版で表現・解釈が異なることによる試行的面白さに近いかもしれない。

一人の人生に沢山の可能性がある。
皮の中に包まれた沢山のまだ見ぬ可能性を体現しているということは、
隠されて曖昧になった過去があるということは、そうした沢山の枝分かれ根分かれは、
彼らの絆をより重く熱くも見せると思うのだ。



……本編のは恋だと信じたい、かなあ。





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最終更新日  2017.02.04 22:22:13
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